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30:――ルリカっ!

 どこまでも続く暗闇の中を、当てもなく逃げ惑っていた。抗いようのない恐怖に突き動かされ、死にもの狂いで走り続けていた。

 

 分かるのは、誰かの手を引いているということだけ。この手だけは、何があっても放せない。放してはいけない。

 

 ただ逃げる。それしか考えられなかった。小さく、か細いその手も、必死に握り返してきた。


 生きる意志も、生への渇望も、いつしか絶望に塗り潰されてしまった。死という終焉が、暗く冷たい泉のように口を開け、すぐそこに待っている。抗えないと分かっていても、この温もりがある限り、どこまでも走り続けるつもりだった。

 

 ――何よりも、誰よりも大切だから。最後のその瞬間まで、守り抜きたかった。


 

 そのとき、後ろを走る彼女が何かにつまずいて転び、拍子に手が離れた。

 

「――っ!」

 

 名を呼ぼうとしたが、声が出ない。

 

「――キ……」

 

 彼女が手を伸ばす。薄紫の瞳が大きく揺れ、自分を捉えていた。彼女の両足には、細い蔓が幾重にも絡みついている。差し伸べられた手をつかもうとするが、身体が動かない。その間にも、蔓は四方から伸び、彼女の身体を覆い、締めつけていく。

 

 

 助けたいのに、助けられない。

 

 守りたいのに、何をすればいいのか分からない。

 

 

 叫んでいるのに、声にならない。

 

 一歩も動けず、ただ立ち尽くす。


「――っ……」

 

 薄紫の瞳から涙がこぼれ、彼女が最後の力を振り絞るように、かすれた声で呟いた。

 

「――サカキ……」

 

 その震える声が、すべてを貫いた。



 守るべきもの。

 

 何よりも大切なもの。

 

 唯一無二の存在。


 

「――ルリカっ!」

 

 蔓は彼女の全身を覆い尽くし、繭のような塊へと変わっていく。

 

 それに向かって、反射的に駆け出していた。

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