尊法 二十一
「本当に馬鹿野郎だよ、もう物の怪どもはとっちめてやったってのに」
鬼が四体仕留められているのを兵たちは見て、四人がいかに奮戦したかを痛感した。
恐慌をきたし、逃げ出し、へたりこんだ兵たちであったが。そんな我が身を恥じ、勇を鼓して戻ってきた、というわけだが。
「これを、お前たちが」
「まあな」
「すげえや、琴羽、お前はやっぱりオレたちの大将だ!」
兵たちは琴羽たちを賞賛する。
「だけどまだ終わりじゃないよ、空を見な!」
と夜空を指させば、空中戦。
「そうか、あれか」
「遠くてよくわからんが、穆蘭とやりあってんのは、何だ?」
地上から両者の姿ははっきり見えない。空高くの上に夜である。しかしこんな夜空をあの大鵰はよく飛べるものだと感心もさせられた。
「くそ、高すぎて矢も届きそうにないな」
弓矢を得意とする者もこの中にはいるが、届かぬと歯噛みする。
河の北岸はごうごうと燃え続けている。燃料をふんだんに積んだ軍勢である。兵たちはとうに逃げ出し、後に残された物資はひたすら燃え続ける。
記堂栄の時と同様、大鵰の存在は東景の兵たちをおおいに驚かせ、火攻めとともに士気を喪失させたことは確かだった。
「そっか、向こうに敵兵はいないんだ! それなら……。鵰ちゃん、怖い思いさせるけど、ちょっとこらえてね!」
天狗と空中戦を繰り広げていた穆蘭であったが、大鵰をあやつり、河の上空を飛ばせて、北岸の大火の上に達した。もちろん天狗も追ってきた。
「この大火に落とそうというはらか。しかし落ちるのはお前だ!」
「わかってんなら話は早いね!」
穆蘭は舌を出し天狗を挑発した。香澄と瓜二つだが、性格は対照的だった。
地上の琴羽たちは、頭上の空高くにいた穆蘭と大鵰、天狗が河の上空を渡り、大火の上に来たのを見たが。その姿は夜空の中に溶け込んで見えなくなってしまった。
すぐにでも北岸にわたりたいが、疲労の極みにあって、今は休まざるを得なかった。貴志と虎碧、龍玉も地に腰掛け、休まざるを得ない状態だった。
「琴羽殿、渡河の支度は整えておりますぞ。行けるならいつでも!」
河港勤めの役人たちは渡河のための船や小舟をかまえて、その支度をしおえていた。鬼との激闘を見届け、琴羽たちへの敬服の度はさらに増していた。
「ああ、ありがとう!」
琴羽たちは内心感激していた。
必死の思いで戦い戦功を立ててもつらまないことで敵視されて攻め込まれた一方で、こうして懇意にしてくれる人々もいる。自分たちはこの人たちのために戦っているのだと、改めて思った。
「さあ、度胸比べだよ!」
穆蘭は大鵰を下降させた。天狗も追う。風を切り、穆蘭に迫ろうとする。その背を思い切り蹴飛ばし、火中に放り込んでやるという魂胆だ。
しかし大鵰も速度を増し。火はいよいよ迫る、というところで急上昇に転じる。それは天狗も同じだった。穆蘭の大鵰と天狗は、空にてその速さを競い合っていた。
いくらか上昇すると、また降下。さっきと同じように、火が眼前まで迫るところで急上昇。天狗もそれを追う。
「どうした、どうした。逃げてばかりか、この臆病者め!」
「ふんだ! えらけりゃ追いついてみなよ、この、のろま!」
「言うたな! お前らをつかまえ、火で炙り、その肉を喰らってやる!」
天狗の速度が増した。どうも余裕を見せて、わざと後ろについて様子見を決め込んでいたようだったが。大鵰との距離は、腕一本分まで縮んだ。これをさらに詰めれば、尾羽を掴んで、さらに穆蘭の首根っこを掴んで。大火に叩き落す魂胆であった。
「来たわね……!」
天狗迫るを見て、穆蘭はむしろ不敵な笑みを浮かべた。




