21:そして、悟った
巨大で凶暴な敵から、ただ逃げ続けていた。
気が付いたときには、すでに独りだった。誰かといた記憶があったのか、それすら曖昧で。残っていたのは、絶望。
生きるために必要なことだけを覚え、それ以外はすべて切り捨てた。切り捨てないと、生き残れなかった。
やがて、ひとつの部隊に拾われた。見知らぬ外国人の兵士たちだった。
最初はただの荷物持ち、次は使い走り、その次は弾薬の補充係。それでも構わなかった。
命令があり、食事があり、誰かの声があった。
それだけで、十分だった。
その部隊はサカキを戦力ではなく、ただの子供として扱った。ときに笑い、ときに怒り、ときに頭を撫で。
サカキはそれを“安全”だと錯覚していた。
強い雨が降り続いたある日、それは突然訪れた。
最初の違和感は無線の途切れだった。何度も送った応援要請に返信はなく、撤退命令すら届かなかった。
送られていなかったのか、受け取れなかったのかは分からない。
ただ、それだけは確かだった。――誰も来ない。
濁った雨の中で、それは始まった。
最初は一体だった。次に三体。そして、大群へ膨れ上がった。
叫び声が上がった。ランチャーの発射音が、四方に轟いた。しかし、直ぐに雨と足音がすべてを呑み込んでいった。
無線に応答はなく、ただノイズだけが続いた。
そのとき、サカキは気づいた。
これは“戦闘”ではない。
最初から“処理”だったのだと。
次の瞬間、目の前にいた兵士が引き摺り込まれた。サカキを拾った最初の兵士だった。血と雨が視界を濁らせる中、その声だけがはっきりと届いた。
「――お前は、生きろ」
腕が伸び、サカキは突き飛ばされるように放り出された。直後、男の身体は無数の蔓に絡め取られ、空へと引き上げられた。見上げると、蔓でできた繭が無数にぶら下がっている。その下には血溜まりが広がっていた。
叫びも抵抗も、すべて飲み込まれていった。
生き残ったのは、サカキだけだった。
気がつくと、雨は止んでいた。
そこには何もなかった。人も声も温度も。
ただ瓦礫と血の匂いだけが残っていた。
そして、悟った。
救援要請は届いていなかったのか、届いていたのに無視されたのか。
どちらでも同じだった。
――助ける意思は、最初から存在しなかった。
その日から、サカキは誰も信じなかった。頼ることもしなかった。
生き延びるために必要なのは、他人ではなかった。自分の手と、判断と、殺す技術だけ。
それだけを積み重ねて、生き延びてきた。壊し葬り去ったものの数は、覚えていない。覚える必要もなかった。
――そして、あの時。
ルリカに会うまでは。




