せんちめたる――3
はぁ……
全部、このバカ女のせいに違いない。そう思わないとやっていけない。 そう思う私は心が狭いのだろうか? いや、そんな事はないな。間違いなく、この女が全部悪いに違いない。
例えば、私1人ならばとっくの昔に風の国についていたりとか、私専用の召使いのコウキがあの女につきっきりだったりとか、いつまでたっても目が覚めないだとか、そもそもうざったい。
この何処までも暑苦しいただ単に広陵としただけの荒れ野の景色を見るだけの1日半……。
良い加減に我慢の限界だ。
今は良い加減に風の国に最も近い、闇の国のオアシス……寅のオアシスにきている、周りには薬草だとか美しい花々だとかが咲きまくっている。
そりゃあ私だって腐っても女の子だ、綺麗な花が咲いてれば最低でも感動の1つや2つするもんだ。
だけどな、だけどよ。そんなオアシスに半裸のバカ男が2人もいて水浴びしてりゃあ折角の雰囲気も台無しになるってもんだ!
いらいら、いらいら。
ちくしょう、あのブッサイクなラクダめ、ただのイケメンの癖にオアシスで水浴びするとは。コウキもだ。あいつに至ってはパンツしか履いていない。
やつら……まさか私の事を乙女として見ていないのではなかろうかな。
むかむか、むかむか。
む〜、この行き先のない怒りをどうしてくれようか。あいつらが水浴びから帰ってきたら花でも摘ませれば少しはこのイラムカもおさまるかも知れんが、あいつは喜んでやるだろうな。バカだし、マゾだし。
それでは私のこの苛立ちが解消できるはずがない。まったく、バカへの苛立ちとかわりと信じられない。
解消できん苛立ちとかまじ信じられ……あ、できるがん。
ははは、私をこの不幸に陥れた本人に復習してやろうじゃないか!
バカ女はオアシスの木陰でねむっていた。静かな鼻息で背の低い草花が揺れる。
けっ、気持ち良さそうにねやがって。綺麗すぎる寝顔には落書きしてやる。
「ん……」
……綺麗……すぎる……
白い肌、形の良い眉、長いまつげ、すっと通った鼻筋、桜色の頬、艶やかな唇、ほっそりとした顎、あと細すぎる首。
私は、湖水に映る自分の姿を見てみた。
……うぜえ、なにもかもうぜえ。
はぁ……他人のせいにしかできない自分が毎日嫌になる。
原因は、そう、すべて私にあるのだ。
バカすぎる。私は湖水に映る自分の姿……おいこら、バカ男ども、揺らすな。折角のムードが台無しじゃないか。
くそ、あいつらめ。私の友達がここにいてみろ、美男子2人が水浴びしてるんだぞ、しかも半裸で。たぶん6時間あれば一冊本がかけるだろうよ。
……ダメだ、渡しまで変な妄想しそうだ。
「おい、おきろ。バカ女」
やっぱり、私は八つ当たりする事にした。八つ当たりと言っても別にただのガールズトークだ。
目の前の男どもがなんだかんだて見れなくなったわけではけしてない。
「ん……」
「おい、はよおきろよ」
なかなか強情ぱりな女だな。
さすがはコウキが
あんなことしたりこんな事したりしても起きなかった女だ。具体的には背負ったりおろしたりの事だがな。
「ん…… ……⁉」
あ、やっと起きた。
「ッ……! 貴女は……」
貴女 とか言ってるけど完全にその視線は私の事を睨みつけている。
なんだ、レグルスの事でそんなに腹でも立ってるのか。バカめ。
「クッ……頭が……」
「おかしくなったのか? 大丈夫だ、最初から知ってる」
「違う! あなた、なんですか! 」
なんですか、とはこれまた存外な。私は……うん、なんと答えようか。
「私か? 少なくともおまえよりかは教養の無い女だ」
「そんな事はみればわかります、あたしはあなたが何者かを聞いているんです」
こいつ、凄い性格ブスだ。
「別に……ただのカスミ、あそこで水浴びしてる男どもの同伴」
「……あなた、レグルスくんも含めて、今まで何人の男の人をたぶらかしてるんですか?」
さぁね、私は誑かした事なんかないね。ただ……。
「パパだけは、おかあさんには敵わなかったな……」
……最初から、わかってた事だよね。
だからといって、コウキなんか最初から眼中になかったし、ブサ男はただの協力者だ。
私にとって、恋愛感情だとか、良い男と付き合う事のステータスだとかはまったく関係ない。意味が無い。
「そういうあんたは? レグルスにアタックの一つでもしたわけ?」
「ええ、勿論 ……まぁ、遠回しに降られましたけどね」
ふぅん、苦労してるんだ。
「おかげで、吹っ切れた……と、言いたいところですけど、まだわかりませんね……レグルスくんの顔をみたら……泣いちゃうかもしれないです……」
そっか、わかんなくはないや……
だってさ、パパ……この子、あの時の私と同じ顔してるからね。大好きな大好きなパパ。
パパと私が父娘以上の関係に成らないと悟った12歳の時。私は1人で泣しかなかったもの。
あの時、部屋の……パパが買ってくれた姿見に映っていた私の顔……今の、この顔の形も何もかも違うこの女の子と、同じ顔をしてるもの。
――『「なーに、辛気臭い顔して溜息なんかついてんだよ、似合わねーぞ?」』――
わかってる、わかってるよ……コウキ。
あの時、火の国で私を慰めた男があんただってことも、記憶を失ってたのはそういう振りだった、てこともさ。
だけれど、私は、この私と同じ“女”という生き物を見て、ただこういう。
「……弱い、女」




