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囚人と迷宮と  作者: 灰色の雪
第二章 盤面の駒たち
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第六十三話 囚人は自己強化をする

 バッツが去っていく後姿を横目でみながら、ラグスたちは思案顔を浮かべていた。

 バッツから得られた情報が、本当か否か。本当であれば自分たちに火の粉が掛をからないようにするにはどうしたらいいのか。そんなことを考えているようでもあった。


 危険でかつ、自分の身は自分で守るしかない状況において、人間関係を悪化させる行動をとるのは自殺願望をもっているのと同義である。だからこそ、注意深く行動する必要がある。

 

 隣にいる新人も、さらに自分たちよりも前に着た囚人も三人組になっている。自分たちのパーティメンバーを増やすためになにかしらの強硬手段を訴えてくる場合もあるかもしれない。ただ、少し考えれば強硬手段によって組まれたパーティなど、崩壊前提となることは明らかである。しかし、それすらも次のステップに至るための経過処置として考えるかもしれない。考えれば考えるほどに悪意の渦中にいることが実感でき辟易してくるが、それでも考えることをやめることはできない。


 そんな面相の変化が著しいラグスたちは、ザグンの膝を軽くたたく音で顔を上げた。


「このまま鬱々としていても仕方がない。レベル上昇の儀でもやらんか?」


 その一言に、気分を前向きにしてもらったのかロイが微笑みを浮かべて頷く。ディックは両肩を竦め、しょうがないといった態で地面にレベル上昇の文様を描き始める。ラグスはいまだになにやら思案顔であったが、ザグンの拳で軽く小突かれると顔をあげ、ザグンの顔を見る。ザグンの行動で何かに思い至ったのか、笑顔を浮かべ頷きを返した。


 しばらくしてディックが文様を描ききったのか、その中央へと歩を進め、ラグスたちの顔を見渡す。それはまるで俺からでいいのか?ととっているようにも見える。現にラグスはそう受け取ったのか、軽くうなずきを返すとディックも頷き返し、神に祈り始めた。


 冒険者が迷宮内でレベル上昇の儀式を行わないのは理由がある。それは儀式が中断された場合、レベル上昇が失敗とみなされ、レベル上昇が起きないのである。また次にレベル上昇の儀式を行うには、失敗時と同程度まで経験を積む必要があり、失敗した場合のリスクが高すぎるからである。


 では、どのように同程度と判断できるかというと、冒険者は、レベル上昇ができるようになると不思議と確信を得る。これを教会では、神からの祝言であると断言しており、一般的にもそう信じられている。


 一般的に教会にてレベル上昇の儀を執り行うのは、失敗のリスクを極力減らすためである。だからラグスたちのように他の多数の人物がいるような場所で行うようなものではない。事実、教会内においてレベル上昇の儀式は個室のような場所で司祭もしくは神官立ち合いのもと少人数で行われるのである。


 しかし、ラグスたち囚人にはそのような配慮はなされていないため、大部屋の中で行わざるをえない。だからこそ、ラグスたちはディックを中心に、守るように立ち位置を少し変えている。


 ディックは神に対して祈り続けている。


 この祈る神は、人によって異なる。少なくとも信仰している神に対して祈りを捧げることで神の承認を得る形となる。

 祈りを捧げる神によって多少能力値上昇には偏りが出るとも云われている。具体的には、赤の主(メリディート)に祈りを捧げると攻撃の要である筋力に関連する能力が、青の主(ロズィード)に祈りを捧げると知力及び精神に関連する能力が、黄の主(ミリテリリ)では体力に関する能力が、緑の主(クシュツゥムス)では敏捷に関わる能力が上昇すると云われている。最後にこれら四柱の祖でもある主神万色の長(ラディクラーゼ)に祈りを捧げると能力全般が上昇すると云われる。本当に差があるのか、はたまた全くないのかについては、またも教会の横槍のために具体的なものはわからずじまいであるが。教会が横槍を入れる理由も俗物的なものも含まれているため、今後もしばらくは解明されてないであろう。


 このようなことが信じられているため、冒険者によっては特定の神にのみ祈る者、レベル上昇のたびに祈る神を変える者とさまざまである。実際に神の恩恵を預かり易い世界であるために多少眉唾であろうとも、縋る気持ちでそのように行動している者は多いのである。


 ディックがどの神に祈っているかは、まさに神のみぞ知ることであった。


 いつもより祈る時間が長いことにザグンが怪訝な表情を浮かべ、ラグスを見やる。ラグスもそれに異変を感じているのか表情はわずかに険しい。ロイも祈るかのようにディックを見つつ、周囲の警戒を怠ってはいない。


 すでに通常のレベル上昇の儀式であればすでに終わっていてもおかしくない時間が経っており、ザグンの怪訝な表情はさらに険しくなっていく。そしてザグンがロイに視線を向けた瞬間であった、


「ぐっ」


 ディックから何かに耐えているかのような苦声が挙げられる。ザグンは、すわ、何事かとロイに向けかけた視線をディックに向けると、額にびっしりと汗をかいたディックの姿が見て取れた。


「複数上昇……」


 ロイが周囲の警戒を疎かにディックに注視しながら、そんなことを口にした。


「複数……上昇……?」


 オウム返しのようにラグスがロイに問いかける。


「ええ、レベルが複数上昇する場合に起こる現象に近いですね。僕も実際に目にするのは初めてですので確信があるわけではないのですが、それに近いでしょう」


 ロイのディックを見る目は観察対象を正確にとらえようと瞬きすらしていなかった。


「ぐぅっ」


 さらにディックが苦鳴を上げた時であった。ディックの周囲に十を超える光の玉が出現したのは。


「こんなに!?」


 通常、レベル上昇時に出現する玉の数は多くて六個程度である。それが十数個も出現するのを初めて見たからか、驚きのあまり思わず口にしたようである。


 その言葉を口にした人物は、ひそかに近づいてきていたバッツであった。ザグンがそれに気づき、バッツの視線からディックを隠すように移動する。


「さすがに自粛してもらえぬか」


 その言葉は、丁寧ではあるが怒気の孕んだものであり、バッツも盗み見していた手前、強く言い返すこともできず、すごすごと自分の定位置に戻っていく。


 さすがに大部屋すべての視線を遮ることは無理であるが、極力その視線を減らすためにザグンは仁王の如く周囲を睥睨し始める。


 ラグスもザグンと同様に周辺に警戒の目を向ける。ロイは、そのこととはお構いなしにディックから視線を外していないが・・・・・・。


 合計で十八個もの光の玉がディックの周囲を音もなく周回し始める。周回する速度が違うのせいなのか、光の玉は時たま融合したり離合している。いつしか、光の玉が六個ほどに融合し、ディックの周りを変則的な軌道で回り続けた。しばらく、その状態が続いたかと思うと不意にディックを中心に六角形の頂点にそれぞれ光の玉が静止した。


 静止した光の玉は、仄かな燐光を周囲に振りまきながら、その場に留まっていたかと思えば、いきなりディックへと殺到し、その痕跡すら残さずすべてが消えた。


「ぐふっ」


 ディックが耐え切れなくなったのか、文様の上に倒れこむ。ロイの足が一歩ディックに近づくが、そこで止まる。レベル上昇失敗の文字が頭に浮かんだのであろう、心配げな様子でディックを見続ける。しばらく、倒れ伏した状態のままであったディックが、なんとか起き上がる。ロイたちは安堵の表情を浮かべ、


「大丈夫ですか?」


 とディックに声をかける。どう見ても大丈夫そうには見えないが、確認の為であろう。


「ああ、なんとかな……」


 青色吐息といった状態で、文様の上から寝藁に向かって這いずっていくディック。


「さすがにキツイぜ」


 そういって寝藁に倒れこむ。しばらくそのまま動かなかったが少し回復したのか、上体を起こしてラグスたちに顔を向ける。


「かなりキツイが、結構上がったみたいだぜ」


 ディックは不敵な笑みを浮かべ、拳を軽く上げてそう告げる。


 ラグスたちの表情は、安堵の色を強めながらも、憂鬱そうに変化していく。レベルが複数上がることはいいことなのであるが、それがかなり身体的にきついのであれば、憂鬱になるのも致し方無いであろう。


 ディックが倒れこんだ際にレベル上昇の儀に使う文様はめちゃくちゃに成っており、書き直す必要もあった。ラグス、ザグン、ロイの三人は、互いの顔を見合わせ、誰が先にやるか牽制し合う。ディックはそれを横目に見ながら満足気な笑みを浮かべていた。


名称:ラグス レベル:5 先天的才能:守り手(ガード)

スキル:<剣術>(4:4/100)、<盾術>(4:3/100)、<気迫>(2:7/30)、<**>、

     <**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<剣術>:スラッシュII、<盾術>:バッシュ、<気迫>:呼び声(コール)、

     <剣術>:ラピッドスラッシュ、<盾術>:ハードバッシュ、<**>:**、<**>:**

 <**>:**、<**>:**、<**>:**、<**>:**


名称:ザグン レベル:5 先天的才能:怪力(パワー)

スキル:<鎚術>(5:21/150)、<両手利き>(5:3/150)、<物理耐性>(3:4/60)、<戦声>(2:15/30)、

     <自己治癒上昇>(3:4/60)、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<鎚術>:スマッシュ、<両手利き>:同時攻撃(ダブルアタック)、<戦声>:ウォークライ、

     <自己治癒上昇>:自己治癒上昇強化I、<物理耐性>:痛覚軽減、<物理耐性>:ハードマッスルスキン

 <**>:**、<**>:**、<**>:**、<**>:**


名称:ディック レベル:5 先天的才能:弓の名手(スナイパー)

スキル:<弓術>(3:57/60)、<探査>(3:42/60)、<開錠>(2:29/30)、<罠設置解除>(2:6/30)、<危険察知>(4:45/100)、

     <**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<弓術>:ピアッシング、<開錠>:簡易開錠、<**>:**、<**>:**、

     <**>:**


名称:ロイ レベル:5 先天的才能:魔法使役者(マジックユーザー)

スキル:<魔法制御>(5:15/150)、<水属性制御>(5:23/150)、<土属性制御>(4:87/100)、

     <**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>、<**>

アーツ:<魔法制御>:射出制御・対象制御・範囲制御、<水属性制御>:激発因子作成、

     <土魔法制御>:激発因子作成、<**>:**、<**>:**


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