愛国 十七
「ううむ、その使者を知る者は?」
同志の者のみならず、他の上下の臣下を集め、遺骸を検分させれば。
「この者は、甲芭之殿に仕える、余定心なる者でございます」
と、ひとり言った。
「甲芭之殿の……!」
なるほど納得である。甲芭之からも、覚悟を決めて務めを果たすよう、言われていたのであろう。
「支度せよ!」
慶子義は叫んだ。
「王は大軍を以って南景に攻め寄せてくるぞ。これを迎え撃つのだ」
慶子義の大喝で、一同気が引き締まったようである。瞬時に顔つきも変わった。伝令は南景の各所に、さらに、八つの砦へと飛んで、戦支度を命じた。
「いよいよ来るか!」
と、緊張感がほとばしった。
使者の遺骸は、手厚く弔ってやった。いかににっくき者とはいえ、覚悟を決めた者を必要以上に辱めることは憚られた。
南景は騒然となった。
太守慶子義やその同志らは、君側の奸を除かんと、必死の思いで王の軍勢と戦をするという。慶子義自身、南景の住人から頼られ人気のある太守ではあるが。王の軍勢ともなれば大軍であろう。さすがに勝てるのかどうか、心許なく、不安も大きかった。
命じて部将に南景の各所をまわらせて、
「案ずるに及ばず。我ら必勝の策あり。必ずや戦勝し、王を諫めるであろう」
と触れさせた。
効果はあったようで、大きな恐慌はなく。戒厳令を敷いて、外出を禁じれば、多くがそれに素直に従った。
日頃の善政の成果でもあった。
戦支度をし、鎧をまとった慶子義は謁見の間にて、同じく鎧をまとった、集まった同志や臣下に対し、貴志より聞いた策を話をする。
策のみならず、勝てる根拠も話す。
「なるほど、一理ありますな」
記堂栄ら同志や臣下一同は納得して頷く。
「しかし、我が領内より、そのような義勇軍が来ておるとは。頼もしい限り」
「戦が終われば、厚く遇し、恩賞もやらねばなりませんぞ」
「おお、言われずとも」
かくして、必要な打ち合わせは済み。南景城の兵の配置も済み。あとは待つだけである。
王命で軍を組織し、敵地へ攻め入ると言っても。すぐに出来るわけではない。
まず最初の一日、軍の組織編成、次の日に進軍開始。夕暮れ時に河に着き。翌日渡河。と、南景や北の四つの砦から王の軍勢が見えるようになるまでに数日を要した。
それまでに、他の義勇軍数団体が南景に着き。大将は慶子義と謁見し、城内に入って戦を待っていた。
王の軍勢、十万を数えるという。対する南景の軍、三万ほど。
兵力差は三倍以上だ。
この王の軍勢十万は、景都のみならず、北景、東景、西景の軍勢も合わせてなのは言うまでもない。
そして総大将は、甲芭之。




