愛国 十二
貴志はリオンの通心紙で見たことを思い出す。
「よくぞ来られた。このような狭い場所で申し訳ない。ささ、面を上げられよ」
跪いていた琴羽と貴志に、立つよう促し。円卓の椅子に腰かけるよう、手で指図し。ふたりはそれに従った。
「そこもとらの憂国の志はうかがった。私も新たな同志を得て嬉しく思う。しかし、事は一筋縄ではゆかぬ。我らの志は、王の知るところであろう」
「それはどうしてですか?」
琴羽が問えば、慶子義応えて言う。
「うむ、内通者がおったのだ。気付くのが遅く、迂闊であった」
貴志の脳裏に、あの、通心紙で見たことが思い浮かぶ。
「慶子義様、軽いものですが、ひと通りのものをお持ちしました」
と、盆を持つ侍女をともなって部屋に来たのは、慶子義の妻、麗燦であった。副都太守の妻だけあり、美しさと威厳を兼ね備えた、才色兼備の佳人であった。
「おお、気を遣わせるな。卓に置いてくれ」
麗燦は琴羽と貴志とを見て、笑顔で会釈し、侍女に指図すれば。侍女は茶の入った杯に、軽くつまめる甘菓子の乗った盆を円卓に置いた。
「……あの、喬琴羽様と申されましたね」
「……、……はい」
「お肌が、黒うございますが、南方の……」
「はい、私は南方の生まれですが、帷国の者としてお国のお役に立ちたいと、参った次第でございます」
「そうでしたか。ご加勢、わが夫とともに、感謝申し上げます」
麗燦はうやうやしく部屋を後にした。
「……」
貴志は何か引っかかるものを感じるようなそうでもないような、小さいながら違和感を禁じえなかった。琴羽も、肌の色を言われて、一瞬間を空けてしまった。
「さあさあ、遠慮なくいただいてください」
慶子義にうながされて、琴羽と貴志は厚意に甘えて、茶と甘菓子を喫した。
「戦になるでしょう」
慶子義は茶と甘菓子を喫する琴羽と貴志に率直に言う。
「王は猜疑心の強いお方。翻意なく、ただお国と王のためを思えばこそ、お諫めするだけのことだが。愛国心なきとみなされ、軍勢を繰り出すことは十中八九は確かであろう」
「戦になりそうですか」
琴羽の言葉に、慶子義は頷く。
「このところの、悪行……、そう言わざるを得ぬ振る舞いも目に余る。王を諫める書物は発禁処分となったのみならず、その著者は、死罪になったこともある。一度や二度ではない、何度でも、だ」
「……」
貴志は無言でうなずく。暴君による暴政のよくやることである。
「諫めるものを容赦なく死に追いやるほどに、お心も追い詰められておる。それがしは、自分で言うのもおこがましいが、王の覚えもめでたく、副都太守にまでしていただいた。それだけに、失望も大きかろう」
「戦になるのは、防げませんか?」
「戦をしたくないのが本音ではあるが、難しいでしょう」
貴志の問いに、慶子義は悲痛な面持ちで応える。




