尊法 二十二
「鵰ちゃん!」
その首筋を軽く叩けば、大鵰は天を向いて、一気に速度を落とした。穆蘭はしめたと、にっかと笑み、その背から跳躍し、落下。天狗との距離は縮まるどころではない。
「何ッ!」
急な減速に驚き、衝突を避けるためその下へと逃れる、というとき、
「もらったあぁー!」
という穆蘭の気合の一声。つま先までぴんと伸ばした姿勢で、青い珠の七星剣を突き出し、頭から落下し、その先には、天狗の背中。
「むっ!」
しまった!
と思ったその刹那、青い珠の七星剣は天狗の両翼の間を刺し、腹まで貫いた。
瞬時に剣は抜かれると共に、青い珠の七星剣さらに閃き、両翼を切り落とした。それから、その背を思い切り蹴って、跳躍すれば。大鵰。
穆蘭は上手く大鵰の背に乗る。
天狗はというと……、
「うおおおぉぉぉー!」
悲鳴をあげながら、大火の中へと、切り離された両翼とともに落ちてゆくばかりで。ついには火に飲み込まれて、その姿は見えなくなった。
「ふんだ、どんなもんだい!」
穆蘭は大得意で、天狗が火に呑まれるのを見届けると。河の上空を渡り、南岸の河港付近、琴羽たちのいるあたりで大鵰を着地させた。
「お兄さま、天狗は仕留めましたわ!」
穆蘭は兄と慕う貴志に、喜々として戦勝報告。
「あれは天狗だったのか、それに勝つとは!」
「この少女もたいしたものだ!」
と、兵たちは穆蘭と大鵰に賞賛を惜しまなかった。
琴羽はうんと力強く頷いた。貴志と虎碧、龍玉も休息出来て、いざと立ち上がった。
「穆蘭、よくやったね!」
「ええ、私、頑張りましたわ」
穆蘭は特に貴志から褒められることに、さらに笑顔を輝かせた。
「お兄さまっこも、頑張ったねえ」
「そうですね、みんな、頑張りました」
また戦いは済んでないが、試練をひとつひとつ乗り越える手ごたえは確かに感じていた。
琴羽は河港勤めの役人や水夫らと話をし。船に乗る。船を用意しているとはいえ、咄嗟に五百弱の兵を渡河させることは出来ず。百名までがせいぜいだということなので。残りの四百弱は砦に帰らせ留守を守らせ。
選りすぐりの兵百が渡河をする。
大鵰といえば、穆蘭はともかく、やはり疲労もあり、四百の兵に先んじて砦に戻って、休ませ。それから景都に赴くこととなった。
北岸の大火はごうごうと燃え続けている。自分たちで起こした大火ながら、改めて火の恐ろしさを禁じえなかった。
風は南から吹き続けている。いつ北からの風にもどるのかわからないが、すくなくとも今夜のうちは吹き続けるだろう。
大火のある河港には行けないので、さらに西の上流にある河港から上陸することとなった。
船は風に乗っていい感じに河を渡り。河港が見えてくる。
「あっ」
琴羽たちは思わず声を上げた。篝火が多く焚かれ、河港に軍勢があるのが見えた。数はさほど多くなさそうだが、それでも数百はいそうだ。
「ま、楽に行けるとは思ってなかったけどさ」
龍玉は青龍刀の長柄を強く握り、臨戦態勢。
「やらねばならないか」
「不本意ですけれど、仕方ありませんね……」
貴志も六尺棒を強く握り。虎碧も剣を抜き。他の面々も同じく。あの河港の勢力を突破することを覚悟したが。
「おおーっい、おおーっい! お前たちはどこの手勢か、名を名乗られよ!」
と、河港にて手を揮いながら、何者か声を上げる者があった。何事かと琴羽は、
「何者か、であるか! 我は鬼門の砦を預かる喬琴羽と、その手勢なり!」
と言えば。
「おお、喬琴羽殿の義勇軍でござるか! 我は信岳敦! 東景の者なるが、思うところあって手勢と共に、景都にゆく途中である!」
と言うではないか。
夜なので姿はよく見えなかったが、近侍らしき者に松明を持たせて、その明かりで徐々に姿が見えてくる。




