表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

01:意思も言葉も持たない

 目を開けると、鮮やかな緑の葉が幾重にも重なり、その隙間から青空がわずか見えていた。切り取られた景色の中で、鳥のさえずりと無数のセミの鳴き声が、その隙間を満たすように重なっている。


 差し込む光に目を細めながら、遠くに見える小さな空をぼんやりと見つめた。


 風が頬をかすめるたび、細い枝がゆっくりとしなり、その動きに遅れるように葉擦れの音が静かに広がっていく。


 額に手を当て、なぜここにいるのかを思い出そうとした瞬間、小さく咳き込んだ。息を吸うたび、肺がわずかに痛む。


 深呼吸を繰り返し、肘をついてゆっくりと上半身を起こした。身体は鉛のように重く、あちこちに痛みが走る。首から下が、自分の身体ではないような感覚だった。


 低く声を漏らしながら、ようやく背後の太い木の幹に寄りかかり、痺れる腕を抱えて肩で大きく息をついた。ひんやりとした空気が、鈍い神経を伝って身体の奥へと浸透する。

 

 視線をずらすと、並んだ樹木の間を通る石畳の道と、その先に光を反射する池の水面が見えた。わずかにさざ波の立つ池では、水鳥がときおり声を上げ、水面へと首を突っ込んでいる。


 水面の眩しさから目をそらすと、視界の奥へと延びる道の両側に、枝を幾重にも重ねた木々が静かに弧を描いていた。その連なりは遠くへ行くほど曖昧になり、境界が溶けるように奥へと消えていく。

 

 無数の枝は風に身を預けるようにゆるやかにそよぎ、空へ向かって腕を伸ばしているようにも見えた。


 彼はしばらくその光景を見上げ、やがてゆっくりと身体を起こした。重さを引きずるように立ち上がり、背にしていた樹木へと視線を戻す。


 そこにあるのは、ただ風に揺れるだけの巨大な存在だった。意思も言葉も持たないはずなのに、まるで何かを見返してくるような気配だけが、静かに返ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ