尊法 二十
貴志と虎碧、龍玉はそれぞれ一体の鬼と一対一で闘う。その周囲を琴羽が駆けまわるが、鬼は円の中心。さてどうする。
ぴーんッ! と琴羽の中で閃く。まず龍玉のそばにゆき、二対一で鬼と闘うのである。
「背中合わせになったのが仇になったね!」
龍玉、琴羽は吼える。それぞればらければ、逃げる機会もあったろうが。三体かたまり四人に囲まれるかたちになり、逃げ出す機を減らしてしまった。
「おのれ……!」
かえすがえすも、こらえきれず隙を見せたあの鬼の失態が恨めしい。
特に龍玉と琴羽に迫られる鬼は防戦一方の果てに、堪えきれず焦りを見せ、それが隙となり。青龍刀横薙ぎに振るわれれば、その首を跳ねられ。胴が倒れその足元に首が転がった。
「これで四対二ぃー!」
龍玉会心の叫び。
鬼は咄嗟に離れ離れになり、逃げ出そうとする。それを、一体は貴志と虎碧、一体は龍玉と琴羽が遮り。得物を繰り出す。
二対一と二対一である。逃げようとするのを遮るのは貴志と龍玉、その背後を襲うのは、虎碧と琴羽であった。
「おのれ、おのれ、おのれえぇー!」
もうやけのやんぱちになった鬼は金砕棒を遮二無二に振り回す。単純な強さは鬼が強いが、連携しての闘いは人間側が一枚上手であった。やはり琴羽の、無理をしない、三人の補佐と割り切って鬼の気を散らすことに専念したのが功を奏した。
「見苦しい真似をするな! 潔く首を渡せ!」
そう吼えたのは貴志であった。
「ほざけ、人間ごときに!」
「その傲り、儚し!」
貴志は敢えて強く非難した。らしくないようだが、人海の国のことで、鬼に容赦をしてはだめだと思い知ればこそだった。
金砕棒をかわし、貴志は六尺棒でしたたかにその手首を打った。石のように固い感触がする。
「なんのこれしき!」
鬼は強がる。何度が六尺棒をぶつけたが、やはりその体躯は六尺棒程度では効き目が薄かった。が、それでもよいのだ。琴羽にならったのだから。
貴志の責めで鬼の動きは鈍り。後ろに気を回すゆとりもなくなるとなれば……。
「とおーッ!」
「う、ぐ!」
琴羽の気合の一声とともに、後ろから、槍が首を貫いた。
顎の下には、琴羽の槍の穂先。すぐに抜かれて、首の穴から血がほとばしる。
もう一体は、後ろから虎碧に攻められ、それに気を回しすぎ。前方向がおろそかになって……。
「やああッ!」
龍玉の雄叫び。青龍刀が上段から振り下ろされ、鬼の脳天を直撃し。刃は鼻までを割った。
四人は咄嗟に鬼から離れ飛び下がった。
鬼は絶命し、どたっと倒れて、ぴくりとも動かない。
「やった、のか……!」
「ああ、勝ったんだね、あたしらの勝ちだよ!」
「手強い相手でした……」
「だけど、勝ったんだ!」
琴羽は槍を掲げ、勝った! と叫んだ。龍玉も同じく青龍刀を掲げ、勝った! と叫んだ。虎碧と貴志は肩で息をしながら、鬼の絶命を確かめる。相手は人ならぬ物の怪である。油断は出来ない。が、ぴくりとも動かず。確かに仕留められたようだ。
そこで、ようやく安堵して、その場に座り込んだ。疲労が一気に身体に広がる。
金砕棒もどうにかかわしてきたが、その先端が何度か我が身にかすり。その顔や手に、その痕であろう赤い線が走っていたのを、今になって気付いた。
本当なら、火攻めが功を奏した時に、勝った勢いのまま景都に殴り込みに行きたかったのだが、突如四体の鬼との闘いを余儀なくされ、疲労は著しく。ためらわれた。
空を見上げれば、穆蘭の大鵰と、何かが空中戦を繰り広げていた。
という時である、わああ! と大人数の喚声が聞こえてくる。見れば、逃げ出した義勇軍の兵たちであった。
琴羽は思わず嬉しく、
「お前たち!」
と声を上げた。
「琴羽、すまねえ! 臆病風に吹かれたオレたちが馬鹿だった!」




