表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

00:生きるほうが難しい

 忘れないでいて


 私は確かに

 あなたと共に存在していたということを



 

 かすれた小さな泣き声がどこからか聞こえていた。重く湿った空気の中で、ときどき咳き込みながらも、その声は途切れることなく続いている。

 

 崩れかけたコンクリートの通路には、濃い暗がりが沈んでいた。その中で、泣き声だけが浮いている。


「……ごめんね……」


 何度もしゃくり上げながら、少女は膝の上に抱えた子犬の頭をそっとなでた。だが、子犬はぐったりと目を閉じたままだ。少女はまだわずかに温もりの残る小さな身体を、強く抱きしめた。こんな小さな生き物すら守れない。

 

――守れなかったものを、最後まで抱え続けることしかできない。

 

 ふと、前髪に触れる指の感触に、少女は顔をゆっくりと上げた。少年がしゃがみ込み、彼女を見つめていた。そして、少女の頬に冷たい手をぎこちなく触れさせたあと、汚れた袖で涙をそっと拭った。

 

「パメラが――」

「わかっている」


 少女の声を、少年が遮る。


「お前のせいじゃない」

「でも……」

「生きるほうが難しい」


 淡々とした声だった。

 感情ではなく、事実を語る声音。


「静かに眠らせよう」

「このまま生きていくよりも?」

「……このまま生きていくよりも」


 少年は静かに答えた。


「……そうだね。次に生まれてくるときは、もっとずっと幸せだといいね」


 少女は上着を脱ぎ、冷たくなり始めている子犬をくるんだ。

 ……このまま生きていくよりも。その言葉は重い。


「行こう」


 澄んだ声で少年は言った。


「ここも、もう危ない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ