07:もしかしたら何かあるかもしれない
月明かりを頼りに、サカキとルリカは散乱するコンクリートの瓦礫をかき分け、なんとか新しい寝床を確保した。サカキは見通しのよいビルを選び、一番使えそうな二階の一室を当面の住まいと決めた。
しかしここも、いつまで居られるか分からない。それでもひとまず安心したのか、むき出しのコンクリートの床に敷いた薄汚れたシュラフの上で、ルリカは眠たそうに目をこすっている。
「足、痛くないか?」
「うん、平気」
サカキの問いに、ルリカはやんわりと笑って答える。三日間ずっと歩き詰めだった。疲れていないはずはない。だが、その疲労をおくびにも出さず、ルリカは笑顔を見せている。やっと得た、いっときの安息だった。ルリカの笑顔に、張り詰めていた緊張がわずかにほどける。
「何か食うか」
サカキは床に置いた小さなサックの中から硬くなったパン切れを取り出し、半分ちぎってルリカに渡す。
「ありがとう」
ルリカはそれを受け取ると、少しずつゆっくりと口にする。
「明るくなったらこのあたりを回ってみよう。何かあるかもしれない」
実際には、何かあるなど期待していなかった。それでも、ほんの少しの希望や、わずかな勇気でも彼女に与えられるなら。ルリカはパンをほお張ったまま、大きくうなずいてみせた。
先にパンを食べ終えたサカキは、サックを枕にして、ごろんと横になった。春先とはいえ、夜は冷える。奇跡的に窓ガラスと部屋のドアが無事だったため、外の冷気はある程度遮断できるが、それでもコンクリートの床はシュラフを通しても冷たい。
サカキとルリカは一枚のシュラフにくるまり、互いに抱き合うようにして眠った。
――行きなさい。
突き放した声が響く。
――生きなさい。
絶望にさいなまれたそのさなかに、それでも唯一の希望を託してくれたのは、母親。
みんないない。
誰もいなくなってしまった。
覚えているのは限りない恐怖。
底なしの泥沼のような悲しみ。
ひとりでなんて生きていけない。
両親の悲壮な表情が目に焼き付いて離れない。
その手のぬくもりにいつも守られていた。
その庇護のもとでしか生きていなかった。
――どうして。
怒りも憎しみもすべて、いつのまにか絶望と恐怖へと変わっていく。
それでも、こんなに弱い自分でも、なお生きつづけようとしている。
傲慢、な渇望。
自己悲哀なのかもしれない。
死んでいった者たちの分まで、生を押し付けられて生きてなんていけない。
最初に死ぬべきは、本当は自分ではなかったのか。
命を犠牲にして生きていく価値なんて。
ありはしないのだ。




