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尊法 二十七

「本のひとつも満足に読めぬ愚図めが、分不相応にも我が頭を叩き割るとな。ならばお前の頭を握りつぶしてやる!」

 香澄はどうにか第六天魔王の間合いに入ろうとするが、尾で牽制されてしまう。なかなか巧みな尾捌きに、さすがの香澄もてこずっているようだ。

「誰が愚図だとこの野郎」

「ほほう、この期に及んでもまだそんな負け惜しみが言えるか。よかろう、少しは手心をくわえてやろうほどに、言いたいことがあれば言えばいい、愚図よ!」

 源龍は顔面を掴まれ、持ち上げられ。両手で相手の手首を掴んでどうにか抗おうとするが、なかなか逃げられない。

「ああそうだな、オレは字の読み書きも出来ねえ」

「なんと、字の読み書きも出来ぬとは。お前のような愚図こそが世に乱をもたらす魔物である。我はお前のような愚図をなくし、世に平穏をもたらすため、……お前のような愚図を皆殺しにするのだ。新たな法を布き、愚図はもれなく処刑とするのだ!」

「愚図愚図うるせえよワニ野郎が」

「それだけか、まだ何かないか。その様子では語彙もなかろう。字の読み書きも出来ぬ、語彙もない。そんな者、生きるにも値せぬ!」

 第六天魔王の手に力がより込められる。

「さらばだ。馬鹿は死ね!」

 尾に何かが当たる感触。香澄だった。第六天魔王はにやりと笑った。が、しかし。右の横腹に何かが突き立てられる痛覚、感触もした。

「何ッ!?」

 驚きのあまり思わず力が緩み。その隙を突いて、源龍は握力から逃れた。見れば、香澄がいつの間にか懐にいて、横腹に七星剣を突き刺しているではないか。

 香澄はただ尾に当てられたのではない。尾に当たる直前、横飛びに跳躍し、うまく力を逃がし。尾に当たるとともに、腕を回して掴んで、そのまま懐に飛び込んだ、というわけだ。その時源龍をからかうことを楽しんでいたため、そこまで注意が及ばなかった。

 香澄はすぐに剣を抜き、後ろへ飛び退った。源龍も倒れ込むことはなく、すぐに打龍鞭を拾い、構え直す。

「この我をたばかったのか、愚図どもめッ!」

 怒りの火焔が放たれる。ふたりは素早い動きで火焔をかわす。火焔にかつての勢いがない。右の横腹を刺され、痛みで力が上手くはいらず、火焔の勢いもそがれたようだ。

「うおおー!」

 源龍は突進し、間合いを詰める。第六天魔王は素早く振り向き、尾を振るい、源龍に当てようとする。その間に香澄も間合いを詰め、七星剣を突き出し、刺突を繰り出す。

 源龍は咄嗟に打龍鞭を捨て、尾と真正面から当たり、足を踏ん張り、力を込めて捕まえた。

「……ぐッ!」

 食いしばる歯間から少し血が漏れる。鎧もまとっているし、横腹を刺され力も込められないだろうからと思って逃げずに捕まえたが、それでも衝撃はあり、多少は血を吐いた。しかし痰が少し赤くなっただけのことだと、強がった。

「うぬ、おのれ!」

 尾を捕まえられ、動きが鈍った。その間にも香澄の七星剣の切っ先は迫り……。

 ついに、その分厚い胸板を貫いた。

 その刹那に剣を抜き、後ろに飛び退れば、火焔が噴き出される。しかし横腹と胸板を剣で突かれて、いよいよ苦痛増して、火焔の勢いも弱まった。

「オレは字の読み書きは出来ねえが……」

 源龍は尾を掴む腕にさらに力を込める。

「ワニ野郎を振り回すことは出来るんだよこの野郎ッ!」

 渾身の力を込めれば、第六天魔王よろけて。ぶうんと尾から振り回され。腕を離せば、ごろんと転がる。

 その間に打龍鞭を拾う。香澄は駆ける。

「おのれ、小癪な愚図が!」

 急いで起き上がろうとする第六天魔王との間合いを一気に詰める香澄は背後に回り、身をかがめて、七星剣を下段に構えて。第六天魔王の左足の足首の裏目掛けて、刃を振るった。

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