00:生きるほうが難しい
忘れないでいて
私は確かに
あなたと共に存在していたということを
かすれた小さな泣き声がどこからか聞こえていた。重く湿った空気の中で、ときどき咳き込みながらも、その声は途切れることなく続いている。
崩れかけたコンクリートの通路には、濃い暗がりが沈んでいた。その中で、泣き声だけが浮いている。
「……ごめんね……」
何度もしゃくり上げながら、少女は膝の上に抱えた子犬の頭をそっとなでた。だが、子犬はぐったりと目を閉じたままだ。少女はまだわずかに温もりの残る小さな身体を、強く抱きしめた。こんな小さな生き物すら守れない。
――守れなかったものを、最後まで抱え続けることしかできない。
ふと、前髪に触れる指の感触に、少女は顔をゆっくりと上げた。少年がしゃがみ込み、彼女を見つめていた。そして、少女の頬に冷たい手をぎこちなく触れさせたあと、汚れた袖で涙をそっと拭った。
「パメラが――」
「わかっている」
少女の声を、少年が遮る。
「お前のせいじゃない」
「でも……」
「生きるほうが難しい」
淡々とした声だった。
感情ではなく、事実を語る声音。
「静かに眠らせよう」
「このまま生きていくよりも?」
「……このまま生きていくよりも」
少年は静かに答えた。
「……そうだね。次に生まれてくるときは、もっとずっと幸せだといいね」
少女は上着を脱ぎ、冷たくなり始めている子犬をくるんだ。
……このまま生きていくよりも。その言葉は重い。
「行こう」
澄んだ声で少年は言った。
「ここも、もう危ない」




