伝説の序章②
「起立、気を付け、礼、着席。」
慣れた挨拶から国語の授業が始まるはずだった。開幕の小テスト、続いて新しい漢字の書き取り、そのあと教科書の音読へ入っていくのがいつもの流れだった。
「え~、本日の国語の授業は中止。廊下に並んで下さい。」
もうこの前置きだけで教室はざわつき、子供達の目が期待でギラギラ光り始める。
「ぜ~ったい静かにするんだぞ。廊下を歩く時も階段を降りる時も、足音を立てないように忍び足だぞ。バレたらマズいからな。」
先生のちょっとふざけた物の言い方、きっと楽しいことが起こる。そしてもちろん、マズいことなど何もない。他のクラスの先生方も、これから小澤先生のクラスが体育館を使うと知っている。どのクラスも体育のない時間帯を狙って事前に申請した。思い付きだけでは使えない。
ちなみに、期待に心を躍らせる子供達を静かに落ち着かせて教室移動できるかもテクニックのひとつ―
まっすぐだけでは厳しい場面がある。直球と変化球を投げられる方が、打者を抑える選択肢が多岐に渡る。タイミングを外し、意識を外に持っていく―目的はもちろんストレス発散だ。
「怪我なんかしたらつまらないからな。12時10分には片付け開始、12時20分には体育館を出て、そのまま給食の準備、以上!」
熱量の上がる条件も揃っていた。まずは小テスト諸共、授業が中止になったこと。普段の休み時間では使えない体育館で遊べること。また、このスペシャルタイムが子供達には急遽決まったこと。道具も準備してあって、大縄に一輪車、バドミントンのシャトルにラケット、卓球台も2セットある。直前の休み時間に小澤先生が大急ぎで用意した。
パン!と一拍。小澤先生が手を叩くと子供達、特に男子は弾かれたように散っていった。うぉーなんて叫びながら走り出す子もいる。一方であまり体を動かすことが好きではない子供達は舞台裏や放送室の探検だ。小澤先生を先頭に10名ほどの探検隊は普段立ち入り禁止の2階や館内放送も体験した。モノだけではない、物体だけではない。普段と違う何か、いつもと異なる何か、見たことのない何かは、宝物に化ける可能性がある。だから未知の物、初めての事を毛嫌いするのではなく、1度触れてみるというのは非常に貴重である。




