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辞書と分数⑤


 「しっかし男子はドッジボールばかり、よく飽きないよな。そんなに楽しいかね、言ってみればボール投げだろう。」

クラスの朝礼で小澤先生が少々意地悪な質問を投げた。すると爆発的な勢いで反論するかと思いきや、意外と答えに窮する男子諸君。テレビや漫画で人気なのは知っていたし、他行でも校庭の至る所でドッジボールが行われているという話は訊いていた。晴れてさえいれば、来る日も来る日もドッジボール。別にドッジボールがダメという訳ではなくて、たまには他の遊びもどうでしょうというお誘いなのだが、応じる様子はなさそうだ。シンプルなルールで難しいテクニックも必要なし。有り余る元気をボールにぶつけることは大いに結構。

「だって楽しいもんな~。」

男子諸君、精一杯の返答である。

 休み時間は休む為のものではなく、遊ぶ為のもの。これを無我夢中という。ほとんどの場合は、子供達にだけ許された能力。過去も未来も気にすることなく、今だけに集中できる特殊能力。敬愛を込めて、ばかと呼ぶこともある。

 

 さて、スポーツに限らず、高学年に入って専門的な絞り込みを行う子供達も増えてくる。毎日ドッジボールで大騒ぎしている男子の中で、野球チームに入っている者がいる。要や順也のようにサッカークラブに所属している者がいる。バスケにテニスに水泳、書道に剣道に空手に合気道、ピアノやギターやバイオリン。単に楽しく遊んでいるだけの時と、本気で打ち込んでいる時とで目付きが変わってくる。休み時間の度に大騒ぎして、教室でもイタズラして、先生に大目玉を喰らって、家でもお母さんにお説教されて。そんな子がスポーツクラブなどで真剣に打ち込んでいる姿を見ると、家や学校ではなかなか見せてくれない集中力を発揮していると、やっぱり素直に格好いい。笑顔の消える瞬間があって、呼吸が乱れて悔しがって、実にいい顔をしているのだ。また、それまで続けていた習い事のほとんど、あるいは全てをやめて進学塾に通い始める子もぐんと増える。これもまた、こちらこそが現実的な将来を見据えた選択であり、立派な絞り込みである。

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