愛国 二十三
兵の兜には、夜間での見間違いによる同士討ちを防ぐために、白い羽が着けられていた。兜をかぶらぬ者は、金板のついた白い鉢巻でもって白い羽を立てていた。
源龍と羅彩女は兜をかぶらないので、金板のついた鉢巻を巻いて白い羽を立てていた。
馬の口には綿をかませ、紐でしばって、声が出ぬようにしていた。
「慌てず、落ち着いて歩け」
との指令を受け、兵たちは足音を立てないように落ち着いて歩く。馬もゆっくり歩かせる。
貴志は借りた鎧兜を身にまとい、騎乗し、王の軍勢を目指す。その少し前には、同じく武装した琴羽の後ろ姿。
マリーやコヒョ、リオンに、香澄と龍玉、虎碧は、土塁の上に昇り、義勇軍を見送る。
土塁から眺める景色は、闇一色。
「どうがご無事で」
と祈る気持ちでいっぱいだった。
やがて……。
夜闇から喚声が響いてきた。刻は草木も眠る丑三つ時。
全てが眠りにつく深更の闇から、眠りを妨げられた呻きの声が、響いてくる。
「夜討ちだ!」
兵たちは驚き、慌てて剣を抜き、槍を押っ取り、抗戦しようとするが。その手や、頭に、打龍鞭が振るわれて、砕かれ、吹っ飛ばされる者が続出した。
「おらおらおらあ!」
源龍は雄叫びを上げて打龍鞭を振るう。その勢いはさながら竜巻、あるいは黒い旋風のごとしであった。
琴羽の義勇軍は間近まで迫ると、馬の口の紐をほどいて、綿を除き、
「いくぞ!」
と、雄叫びを上げて、一斉に王の軍勢に攻めかかったのだった。
他の砦の兵たちも、王の軍勢に攻めかかった。
「やはり来たか!」
甲芭之は、やむなく自分の周囲だけ篝火を焚いて、寝ずに用心をしていたが。悪い予感は当たった。
「慌てるな、数は我らが勝っておる。落ち着いて対処せよ!」
その通り、砦のすべての兵力は、合わせても数千。こちらは十万である。落ち着いて対処すれば……。
「それにしても、謀られたか!」
そも、八つの砦が全て王の軍勢を恐れて降伏するなど、出来すぎだと思ったが。この夜討ちのための策略だったのだ。
「今さら愚痴を吐いても、詮なきことよ」
全ての部将が自分に反抗したわけではない。度宇をはじめとする、日頃甲芭之を慕う部将や兵は、意を同じくし、その周囲にあり、夜討ちに備えていたので。反応も早かった。
伝令は甲芭之の言葉を各所に伝えて回るが。
「暗くて何も見えない、火を、火を!」
どうにか松明なり篝火なりに火を灯してみれば……。
「よせ、わしはお前の上官だぞ!」
「わあああ!」
「おのれ、この馬鹿どもめ!」
上官は恐慌をきたした配下の兵に襲われ、やむなくこれを斬る。
というような、伝令が見たのは、寝込みを襲われて、恐慌をきたし、同士討ちする酷い有様であった。




