愛国 二十
そのある兵は、慶子義の命を受け、城壁まで行き。眼下の敵軍の、その部将の顔つきを見るように言われて。伝えに戻ってきたのだ。
そのある兵は、
「では、これにて」
と、本来の持ち場に戻っていった。
「天が味方に?」
「そうだ。愚者は危地にて笑い。賢者は安地においても憂う。と、古人も申すではないか」
「なるほど。聞いたことはありますが」
「とにかく、辛抱だ。夜になるまでの辛抱だ」
慶子義たちは兵をよく励まし、兵もよく応えて善戦した。
寄せ手も数に任せて猛攻を仕掛ける。しかし守り手の、必死のひとり、十人を斃すの気迫で、数の差を跳ね返し。はしごを倒したり、石を落としたり、矢で射かけて落としたり、顔に刃を突き立てて、また落としたり。
もちろん、犠牲も出る。十人斃してひとり斃れ。十人までいかず、二、三斃して、ひとり斃れ、と。城壁の上で絶命する者も後を絶たなかった。しかしその屍すら担ぎ上げて、石のように落として寄せ手に当てて、落として……。
人の世と思えぬ、修羅場が現出していた。
その様を見て、笑う王の軍勢の部将たち。
「なんの、悪足掻きよ」
「せいぜい今日までのこと。明日になれば萎れておるわ」
と、数に勝るの有利さゆえに、戦況を楽観視していた。
鬼門の砦では、物見の兵を残して、一同土塁から降りて、兵舎に入っていた。源龍などは、自室にこもって横にごろんところがって、ぐーがーいびきをかいて寝る始末。
羅彩女も源龍と同じ部屋で、同じように寝息を立てて寝入っていた。
「様子はどうだい?」
琴羽と貴志は気遣いして、笑顔でマリーとコヒョ、リオンと会った。少しでも不安を和らげられたら、と。戦えない三人を守るために、香澄と龍玉、虎碧もいた。
「ええ、怖い思いはしますが。どうにか落ち着けています」
「今日一日の辛抱だよ。明日になれば、戦は終わってるから」
「うん」
「信じているよ」
コヒョとリオンも頷いて笑顔を見せる。
「大丈夫さ。あたしらも着いてるからね!」
龍玉は得物の青龍刀を手にしながら胸を張る。香澄と虎碧も笑顔で頷く。
「夜は、砦は空になりますから。頼りにしています」
「まかしときな!」
龍玉は青龍刀の石突で床を軽く打って、心意気を示した。
「貴志さんも、残っていいのに」
「いや、策を立てたのは僕だから。現地で見届ける義務がある……」
「真面目だねえ」
「そういうわけでもないけれどね」
琴羽はややはにかむ貴志を好もしく思った。
かくして、夜になるまで暇なので、砦の兵たちはおのおの思うままに暇つぶし。飯を食ったり、寝たり、色々話をしたりと、思うままに時間が経つのを過ごした。




