尊法 二十三
燃えるような真っ赤な髪に、口を覆う赤い髭。肩幅広く恰幅の良い、豪傑風情の武将だった。
信岳敦の赤い髪と髭は遠方の異民族の血によるものであろう。琴羽と虎碧もそうだが、様々な民族の混血など珍しいものではなかった。さらにいえば、龍玉は人と九尾の狐との混血ではないか。で、今は耳と尾を隠せている。
ともあれ。
東景の者!
義勇軍の兵らの警戒心が一気に増す。この信岳敦らも、あの大火の中を必死に逃げてきたのであろう。が、それがなにゆえに景都にゆくのであろうか。
「信岳敦とやら、我らを恨まぬのか!」
「否!」
即答で信岳敦は答えた。
「風を、さらに大鳥を操る戦巧者。なんで凡夫無駄な抗いをいたし申そうか」
北からの風が、いつの間にか南からの風になり。その時を見計らって大鳥までよこして、絶妙な火攻めを仕掛け、東景の軍勢は総崩れ。大火を後にして逃げるしかなかった。そこまでの事を成す琴羽に対し、復讐心よりも畏怖の念があると、信岳敦は語った。
「それよりも!」
信岳敦はさらに言う。
「我らに無駄な戦をさせ、一敗地に塗れさせた慶子義に報復として、なんとして一泡吹かせんと思うものである。琴羽殿、どうか我らにお力添えを願わん!」
なんと、自分たちを散々に負かせた琴羽に力添えを乞うてきたではないか。各々さすがに面食らった。
・・・
さて香澄と源龍である。
景都にて騒動起こるを好機をして、王宮に向かったのだが。
いざ着いてみれば。
「お待ちしておりました」
と、官吏に丁寧に出迎えられて。かえって呆気に取られたものだった。
もちろん罠かもしれず、最大限警戒しながら、案内されて。
空き室をあてがわれた。
王宮だけあって、それなりに小ぎれいで、居心地のよい部屋であるが。
慶子義はどうしたのかと問えば、
「慶子義様はご多忙の身ですので」
と答え。さらに、
「後から追々話を聞けば、源龍殿に咎なく。役人の行き過ぎであることがわかりまして。直接会ってお詫びをしたいが、今は多忙ゆえ、ここでしばしお待ち願いたいとのことでございます」
とも答えたのだった
「っていうか、反乱起こってるぞ、火ぃ出てるぞ」
「はい。すぐに手を打って、兵や役人を派遣しておりますから、もうすぐ収まるでしょう」
などと、源龍の言葉に呑気に応えたものだった。
香澄は静かに成り行きに身を任せている。
「拍子抜けするんだが、どうしろってんだよ」
「ですから、ここでお待ちください。いずれ慶子義様がおうかがいいたしますれば」
「はあ。仕方ねえなあ」
源龍は打龍鞭を床に置き、椅子にどっかと座り、天井を見上げる。
香澄と源龍があてがわれたのは、同じ部屋だが、部屋の真ん中に屏風を立てていた。
それから香澄と源龍はここでしばしの時を過ごすことになった。
あてがわれた部屋は過ごしやすいし。美酒、美食も与えられた。その上に、源龍にはなんと美女まで用意するという、厚遇ぶりであった。
しかし源龍は美酒と美食は受けたが、美女は断った。深い理由はなく、美女に食指が動く性質ではなかった。源龍をその気にさせるのは、血沸き肉躍る乱であった。
その間、反乱は鎮圧され、火も消し止められたことも告げられた。
香澄と源龍もずっと同じ服を着続けることはさすがにせず、用意された新しい服に着替えたし。風呂も入れてもらえたし。
中庭に出て、それぞれの得物で鍛錬に励むなど、まあまあ自由行動も許されて。それなりに快適に過ごせたものだった。
もちろんずっとこの調子で王宮にいられるとは思っていなかったが。それはあらぬ成り行きで終止符を打った。
ある夜、王宮がにわかに騒がしくなった。火攻めに遭ったとかなんとか、とにかく騒がしい。どうも戦を仕掛けて、負けたようだ。で、どこと戦をしたのかと思えば、鬼門の砦。




