表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一度きりのリボン  作者: 矢満田太郎
第2章:失われた名と痛みの記憶
PR
12/40

【第12話】 みなの影を追って

みなの名前が戻った翌日、街はいつもより静かだった。

風は穏やかで、屋台街の提灯はゆっくり揺れている。

だが紬の胸の奥には、昨日の戦いの余韻がまだ残っていた。

名前の響きは戻ったものの、みなの存在はまだ不安定で、どこか遠い。


紬は観察ノートを抱え、古道具屋の前で深呼吸した。

ルクは肩で小さく跳ねるが、光はまだ弱い。

みなに名前の響きを貸した影響が残っているのだ。


「紬、今日は“みな”の過去を探そう」

蓮が静かに言った。

その声は、紬の胸の奥の空白にそっと触れるようだった。


「うん。みなの名前が戻ったなら、過去も少しは見えるはず」


紬はノートを開き、昨日拾った写真の切れ端を見つめる。

そこには、幼いみなと誰かの手が写っている。


紬と蓮は、古書館へ向かった。

女主人は紬の持つ写真を見て、静かに頷いた。


「この子……“みな”という名前だったのね。記録には名前が残っていなかったけれど、確かにこの街にいたわ」


紬は胸の奥が温かくなる。

みなの存在が、少しずつ輪郭を取り戻している。


女主人は古い記録を開き、紬たちに見せた。

そこには、みなが写った写真が数枚貼られていた。


「みなは、よくこの街の公園で遊んでいたの。家族と一緒にね」


紬は写真を見つめる。

みなの笑顔は、どこか影が差しているように見えた。


「でも、ある日突然名前を失った。家族も、友達も、誰も呼べなくなった」


蓮が眉をひそめる。

「紡ぎ手が関わってる?」


女主人はゆっくり頷いた。

「可能性は高いわ。紡ぎ手は“忘却の偏り”を集める。みなの名前が消えたのは、その偏りが彼女に集中したからかもしれない」


紬は胸の奥が痛くなる。

みなは、ただ忘れられたのではなく、偏った忘却の犠牲になったのだ。


古書館を出ると、ユイが駆け寄ってきた。

「紬! 風の中に、みなの声が混ざってる!」


紬は耳を澄ませる。

風の流れに、かすかな声が揺れていた。


――思い出したい。

――でも、怖い。

――家に、行きたい。


紬は胸の奥が締めつけられる。

みなは、自分の家を探している。


「紬、みなの家を探そう」

蓮が言った。


紬たちは古書館の記録を頼りに、街外れの住宅街へ向かった。

そこには、古い家が一軒だけ残っていた。


「ここ……みなの家だ」

蓮が静かに言った。


紬は家の前に立ち、深呼吸した。

胸の奥の響きが、かすかに揺れる。


そのとき、家の影がゆっくりと形を変えた。

みなが現れた。


みなは紬を見つめ、かすかに微笑んだ。

昨日よりも輪郭がはっきりしている。


「……来てくれた」


紬は一歩近づく。

「みな、ここがあなたの家なんだね」


みなはゆっくり頷いた。

「うん。でも……怖い。思い出すと、痛い」


蓮が静かに言う。

「名前を失ったときの記憶が、まだ揺れてるんだね」


みなは紬の胸の奥を見つめる。

「紬……名前の響きを、少しだけ貸して。そうすれば、扉が開く」


蓮が叫ぶ。

「紬、ダメ! 名前の響きがまだ不安定なのに!」


紬は蓮の手を握る。

「大丈夫。みなの名前が戻ったから、響きは安定してる」


蓮は唇を噛む。

「紬……お願いだから、消えないで」


紬はみなの瞳を見つめる。

その瞳は、昨日よりも強い光を宿していた。


紬は静かに言った。

「……少しだけなら、貸すよ」


みなは紬の胸に手を伸ばし、名前の響きをそっと受け取った。

その瞬間、家の扉がゆっくりと開いた。


家の中は静かで、埃が積もっている。

だが、壁にはみなの絵がいくつも貼られていた。


「これ……みなが描いたの?」

紬は絵を見つめる。


みなは小さく頷いた。

「うん。家族の絵。友達の絵。全部……忘れられたけど」


紬は胸の奥が痛くなる。

みなの名前が消えたとき、みなの世界も消えてしまったのだ。


そのとき、みなの瞳が強く揺れた。

「思い出した……名前を失った日。私、紡ぎ手に――」


だがその瞬間、家の奥から黒い糸が伸びた。

紡ぎ手の糸だ。


「紬、危ない!」

蓮が叫ぶ。


糸はみなの名前の響きを奪おうとしていた。

紬はステッキを握りしめ、結びの輪を描く。


「みな!」

紬は少女の名前を呼んだ。


みなの瞳が強く光る。

名前を呼ばれることで、みなの存在が強くなる。


紬は結びの輪を糸の中心に叩き込んだ。

糸は崩れ、影は消えた。


みなは紬を見つめ、かすかに微笑んだ。

「……ありがとう。紬。私、少しだけ思い出せた」


みなは風の中に消えた。

あとがき(紬の日記)

みなの家を見つけた。

名前を呼んだ瞬間、胸の奥が温かくなった。

みなの記憶はまだ揺れているけど、少しずつ戻っている。

紡ぎ手の糸がまた現れたのが気になる。

明日はみなが失った記憶の続きを探したい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ