表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/88

第七十五話 其の三 反撃(其の三)

 十二時前まで振興部で過ごして、義行は食堂に向かった。

 既にサイクリウスが席に着いていた。


「例の物が届きました」

「中身は確認したか?」

「はい、間違いありません」


 ガサ入れされたら一発アウトは目に見えている。それなのに、なぜ燃やすなりして処分しないのか義行は不思議でならなかった。そんなことをサイクリウスに話すと、「私でも取っておきますな」と意外な答えが返ってきた。


「恐らく、財務担当部長や書類作成者も同じ考えでしょうな」


 義行は尋問のときにでも聞いてみるかと思い、サッと昼食を済ませ行動に移った。森の入り口で待ち構えていると、サイクリウスが二人を連れてやってくる。


「待ってたぞ。行こうか」

「あの魔王さま、どちらに」

「なんだ、わからんのか?」

「ええ、なんのことやら」


 いい度胸をしているようだ。男の子はそのくらいじゃないとなと義行は思いながら、昨日と同じように一軒家の前までやってく来た。


「これはこれは。魔王さまもこのような秘密基地をお持ちとは」

「いいだろう。静かなうえに、周りに声が響かんから重宝するんだよ」

「なるほど。お楽しみ中は邪魔されたくないですよね」


 下種(げす)な奴だと思いながらドアを開け中に入った。

 その途端。


「出してくれー。変な動物ー。喰われるー。だずげでぐれー」


 汚く泣き叫ぶ声が響いた。


「うるせー!」

 義行は部屋のドアを思いっきり蹴り上げる。

「ま、ま、魔王……さまー。だじでぐだざいー。森、森、おばげー」

「家から出なきゃ安全だ。それは約束する」

「だじでぐでまずかー」

「明日か、明後日には出してやる」


 声で誰かはわかっただろう。振り返ると、さっきまで軽口を叩いていた財務担当部長の顔が引き攣っていた。


「悪いな、騒がしくて。まあ座ってくれ」


 二人が静に席に着いた。


「今日はお前たちに聞きたいことがあって来てもらった。細かい話はなしだ。幾ら儲かった?」

「なんのことでしょうか?」

 財務担当部長は、顔色一つ変えずに答える。

「ポテや米の売上誤魔化して、幾ら儲かったんだと聞いてんだよ!」

 財務担当部長の態度にイラッときて、義行は怒鳴ってしまった。

「あのー、起案中の決算書類に記載があったかと思いますが、ちょろまかすもなにも……」

「ああ、これだろう?」

 義行は、青インクの印付きのポテの集計表と米の集計表を机に出す。しかし、財務担当部長は澄ました顔で書類を見ていた。内心、動揺しているのか、それとも本気でごまかせると思っているのか、義行は判断できなかった。

「そうです。一部誤記等がありましたが、我々の部署で起案してますので間違いはないかと」


 それならと、義行はインベーゼルの時と同じように、マリーの実家の出納簿を出す。


「じゃあ、こっちの米の金額はどうだ? ある店の仕入れ帳簿だ」

「記入間違いではありませんか?」

 これにもシレッと答える。

「これを見てもそう思うか?」

 それならばと、義行は集めた資料全てを出した。

「はい。魔王さまは、こんなことは()()()起こらないと言えますか?」

 こういわれたらこう言い返せ、といったマニュアルが作られていたのだろうか。

「普通はあり得ないぞ」

「世の中、あり得ないことが起こるのが常です。そこまでおっしゃるのなら、この帳簿の数字が正しいという証拠を出していただけませんか?」

「証拠か……」

「魔王さまは証拠もなく人を疑い、犯罪者に仕立て上げるのでしょうか?」


 よくもまあペラペラと喋りやがると思ったが、やましいことがあり、そこから眼を逸らせる為に饒舌(じょうぜつ)になっているのだろうと義行は判断した。


「そんなことはないんだがな……。ちょっと疲れたな。休憩がてら本でも読ませてもらうよ。サイクリウス、入手したての最新刊を頼む」


 サイクリウスから手渡された一冊に、財務担当部長と書類作成者の目が注がれる。


「これ、なかなか刺激的な内容らしいぞ。今、俺たちの周りでは赤丸急上昇中の一冊だ」


 さすがに、これには動揺を隠しきれない二人だった。


「なるほど、ポテやその他食材がどなたかに横流しされますねー。そうですか、キックバックが銅貨二枚から三枚。売上と国庫の数字がずれるとまずいですから改竄すると。ありゃりゃ、米と小麦の価格も集計表の販売金額と違いますねー」


 財務担当部長の口からは「あっ、あ、あ……」と漏れるだけだ。


「横流し分はどこに行ったんでしょうか? 単純な差額以外にも大きな数字がどなたかに動いてますねー。解説のサイクリウスさん、どう思いますか?」

「そうですね、これはチームの戦略ですから、チーム関係者に聞くのが一番じゃないでしょうか?」


 義行はちろりと財務担当部長を見る。

 先ほどまでの余裕はないようだ。義行はそのまま追い詰めることにした。


「あれれー、一番最初の日付は夏前じゃないの。ポテだけじゃなく玉ねぎにドテまで。今年だけで金貨百八十五枚のリターンですね。これもよく起こる間違いなんでしょうかねー。おもしろいですねー」


 厭味ったらしく解説しつつ、義行は待った。


 落ちた。家族を人質にするまでもなかった。

 そこからは、全てを正直に語り始めた二人だ。


「お前らなー、証拠書類残すなよー。昨日の段階で燃やすのが一番だろう」

 義行は朝から思っていたことを話した。

「い、いや、あの……、う、上手くいけば、これをネタにインベーゼル様を……」

「……、あー、そういう使い方かー」

「魔王さま、感心してる場合じゃありませんぞ!」


 なんか納得できた義行は、細かい調書作成をサイクリウスに任せ一度屋敷に戻った。疲れたからではない。食事は与えないと道義的に非難されるからだ。


「あれ、今日は早いっすね」

「確実な証拠があったからな。悪いが、あの三人の食事を頼む」

「昨日と同じでいいっすか?」

「そうだな……。魔王さまは優しいから、昨日とは少し違うものを差し入れてやろう」


 義行は一旦自室に戻り、明日のユーサーをどう落とすか考える。


 一七時を過ぎた頃、マリーが食事の詰められたバスケットを持ってきたので、それを持って一軒家に向かった。


「サイクリウス。どうだ、終わったか?」

「後は、二人の署名を取るだけです」

「じゃあ、サインが終わったらそれぞれの部屋にぶち込んでおいてくれ。あ、これ食糧な。俺は、こっちの部屋に食糧を差し入れるわ」


 義行が扉を開けると、部屋の隅でガタガタ震えるインベーゼルの姿があった。


「おい、飯だぞ」

「ま、まお、魔王さま。こ、この、この森……」

「同じところ何時間も歩かされたんだろう? で、泉に落とされて、動物に襲われて、ここに戻ろうと思ったら違う場所に出て、これ以上動けないと思って休もうものなら、また動物に追いかけ回されたんだろう?」


 昨日の夜起こったであろうことを話してやった。別に、ヴェゼたちに聞いたわけではない。これまでのことからの推測だ。


「こ、ここは、あ、悪魔の森だ!」

「おいおい、なにが悪魔の森だよ。その森の恵みで私腹を肥やしたんだろうが。感謝するべきだろう。もう少し我慢すりゃ出してやる」


 三人を小屋に残し、義行はサイクリウスと小屋から出た。

 屋敷に戻って皆で夕食を取っていると、シルムが心配そうに聞いてきた。


「魔王さま、第一圃場の人たちと研修員はどうなりますか?」


 別に教えてもいいかと思い、「口頭注意程度だな」と義行は答えておいた。

次回の更新は、六月十二日(金)十七時三十分前後を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ