尊法 二十九
香澄は夜空を見上げながらささやくように言う。
「そうね……。私たちは砦に帰りましょう」
「あいよ。鵰ちゃん、頼むよ!」
穆蘭の言う通り、大鵰は夜空を駆ける。鬼門の砦に向かって。
で、趾でつかんだ第六天魔王はというと。
しばらくして、地上に大火が見えてきた。
琴羽の閃きによる、東景の軍勢への火攻めの火だと、源龍と香澄は察した。まだごうごうと燃え盛っている。誰も消す者がない。みんな逃げ出してしまった。
大鵰は趾をひらいて、第六天魔王の遺骸を大火へと投下した。
遺骸は火の中に呑まれて、見えなくなった。
源龍と香澄は無言でその様を見守るしかなかった。
・・・
信岳敦と合流した琴羽たちは景都を目指した。その途上、他の東景の軍勢とも合流して数を増やし。少なくとも一千以上の軍勢となった。
もちろんこの東景の軍兵全てが素直に琴羽と行動を共にするといったことはなく、複雑な気持ちもあるのだが、そこを信岳敦に説得されて、合流したという次第。
景都を目前にし、守備兵との競り合いを覚悟していたが。互いに松明の火が見えるところまで来ても、何の反応もない。
何事かといぶかしみつつ、信岳敦に琴羽、貴志が先駆けて城門間近まで来てみれば、城門まで開いているではないか。さらに、多くの人々が城外にて不安そうにたたずんでいるではないか。
その人々は、この軍勢を見て、恐慌を来たして逃げ出すではないか。
「静まれ、静まれ! 我は信岳敦。我らは東景の軍勢と喬琴羽殿の義勇軍を合わせたものである! お前たちに危害は加えぬ!」
信岳敦は名乗りながら人々にそう呼びかける。貴志と琴羽も名乗りながら同じように呼びかける。そこでようやく人々は落ち着いた様子を見せて。へたりこむ人まであった。
「何があったんですか?」
貴志と琴羽が問えば、
「城内にて、愛国派の残党が蜂起して、騒乱状態なんです」
「それどころか、王宮では慶子義殿は実は人外の魔物で、それを誰かがやっつけて、大鳥に乗って逃げたそうです」
「な、なんだって!?」
愛国派の残党の蜂起にくわえて、慶子義が人外の魔物で、誰かに斃されたなど。
「失礼ですが、あなたは?」
「私は王宮で文官をしておりました査葉と申します。慶子義殿ご乱心のうえ、魔物の正体を現したるを見て、あまりのことに魂消て城外まで逃げ出してしまったのです。お恥ずかしい話ですが」
「いえ、ご無事でなによりです」
貴志は査葉を慰める。
「慶子義殿の、文化教養を愛するというにはあまりに苛烈なやり方、内心疑問を抱きつつ、恐ろしくてお諫めできませなんだが。よもや人外の魔物であったなど……」
査葉はそう言ったきり黙り込んでしまった。
それに代わるように、別の誰かが話をつづけた。
「王宮内は阿鼻叫喚。私も恐ろしくて動けず、慶子義殿が斃されてからほうほうのていで逃げ出しましたが。愛国派の蜂起まで起きて。もう本当に、我が命は風前の灯でございました」
「うむ、ここで立ち話をしている場合ではない! ゆくぞ!」
信岳敦は兵を率いて開かれた城門から城内になだれ込み、蜂起した愛国派の兵と渡り合った。
それに琴羽たちも続いた。
「貴志さんは王宮を頼むよ!」
「わかりました!」
「貴志さん、私もご一緒します!」
「あたしもいくよ!」
貴志は王宮目掛けて駆ける。これに龍玉と虎碧も行動を共にした。
途中立ちはだかる愛国派の兵を打ち払いながら、王宮まで来てみれば。査葉の言う通り、その中も騒がしかった。愛国派の兵が入り込んで狼藉を働いているようであった。
貴志と龍玉、虎碧は王宮内に駆け込んで。狼藉を働く愛国派の兵を打ち据えれば、衛兵その加勢に心を励まされて、もうひと頑張りと奮闘し。ついには愛国派の兵を王宮から追い払った。




