愛国 十九
「それはまことか!」
「まことである!」
「ならば、その証しを見せよ!」
「お願いします」
貴志は言って、兵から白旗を受け取り、それを振るった。
「これが証しである。この白旗のもと、我ら土塁の外より一歩も動かず」
「殊勝なり! その約束を違うことなかれ」
交渉が無事成立し、使者の騎馬武者は満足そうな笑みを浮かべて、軍勢へと戻っていった。
それを眺めて、遠く、小さくなるのを見て。
「ふう、ひとまずは、うまくいった」
と、貴志はつぶやいた。
他の砦も遠目に見える。動く気配はない。
甲芭之率いる王の軍勢は、動かぬ砦を素通りし、南景の城壁まで迫った。
そう、鬼門のみならず、他の七つの砦も、同じように降伏し、白旗を掲げたのだ。
遠くから喚声が、軍鼓管楽の激しい調べが聞こえてくる。が、北からの風も弱めながら吹き、その戦の音は、風に押されて掻き消されることもあった。
それでも、遠目から寄せ手が矢を射かけ、はしごをかけ、城壁を上ろうとするさまが見えた。
矢が当たり、守備兵が城壁から落ちる様も見えた。また守備兵の抵抗に遭い、はしごから落下する寄せ手の兵も見えた。
「始まった……」
一同無言で固唾を飲んで、戦況を見守った。
十万の軍勢は、南景を完全に取り囲み、四方より激しく攻め寄せる。
「よく抗っておるが、時間の問題でござろう」
「左様。よもや八つの砦が全て降伏するなど、我らとて思いもせなんだ」
「まったく、とんだ腰抜けぞろい!」
「このまま南景を落とせば、余勢を駆って砦も全て灰にしてくれよう!」
「おやおや、降伏すれば助けるとの誓いは?」
「そんなもの! 愛国心なき叛逆の徒に慈悲など無用!」
「がははっ!」
部将は思ったよりも楽が出来ると素直に喜んでいる様子だった。が、甲芭之は鋭い面持ちのまま。
「油断大敵、用心を怠るでないぞ」
「百も承知でございまするが。そう思いつめなくてもよいでしょう」
甲芭之の戒めの言葉は、笑い声で受け取られた。
南景は激戦地となり、慶子義らは各所をめぐり、兵を励ましてまわった。
「永久と言わぬ。夜まで持ち堪えよ。今は辛抱こそ肝要なり!」
ゆく先々で、そう兵に言って励ました。
ある兵が、慶子義のもとまでやってきた。
「して、部将どもの顔つきは?」
「はい、皆終始笑顔でございました」
「笑顔、か」
「はい」
「ううむ、なんたる余裕」
そばの臣下が唸るように言うが。慶子義はその兵の肩を軽く叩いて、
「いや、むしろ天は我らに味方せり、だぞ! よく見た」
と、ぱっと顔を輝かせて、そのある兵を褒めながら言った。




