01:意思も言葉も持たない
目を開けると、鮮やかな緑の葉が幾重にも重なり、その隙間から青空がわずか見えていた。切り取られた景色の中で、鳥のさえずりと無数のセミの鳴き声が、その隙間を満たすように重なっている。
差し込む光に目を細めながら、遠くに見える小さな空をぼんやりと見つめた。
風が頬をかすめるたび、細い枝がゆっくりとしなり、その動きに遅れるように葉擦れの音が静かに広がっていく。
額に手を当て、なぜここにいるのかを思い出そうとした瞬間、小さく咳き込んだ。息を吸うたび、肺がわずかに痛む。
深呼吸を繰り返し、肘をついてゆっくりと上半身を起こした。身体は鉛のように重く、あちこちに痛みが走る。首から下が、自分の身体ではないような感覚だった。
低く声を漏らしながら、ようやく背後の太い木の幹に寄りかかり、痺れる腕を抱えて肩で大きく息をついた。ひんやりとした空気が、鈍い神経を伝って身体の奥へと浸透する。
視線をずらすと、並んだ樹木の間を通る石畳の道と、その先に光を反射する池の水面が見えた。わずかにさざ波の立つ池では、水鳥がときおり声を上げ、水面へと首を突っ込んでいる。
水面の眩しさから目をそらすと、視界の奥へと延びる道の両側に、枝を幾重にも重ねた木々が静かに弧を描いていた。その連なりは遠くへ行くほど曖昧になり、境界が溶けるように奥へと消えていく。
無数の枝は風に身を預けるようにゆるやかにそよぎ、空へ向かって腕を伸ばしているようにも見えた。
彼はしばらくその光景を見上げ、やがてゆっくりと身体を起こした。重さを引きずるように立ち上がり、背にしていた樹木へと視線を戻す。
そこにあるのは、ただ風に揺れるだけの巨大な存在だった。意思も言葉も持たないはずなのに、まるで何かを見返してくるような気配だけが、静かに返ってきた。




