尊法 二十四
「!!」
源龍はすぐに鎧をまとい、打龍鞭を手にした。香澄も七星剣を腰に履き、臨戦態勢。
どやどやと武装した衛兵が集まってくる。
その集まった衛兵が二手に分かれたと思うと、その間に慶子義!
ただならぬ形相をしている。
思わず源龍は不敵な笑みを浮かべる。
「お前たち、お前たちは、魔か、天人か!」
などと慶子義は大喝した。
「なんだ、なんかいいことでもあったか?」
源龍は慶子義の慌てたような面持ちを見て、にやけてからかう。獲物が向こうから来てくれたのだ。
香澄は黙って成り行きに身を任せている。
「ううむ、忌々しい奴め。無学な者はこれだから嫌いなのだ」
「安心しな、オレもおめーみたいな堅物は嫌いだ」
「なんたる無礼者。なぜ貴志殿はこのような輩と……」
慶子義は歯噛みするが、源龍と言い争っても仕方がないことに気付く。
「いや、お前たちに話すことなどない。そこの女ともども、成敗してくれる!」
と言ったはいいが。衛兵らは石のように固まって、動かない。
なにせ、あの度宇を討った豪傑である。が、慶子義もそれはわかっていた。数に任せて討ち取ることはもちろん考えたが。衛兵のやる気というか、士気が低い。慶子義はその理由を考えた。
(どうする、ここは一旦帰すか)
「へへ、どうしたんだ。かかってこいよ。度宇みてえなやつもひとりくれえはいるだろう」
打龍鞭を肩に担いで源龍は得意げに衛兵を睨む。香澄は静かにたたずんでいるが、臨戦態勢なのはみてわかる。技量のほどはわからないが、源龍にとって姉のような存在であるというからには、やはり武術に長けているのであろうと、衛兵は考え、恐れた。
(不甲斐ない奴らめ!)
源龍と香澄に怖じて、戦意なき衛兵にも慶子義は怒りを禁じえなかった。まだこのふたりは知らないが、南景と東景の軍勢は、鬼門の砦の琴羽たちの義勇軍に敗れた。そのことも、王宮の衛兵の士気を低くした一因であると思いいたった。
南景の軍勢は先駆けて攻めるも大鳥に襲われ敗走、記堂栄は地元に逃げ帰った。東景の軍勢は、河の北岸河港にあるところに、風向きが変わり、その変った風向きを利用した火攻めに遭い、これも大負けも大負けで敗走。
この報せは王宮を揺るがしたものだった。
「あやつら、まこと、人か?」
と、慶子義に乞われて軍の派遣を許可した陰陽君も恐れて震え、私室に引き籠り。慶子義も魂消た気持ちは禁じえず。これが衛兵にうつって、士気を下げた。
「……」
慶子義はひたすら歯噛みばかりだったが、ようやく、
「ええい、不甲斐ない者どもよ。ならばせめてここを動くな!」
と、ようやく口に出し。衛兵らは、その通り石のように固まったまま待機した。
「お前たちは、魔か、それとも天人か」
「何言ってんだこいつ?」
悔しさのあまり正気を失ったのかと思われたが。慶子義のまなざしは、確かに常軌を逸して禍々しいものを感じさせた。
「ならば、私も同じように、魔か、天人に等しいものにならねばなるまい!」
「!!」
香澄は咄嗟に七星剣を抜き放った。源龍もにわかに殺気を覚えて、打龍弁を構えた。
見よ、慶子義の顔ににわかに肉のこぶが出来たかと思うと、こぶは膨れ上がりあっという間に顔を覆い、さらに色や形を変えて、その顔を全く別のものにしてゆく。それは黒い、頭の左右に角の生えた爬虫類の、龍のような顔だった。さらに、その目は真っ赤。手足も膨れ上がり、爪も伸び。胴も膨れて。たまらず服は破れて全裸となった。
その体躯は筋骨隆々として、黒い、赤い目の龍の顔。さらにばきばきばきという骨や肉が破れるような不快な音がしたかと思えば、背中からは黒い蝙蝠を思わせる羽も生えて、腰からは太い爬虫類の尾まで生えてきたではないか。




