愛国 十六
「はい。我ら、国を愛せばこそ憂うという、その気持ちをしたためた連判状を、王に奉る所存であるが」
「確かに、王様が我らの諫めをお聞き入れくださり、戦がないにこしたことはない」
「しかし、王様とて、あのような乱暴な愛国心の押し付けを、ひとりでにするようになるとも考えづらいが」
「君側の奸じゃ、君側の奸がおるのじゃ」
「うむ、連判状にて、君側の奸をお除き遊ばれればよいが」
「そうでなければ、君側の奸を除くため、我ら武威に訴えるより他なし」
そう、好戦的なことを言うのは、琴羽の地元を治める記堂栄という者であった。
「いや、その君側の奸こそ、甲芭之殿ではないか。昨日珍しく顔を出したかと思えば、昔の誼を利用し、慶子義殿を暗殺しようとしたではないか」
「ともあれ、善は急げでござる、さっそく諫言の状をしたためいたしましょう」
慶子義は皆の見守る中、諫言状をしたためる。
内容は——。
臣慶子義ら一同申す。
我ら一同、愛国心ゆえに憂うものである。
愛国心大事は重々承知なれども。過ぎたるは猶及ばざるが如しという。
その過ぎたる愛国心は、国を愛すれども、人を愛さずの様相を呈し。
人、王の御心を知る機を得ず。王の身や、国のゆくすえを嘆くことしきりなり。
そもなにゆえにそのようなご心境になられたのか。
王に過ぎたる進言をなす君側の奸ありや、なしや。
もし、君側の奸により、お心を濁らせられるのであらば、我ら一同、命に代えても、王様のため、君側の奸を除く所存なり。
我ら一同の言か、君側の奸の言か。
王のご英断を期するものなり。
というものであった。
これに、それぞれ署名し。
使者に持たせて、都に届けさせた。
翌日、塩漬けにされた使者の首が送り返されてきた。
首が答えだった。
さらに酷いのは、口の中には、王に送った書状がくしゃくしゃに丸められて、詰め込まれていた。
「なんたる酷さよ」
誰かが、堪えきれず厠へと駆け込み嘔吐する有様である。そこまでいかずとも、顔面蒼白の者が多かった。記堂栄すら、茫然自失の態である。
「是非もなし!」
ひとり、慶子義のみが火を噴かんがばかリに、顔を真っ赤にしていた。
「王よりの使者にも、同じことをしてやれ!」
そう叫んで命じたものの。
「大変でございます! 王よりの使者はすでに自害しております!」
召使いが飛んできて、早口で慌てた口調でそう告げた。
首を送り返す役割をしたのである。いかに慶子義であろうと、憤怒の炎を燃やすことは火を見るより明らかである。使者も覚悟して、南景に来たのであろう。




