愛国 十三
「それに、甲芭之なる人あるが、これもまた愛国心強き国士ゆえに、王のお気持ちを尊び、進んで王命に従い、軍勢を率い南景に攻め寄せるであろう」
甲芭之。その名を聞き、通心紙で見たことを思い出す。決して悪人というわけではなく、国士であるが、国士であるがゆえに……。
「残念ながら、戦をするという前提で、ものを考えざるを得ませんか」
「そうなるでしょう。覚悟を決めねばなるまい」
言い終え、慶子義は琴羽と貴志を交互に見て、特に貴志に強い視線を注ぐ。
「貴志殿、何か良い案はありませぬか?」
「案ですか? それは、兵法と申し上げてよろしいでしょうか」
兵法という言葉を聞き、慶子義は我が意を得たりとばかりに、左様と、強く頷いた。
「……」
貴志は一瞬黙った。義勇軍の大将は琴羽だ。ものを訊ねるなら、琴羽に先に問うのが道理ではないかと思うが。その琴羽より、貴志に視線が注がれた。
「私は軍師として義勇軍に入れてもらったとはいえ、にわかの者、まず琴羽殿のお考えをと思いますが」
「いや、貴志殿の考えをお聞かせたした方がいいと、あたしも思う」
琴羽は貴志にそう譲った。
(いいのかなあ?)
という疑問を感じてしまった。変な違和感を禁じえなかった。しかし言わねばことも始まらぬ。
「このお城の他に、砦の類はおありか?」
「はい、あります。この副都護衛のための砦が、小さいながら八方に」
慶子義曰く。南景は都を守る東西南北の副都のひとつだが。それと同じように、各副都を護衛するための砦が東西南北の八方に築かれ、常に兵が置かれていた。
「なるほど……」
貴志は考えた。通心紙で見た地図を思い出しながら。
そして——。
「どうしても戦となった場合、僕はこう考えます……」
と、自分の考えを述べれば。慶子義はまたも、我が意を得たりと、強く頷き、納得の様子を見せた。
「あ、そういえば」
と琴羽が口を開く。
「南景の南にまた山がありますね」
「はい、あります」
「この山は、吹く風の向きに影響を及ぼしてはいませんか?」
「ふうむ、風と山、ですか。うむ、そういえば、古老の臣下から聞いたことがあります」
「今、季節がら、主に北からの風が吹いていますね」
「そういえば、そうですな」
慶子義は、琴羽が何を考えて、何を言おうかと思っているのかはかりかねた。
「戦の間にこうなるかどうかはわかりませんが、もし、なった場合に備えて……」
「……。ふむ、なるほど、一考に値しますね」
「もしもの時にお備えあれば、戦況はおおいに有利となりましょう」
貴志は琴羽の考えを聞き、感心しきりで、よく頷いた。なかなかどうして、彼女も十分軍師の素質があるではないかと。
ひと通り話し終えると、慶子義は召使いに紙と筆を用意させ、何かしたためると。
「これを早馬の伝令に預け、鬼門の砦を守る元賢のもとに届けさせよ」
「かしこまりました」
召使いは慶子義のしたためた書を預かり、部屋を退出した。




