第七十六話 其の一 処分(其の一)
国民を巻き込んだ不正事件は決着がついた。ただ、関係者の処分が残っている。これに関しては、義行もどうしていいかわからない。それならと、詳しい者の判断を仰ぐことにした。
翌朝シトラさんと朝食を取った後、二人はサイクリウスの執務室に向かった。
「今回の処分なんだが、どうするのが適当なんだ?」
「通常の流れですと、起訴して裁判です。原則、公開裁判とし、それを経て処分が決定という流れです。ただ今回の場合、公開裁判とすると些か不都合が生じる可能性がございます」
「なんだ、なにかまずいことでもあったか?」
「シトラ様です」
「シトラさん、なにかやらかしたんですか?」
「なにもしてないわよ!」
『不都合が生じる』で、『シトラさん』とパッと口に出るのが義行らしいところだ。
「シトラ様の存在でございますよ。主犯たちが罪を認めてますので、これだけでも問題ありませんが、シトラ様の証言も重要になります」
「そうだな、表には出せんよな。放送コードに引っかかる」
「わたしゃ、猥褻物か!」
なんだかんだ言いつつも、乗っかってくるシトラさんは頼もしい。
「冗談ですよ。冗談。しかし、そうなると裁判できんじゃないか」
「そこで、魔王権限がございます」
一瞬、『うほっ。俺、強えー!』って言葉が義行の脳内を駆け巡った。
「罪の軽重はしっかりと考慮いただく必要はありますが、魔王さまが処分を決定することが可能です」
「過去の例だと、どんなのがある?」
「ここ最近はありませんが、大部分はお家騒動関係ですね。国民を巻き込んだものとなると、貨幣経済に移行して数十年経った頃に起こった通貨偽造未遂事件でしょうか」
「うん? それの何が問題だったんだ? 鋳つぶして、混ぜ物をする程度だろ。それなりの知識と設備をもってる奴はできるんだから公開でやっても問題ないんじゃないのか?」
「それがそうでもないのよ」
なぜかシトラさんが横やりをいれてきた。
日本にいたとき、核心部分には触れないが、通貨偽造の報道もそうだし、お金ができるまでなんて記事や特集もあった。それを見ている義行からすると、秘密裏に裁判する意味がわからなかった。
「ねぇ、魔王さまはこの国の貨幣がどうやって作られてるか知ってる?」
「金や銀を鋳造するんでしょ?」
義行は日本での硬貨の作り方をぼかしつつ説明した。
「やけに詳しいわね……。じゃあその金や銀はどこから来てる?」
義行は馬鹿にされたような気分だが、『そりゃ鉱山でしょ』と答えた。
「どこの?」
「……」
「誰が掘ってるの?」
「し、城の職員?」
「じゃあ、誰が鋳造してるの?」
「し、城の職員……」
「どこで?」
「……」
改めて質問されると、中途半端な答えしかできない義行だった。
「ごめんね、意地悪な質問で。でも、その答えでいいのよ。全部答えられたら魔王さま自体消されてたわよ」
「ちょっ、どういうことですか?」
シトラさんはちょっと考えて話し始めた。
「その発掘から鋳造には妖精たちが絡んでるのよ」
それは義行には衝撃的な発言だった。
「魔王さま、貨幣の生産に妖精が関与してることを知っているのは基本、宰相のみです。但し、私でもどこで採掘され、どこで作られているかは知りません。ただ、どうやって届くのかは、この間の裏帳簿の出現で理解できました」
「なっ、なんでそんなことに?」
「それが、さっきの通貨偽造未遂事件のせいよ。当時の財務担当大臣が通貨偽造に手を出した。それは未遂に終わったんだけど、それを不安視した当時の魔王さまが妖精たちと契約を結び、発掘から生産までの一切を妖精に任せたの。でも、お金が湯水のごとく湧いて出るのではないこと知らしめるため、宰相だけに情報を与えたの」
ここまで聞いて、義行の顔は青から白にまで変化していた。
「でっ、でも、今ので俺も全部知っちゃいましたよ?」
「魔王さま、アウトー」
義行は脳内に『デデーン』と効果音が響いた気がした。
「というのは冗談。これだけ妖精と関係を持ってる魔王さまなら、そのくらいなら大丈夫よ。さすがに、鉱山や精錬・鋳造場所までは教えられないけどね」
どうやら、消されることだけは免れたらしくホッとした義行だった。
「しかし、なんで権力を持つと次は金に行くのかねー」
「そうよねー。女に落ちる方がまだましね。そこで魔王さま、私なんてどうかしらー」
「……」
「ま、まぁ、そういうことで、その事件も魔王権限で決着させたようです」
義行としては、単に非公開の裁判にどんなものがあるのか聞きたかっただけなのに、とんでもない情報を手にしてしまうことになった。
「サイクリウス。ちなみに、魔王権限での最高刑は?」
サイクリウスは、『良い子の為にぼかしますが』と前置きをした上で、首をチョインとする例のアクションをやって見せた。
「じゃあ、通常の裁判では?」
「現在、無期懲役が最高刑ですね。ただし、恩赦等はございません」
恩赦がないって、逆に死刑よりきつい気がした義行だ。ただ、今は死刑と無期刑どちらがの話は置いておくとして、一つの案を思いついた。
「シトラさん、魔王と妖精の盟約って今でも生きてるって話でしたよね?」
「有効よ」
「追加は可能ですか?」
この件ではがっつりと係わってることもあり、シトラさんも「嫌よ」とは言わなかった。
「もし可能なら、鉱山で刑務作業させようかと思っています。国民の為に働かせるのはありかなと」
「魔王さま、それは四名全員ということですかな?」
「そうだ。ただ、書類書き換えの職員は関与の度合いから、懲役三年だな」
「三年ですか?」
「奴のやったことは許されるものではないし、公僕だ。ただ、他の三人と比べ悪意は低いと判断した」
「なるほどねー。お金で国民を欺いたんだから、お金絡みで働いて償えか……」
「どうでしょう」
「わかったわ。明日、いや明後日の午前中に鉱山のボスを連れて来るわ。あ、『ワイロヲ ヨウイスルト コウカテキヨ』」
最後の方に笑いそうになったが、義行は主犯クラスの処分を確定した。
「で、関与の度合いの薄いものたちについてだが、これも魔王権限でいけるのか?」
「ええ、今回の一連の事件ということで、纏めて処分は可能です」
こちらに関しては、義行も大分前に処分を考えていた。
「それじゃあ、ユーサーの甥は養鶏業の免許剥奪と厳重注意。酒処は廃止のうえ、出資者に厳重注意。第一圃場の自由組八名と、身の振り方の決まってない五名の研修員は口頭注意とする」
「妥当なところでしょうな」
「あと、過分に徴収された金額を算出して、主犯たちの財産から取り戻して国民に還元してくれ」
「また難しいことを……。やってみましょう」
処分を決めた翌日は、義行は朝から賄賂づくりに精を出した。
余った賄賂の一部をヴェゼたちのお礼にと果樹園に向かうと、尋問に使った一軒家が移され、あちこち修繕がされていた。
次回の更新は、六月二十六日(金)十七時三十分前後を予定しています。




