尊法 二十八
確かな手ごたえがあった。第六天魔王が起き上がるとともに七星剣は左足の裏の腱を切り。たまらず、足に力入らず。思わずよろけ。
その間に打龍鞭を持つ源龍が迫る。
「このワニ野郎!」
と叫びながら、得物を上段に振るい上げ。
「お目目つむって、おねんねしやがれ!」
ぶうんと、打龍鞭は風を切り、思い切り振り下ろされて。第六天魔王の脳天を直撃した。
頭骨砕けて、血も噴き出し。第六天魔王、目も虚ろに、横倒しに、どおっと倒れ込んだ。虫の息だった。
「なぜだ」
か細い声。
「なぜ、我の言う通りにせぬ。さすれば幸せになれるというのに……」
「そんなやわじゃねえよ」
源龍は忌々しく応えたが。以後の第六天魔王の返しはなかった。絶命したのだった。
香澄は胸中思った。さきほどの言葉は、慶子義の言葉だったのか、第六天魔王の言葉だったのか。
ざわざわざわ! と王宮がひときわ騒がしくなった。中庭で人ならぬ人外となった慶子義と、源龍と香澄の壮絶な闘いを、憑かれたように眺めて。決着がつくと、憑き物が落ちたように我に返って、ざわざわと騒ぎだして、右往左往。
「もうここには用はねえ、いくぞ!」
「ええ」
源龍と香澄は王宮を出ようと足を動かそうとした時、夜空から耳を突くような猛禽類の鳴き声。なんだと見上げれば、大鵰。
「あれは、あいつか」
「穆蘭、来てたのね」
「おおーい! 源龍、香澄! 生きてるー!?」
大鵰は高度を下げて、穆蘭の顔も見えてくる。
「見りゃわかるだろ!」
「ま、えらそーね! 迎えに来たけど、源龍は乗せるのやめようかな!」
「ああ、てめえに借りなんぞ!」
「四の五の言わない! 頼むわ、穆蘭!」
「香澄が言うなら、仕方ないね!」
香澄は源龍の腕を掴むと高く跳躍し、高度を下げた大鵰の背に、源龍とともに乗った。源龍はおいおいと言いつつ香澄に引っ張られるままだった。
「さあいくよ!」
大鵰は高度を上げる。と思いきや、降下し、息絶えた慶子義、もとい第六天魔王を趾でつかんでから、上昇する。その様は地の蜥蜴が鳥になすすべもなく捕らわれるかのようであった。
「どうすんだよ、こんなの」
「燃やすわ」
「燃やす?」
「そう、燃やすんだよ」
「どこにそんな火があるんだ?」
「それはあとのお楽しみ」
穆蘭は不敵な笑みを見せる。
大鳥の出現は王宮の混迷をより深めて、さらなる恐慌を来たして右往左往で何も出来なかった。おかげで脱出は簡単に出来た。
「しかしこいつ夜目も効くのかよ。都合がいい展開だが、助かるんならまあいいか」
「そうね、助かるのが一番ね」
三人大鵰の背に乗り、地上の喧騒を見下ろす。
穆蘭と大鵰は、天狗との闘いに勝利してのち、一旦休息し。回復とともに景都に向かって夜空を駆けた、というわけである。その景都の王宮に至った時、丁度源龍と香澄、第六天魔王の闘いは終わっていたのは、頃合いもよかったものだった。
大鵰の背から地上を見下ろせば、景都はまたも騒然としていた。一旦は鎮圧された愛国派の蜂起だが、またも起こって。守備兵と愛国派の兵は刃を交えている。
しかし争乱は景都の中だけではないようで、その外では、どこかの軍勢が景都目指して進軍していた。
「おいおい、もうしっちゃかめっちゃかだな」
源龍が忌々しく吐き捨てる。いかに闘志あふれる源龍でも、終わりの見えない争いにはさすがにげんなりさせられるものだった。
「寄せ手は琴羽さんたちだよ!」
「なに!」
源龍さすがに驚く。穆蘭は事の次第を話せば、香澄は感心して頷く。
「よくも、まあ。うまくいったもんだな」
「途中で降りて琴羽さんと話をしたんだけど。もし源龍と香澄を拾えたら、そのまま砦に戻れって!」
「まあ、貴志がいるなら、なんとかなるだろ」
源龍は地上の喧騒を見下ろし、らしくもなく、
「ふう、ったくよう」
と、ため息をついた。




