愛国 二十二
「情けなやとは何ですか。いかに総大将殿でも、お言葉が過ぎましょうぞ」
「命より重き王命をいただいておること、おぬしにはその自覚が足りぬ! その気楽な考えを改めよ!」
「臆病者を相手に過度な備えは、かえって恥でございます! 総大将殿こそ、もっと気持ちを大きく持っていただきたい!」
気が付けば、声を大にしての言い争いになっていた。その争う声に驚き、他の者たちも集まって、
「まあ、まあ」
と、ふたりを引き離す。
「おのれ、父と慕う甲芭之殿を愚弄するとは。味方でも許せぬ!」
引き離される両者の間に入り、甲芭之の肩を持つ巨漢の部将。相手の部将を鋭い眼差しで睨みつける。
背も高く肩幅も広い。そのうえ鞘に収まる大刀を左手に持ち、いつでも抜ける構えをする。
「な、なんじゃ、度宇殿。少し言い合いになっただけでござろう。悪意はござらぬよ」
甲芭之を父と慕うと肩を持つ巨漢の部将、度宇は今にも相手に飛び掛かりそうな怒気で、真っ赤な顔は火を噴かんとするかのようだった。
相手の部将もこの見上げるような巨漢の度宇には怯んで、後ずさりし、なだめるように言う。
「ふん、度宇殿は確かに百戦錬磨の猛将。しかし、考えるのは苦手と見える!」
別の部将が度宇をなじる。その背後に、まとまった人数を従えていた。いざ競り合いとなれば、この者たちを度宇にけしかけるのだ。いかに猛将であろうと、数には勝てまいと。
「よせ」
甲芭之は度宇をなだめる。
「しかし」
「もうよい、事を荒立てるな」
険悪な雰囲気が一気に広がり、ほとばしる。
「ふん、馬鹿々々しい」
それぞれ部将は散り散りにばらけてゆく。元の持ち場に戻ると同時に、甲芭之と度宇から距離を置くためだ。
甲芭之と度宇は、それぞれの部将から陣内で置き去りにされたようなものだった。
こうなっては、夜の備えを万全にせよと命じるどころではない。それどころか。
「甲芭之殿は、臆病者を怖がっておるぞ」
という陰口が、部将の間に広がってゆき。
せめて、篝火を点けつづけよと命じるも。
「臆病者にそこまでしなくても」
と、呆れながら、時が来ると、篝火は消された。
真っ暗になった。
そこで恐れるのは、末端の兵たちであった。思った以上に善戦され、その手強さを痛感させられた。しかし後方の安全なところにいた部将たちは、逆の気持ちだった。
「夜討ちに遭ったらひとたまりもないぞ」
消された篝火に再び火を灯そうとする者もあった。しかし。
「なにをしている。臆病者を相手に、恥ずかしくないのか!」
と上官に叱責されて。篝火を灯すことが出来ず。
兵たちの不安は増大するばかりであった。
そのころ、鬼門をはじめおのおのの砦では、
「いざゆかん」
と、門が開かれた。




