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一度きりのリボン  作者: 矢満田太郎
第2章:失われた名と痛みの記憶
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【第16話】 蓮の胸に残る影

夕暮れの街は、どこか落ち着かない色をしていた。

風は弱く、屋台街の提灯はゆっくり揺れている。

紬は観察ノートを胸に抱え、昨日みなが告げた「蓮を守ろうとして名前を失った」という事実を思い返していた。


胸の奥の「風花」という響きは戻ってきた。

だが、みなの痛みが触れた場所だけが、まだじんわりと熱を帯びている。

蓮の名前の響き――「れん」。

その音が、紬の胸の奥でかすかに揺れていた。


蓮は静かに紬の隣に立ち、空を見上げた。

「紬……今日は、私の記憶を探そう」


紬は頷く。

「うん。みなの痛みを軽くするには、蓮の記憶が必要だと思う」


ルクは肩で小さく跳ねるが、光は弱い。

みなの痛みを支えた影響が残っているのだ。


紬と蓮は、古書館へ向かった。

女主人は二人を見ると、静かに頷いた。


「蓮さんの記憶……みなさんと深く結びついているようですね」


蓮は少し戸惑いながら言った。

「私、みなのこと……覚えてない。でも、胸の奥が痛い。何か大事なことを忘れてる気がする」


女主人は古い記録を開き、紬たちに見せた。

そこには、蓮が幼い頃に描いた絵が貼られていた。


「これ……蓮が描いたの?」

紬は絵を見つめる。


蓮は驚いたように目を見開いた。

「覚えてない……でも、私の字だ」


絵には、蓮ともう一人の少女が描かれていた。

その少女の髪は、みなの絵と同じ色だった。


「蓮……これ、みなだよ」

紬は静かに言った。


蓮は胸の奥を押さえ、震える声で言った。

「私……みなと一緒にいたんだ……?」


女主人は頷いた。

「蓮さんとみなさんは、幼い頃よく一緒に遊んでいました。ですが、みなさんが名前を失った日を境に、蓮さんの記憶も揺らぎ始めたのです」


紬は胸の奥が痛くなる。

蓮はみなの名前が消えた瞬間、みなとの記憶まで奪われてしまったのだ。


■蓮の記憶の場所へ

風の声を頼りに、紬たちは街外れの古い公園へ向かった。

そこは、みながよく遊んでいた場所だ。


蓮はブランコを見つめ、胸の奥を押さえた。

「ここ……来たことがある気がする。でも、思い出せない」


紬は蓮の手を握る。

「蓮、ゆっくりでいいよ。みなの名前が戻ったから、蓮の記憶も少しずつ戻るはず」


そのとき、風がふわりと揺れた。

みなが現れた。


みなは昨日よりも輪郭がはっきりしている。

だが、その瞳はどこか怯えていた。


「……蓮」

みなは蓮を見つめた。


蓮は息を飲む。

「みな……私、あなたのこと……」


みなは胸の奥を押さえ、震える声で言った。

「蓮……あなたを守ろうとしたの。影が来て……名前を呼ぼうとした。でも……呼べなかった。だから……私の名前が消えたの」


蓮は涙を浮かべながら言った。

「ごめん……みな。私、あなたのこと……忘れてた」


みなは首を振る。

「蓮のせいじゃない。忘却の偏りが……私たちを引き裂いたの」


紬は胸の奥が強く揺れた。

みなと蓮は、名前と記憶を奪われたことで離れ離れになったのだ。


その瞬間、公園の奥から黒い糸が伸びた。

紡ぎ手の糸だ。


「紬、危ない!」

蓮が叫ぶ。


糸は蓮の胸の奥に触れようとしていた。

蓮の記憶を奪い、みなの名前を再び消そうとしている。


紬はステッキを握りしめ、結びの輪を描く。


「みな!」

紬は少女の名前を呼んだ。


みなの瞳が強く光る。

名前を呼ばれることで、みなの存在が強くなる。


ユイが風を送り、糸の動きを乱す。

真白は蓮の手を握り、治癒の光で蓮の輪郭を支える。

ミナは糸の根元を切り裂こうとするが、糸は蓮の記憶に反応して避ける。


紬は胸の奥の響きを感じる。

蓮の記憶は、みなとの絆そのものだった。


「蓮、記憶はあなたのものだよ。でも、私が支えるから」

紬は静かに言った。


蓮は涙を浮かべながら頷いた。

「紬……お願い」


紬は結びの輪を糸の中心に叩き込んだ。

輪は糸の位相を崩し、糸は自らの張力で絡まり合う。


蓮の記憶が、胸の奥に戻っていく。

糸は崩れ、影は消えた。


蓮は紬を見つめ、かすかに微笑んだ。

「……紬。私、みなのこと……少しだけ思い出した」


みなは蓮の隣に立ち、静かに言った。

「蓮……ありがとう。私、あなたを守れてよかった」


蓮は涙を流しながら言った。

「みな……ごめんね。ありがとう」


みなは風の中に消えた。


戦いが終わった後、紬は蓮の隣に座り、静かに言った。

「蓮……みなとの記憶、少し戻ったんだね」


蓮は頷いた。

「うん。でも……まだ全部じゃない。みなは、もっと大事なことを隠してる気がする」


紬は蓮の手を握り、静かに言った。

「一緒に探そう。みなの記憶の続きを」


蓮は紬の手を握り返し、強く頷いた。

「うん。絶対に」

あとがき(紬の日記)

蓮の記憶が少し戻った。

みなは蓮を守ろうとして名前を失った。

胸の奥が強く揺れた。

蓮の痛みも、みなの痛みも、まだ続いている。

明日はみなが隠している“最後の記憶”を探したい。

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