鍛冶師探し
村を出た『アマテラス』一行は、王都へ向かう道中でも情報収集を続けていた。
ただ、どこに竜王会の人間が潜んでいるか分からない以上、接触する相手は慎重に選ぶ必要があるため、情報源はギルド職員や町の鍛冶師など、比較的信用のおける一般人に限定し、常に五人で行動していた。
その道中で得た情報では、どうやらその聖剣を打てる鍛冶師は、ウラッグという名のドワーフというらしい。ただ、残念ながらその所在までは掴めなかった。
五人は特に大きな問題もないまま、王都へとたどり着くと、最初に冒険者ギルドに足を運ぶ。
『アマテラス』は、この世界でも数少ないSランクパーティー。
その立場を利用し、輝也はギルドマスターへの面会を取り付けた。
そして、ギルドマスターである男から話を聞くことができたのだが――
「聖剣の鍛冶師が……死んだ?」
聞かされたのは予想にもしなかった情報だった。
「ああ、話によれば、奴はなんでも聖剣を作る裏で、魔剣を作っていたらしくてな。それが原因で騎士団に逮捕されたんだが、王都へ連行する途中、モンスターの襲撃にあって、騎士団の者達と一緒に殺されたらしい。」
話を聞いた輝也は呆然とする。
今回、輝也たちが聖剣の鍛冶師を探していたのには理由があった。
輝也たちが拠点とする、ユーリシア王国には、聖剣を結界の核としてモンスターの侵入を防いでいる街があった。
だが、最近のその聖剣が劣化し、結界の効力は著しく低下してモンスターの侵入被害も出始めてい為、新しい聖剣が必要だったのだが……
「これは予想外でござるな……」
「困りましたね……」
サクラとアニーが、揃って眉を顰める。
アラエの件もある以上、一刻も早く国へ戻りたい。
だが、聖剣を用意できなければ帰ることもできない。
行き場を失ったような空気が、その場に流れる。
すると、そんな輝也たちを見かねたギルドマスターが、静かに口を開いた。
「もし詳しく知りたいなら、この国の騎士団、十一部隊を訪ねるといい。」
「騎士団ですか?」
「ああ。元々ウラッグを捕らえたのは騎士団の第四部隊だからな。ただ、あいつらは貴族で固められた部隊だ。冒険者の話など、まともに取り合わんだろう。しかし、第十一部隊は身分に関係なく手を差し伸べる部隊だ。だから『聖騎士団』なんて呼ばれている。」
「聖騎士団……」
「それに、その部隊の団長は聖剣使いでな、ウラッグとも面識があったはずだ。」
「聖剣使い……」
――つまり。
ウラッグの事や、聖剣の事についても知っている可能性が高い。
「……わかりました。行ってみます。」
輝也が短く答えると、五人は、ギルドマスターに教えられた場所――王都にある聖騎士団の支部に向かった。
本来、騎士団の支部は城内に置かれるものだが、聖騎士団は例外だった。
彼らは遊撃部隊として各地を飛び回っており、王都にいる際も城ではなく街の支部を拠点としているらしい。輝也たちは教えられた場所へ向かい、聖騎士団の支部を訪れた。
騎士団長や副長は不在のようだったが、幸い団長の妹であり、もう一人の聖剣使いであるアリアハン・メンデス……通称アリアと呼ばれる女性に話を聞くことができた。
彼女は、凛とした佇まいの中にも柔らかな雰囲気を纏った女性で、いきなり訪れた輝也たちに対しても快く応じてくれた。
輝也たちは事情を説明し、ギルドマスターから聞いた内容を伝えた。
するとアリアは、その情報に対しはっきりと首を横に振った。
「それは誤解です。」
「誤解?」
輝也の問いに、アリアは静かに頷いた。
「はい。ウラッグさんは、魔剣を作っていたわけではありません。あの方は、“管理していた”のです。」
輝也たちはそこで真実を聞かされる。
ウラッグは聖剣の鍛冶師であると同時に、聖剣の対なる存在である魔剣の管理も担ってきた事。
その存在を知った第四騎士団の団員が魔剣を手に入れるため、ウラッグさんの元へ押し入った事。そして魔剣に操られた騎士団が、暴れ回った挙句、その責任を全てウラッグに擦り付けたことを語った。
「なにそれ、騎士団の連中ってサイテーじゃない!」
「ちょっとアニー、アリアさんも騎士団なのよ。」
「いいえ、構いません。事実ですから。」
そう言って、アリアはどこか自嘲するように苦笑した。
「……もしかして、ウラッグさんは口封じのために殺されたのですか?」
ユフィの言葉に、場の空気が一瞬で張り詰める。
五人はハッと息を呑んだ。
だが、アリアは、はっきりと首を横に振る。
「いいえ、そもそもあの人は……死んでいません。」
「え?」
予想外の言葉に、その場の空気が止まる。
「実は――護送中の馬車を襲ったのは、モンスターではありません。『竜王会』という組織です。」
「竜王会⁉」
聞き覚えのある組織の名に、アニーが思わず声を上げる。
他の四人も声はあげていないが眼を大きく見開いていた。
「はい。彼らはウラッグさんが王都へ連行される前に馬車を襲撃し、そのまま連れ去ったと考えられています。」
「ってことは……今、ウラッグさんは竜王会に?」
「恐らくは。」
アリアが短く肯定する。
ウラッグは聖剣を打てる鍛冶師だ、それほどの人物を狙う理由としては、十分すぎる。
――だが。
「どうして、あなたがそこまで知っているんですか?」
輝也の問いに、アリアの表情が僅かに曇った。
今までの話を聞く限り、その情報は他の者達は知らないでいる。何故、彼女が知っているのか。
アリアはしばらく沈黙していたが、やがてポツポツと語り始める。
「……実は私は当時、ウラッグさんのところにいました。そして、そこにはティアさん――いえ、竜王会を束ねる男、ティア・マットもいたのです。」
その名に、場の空気がわずかに張り詰める。
一同が目を細める中、アリアは続けた。
「当時の私は、彼がティア・マットだとは知らず、私と彼は協力し、魔剣に操られ暴走した騎士団を止めたのです。そして、ウラッグさんが連行されるところも、現場にもいました。」
そこまで語ると、アリアはゆっくりと視線を落とす。
連行を止められなかったことを悔いているのか。
それとも、あの男がティア・マットだと見抜けなかった自分を責めているのか。
その表情には、どこか後ろめたさが滲んでいた。
「そのティア・マットという男は、どんな人物なんですか?」
輝也の問いに、アリアはすぐには答えなかった。やがて、ぽつりと呟いた。
「……正直に言って、彼の事はよくわかりません。ですが……彼は、無能です。」
「む、無能?」
「無能って……スキルも魔法も使えないってこと?」
アニーの言葉に、アリアは静かに頷いた。
無能……それは稀に生まれてくる、魔法が使えずスキルもたない人間の事だ。 輝也自身、実際に出会ったことはない。だが、噂ではそうした者の多くは周囲から迫害され、あるいは家族に捨てられ、長くは生きられないという。
そんな人間が、裏組織の頂点に立っている、にわかには信じがたい話だった。
アリアから聞けることを一通り聞き終えると、輝也たちは聖騎士団の支部を後にした。
そして、そのまま王都で宿を取り、部屋に集まって改めて状況を整理する。
「聖剣の鍛冶師の居場所は分かったが……まさか竜王会とはな。」
輝也の言葉に、全員の表情が曇る。
よりにもよって、今最も関わるべきでない相手である。
「もしかして、向こうはこれを知っていて動かなかったのかもしれないですよ。」
「どういうこと?」
ユフィの言葉にアニーが尋ねる。
「ウラッグさんが自分たちの元にいる事を知れば、自然とこちらから竜王会に接触を図ることになるのでう……そして、ウラッグさんと会わせる条件に、アラエを要求してくるのですよ。」
「っ……」
その言葉に、アラエの肩がびくりと震える。するとすぐにマルカが隣に寄り、優しく頭を撫でた。
「大丈夫です。アラエは絶対に渡しません。」
「うむ。それにどうせなら、直接本拠地に乗り込んでウラッグ殿も助けるでござる。」
「となると、場所を突き止めないといけないわね……」
だが、その肝心の手がかりがない。アラエに囮になってもらうこともできるが、そんな考えは誰一人賛同しないだろう。
再び思考は振り出しに戻り、部屋には重たい沈黙が落ちる。
――その時だった。
コン、コン。
不意に、部屋の扉がノックされ、全員の視線が、一斉に扉へと向く。
「はい。」
「すみません、皆さまにお客様が。来ています。」
どうやら宿の従業員のようだ。
輝也は仲間たちと目配せを交わし、小さく頷く。
「客……ですか?」
「はい。」
「それは、一体どのような方で?」
「ウラッグという、ドワーフの方です。」




