第七十二話 身の振り方
やって来た子供たちの話は次のとおりだった。
「魔王さま、市場のポテの値段はキロ当たり銅貨四枚でした」
「うん、いつもの値段だな。城の販売所はどうだった?」
「販売所は、キロ当たり銅貨四枚の日もあれば五枚の日もありました」
「そうか、ありがとうな。後で食堂に寄って帰るといい。マリーがおやつを用意してくれてるよ」
子供たちは歓声を上げながら振興部を出て行った。
ノエルだけその場に残った。
「これ、どうなんでしょうね?」
「日によって値段を替える……か。やっぱり、値段を動かしての数量調整なのかな」
サイクリウスにそう言われてから義行は考えていたが、やはりこのやり方には馴染めない。
「財務担当部に聞かないんですか?」
「それが一番早いと思うんだが、夏のポテ以降、どうも違和感があってな。下手に聞きに行くとこっちがやられそうで……」
結局答えは出ず、義行は引き続き隠密調査を続けることにした。別に引き伸ばしたわけではない。今週のアーシの収穫や来週の面談の段取りを考える必要があったからだ。
その二日後、第一及び第二圃場ではアーシの収穫が始まった。それに合わせて、城の裏庭には収穫されたアーシが運び込まれた。
「魔王さま、アーシの出来もよかったようですね。こちらも城の販売所で売っていきますね」
さも当然だというように財務担当者は話してくる。
「そうか。それじゃあ、種の分の管理もしっかりな」
但し、義行も釘を刺すことを忘れない。
「え? いや、それは研修員の仕事では?」
「お前はアホか! 米のとき、ライザーは城の職員と一緒って言ったろ。第二圃場の研修生は違うのか? やれ!」
「えっ、いや……」
「なんだ、『嫌』なのか?」
「いえ、あの……、『嫌』と言ったんではなくて、その……」
財務担当者は泣きそうになっている。米のときと同じ担当者ならなんらかの反応をしたのだろうが、今日は別の職員が来ているのだ。
「やるの? やらないの?」
「や……、やります」
義行は答えを聞いて、それ以上いびることは止めた。いびったところで事態が好転しないのは自分でも分かっているからだ。でも、嫌みの一つでも言っておきたかったというのが本音だ。
そんなことがあった翌日、城の販売所でアーシも売られ始めた。
「魔王さま、アーシは同額で販売してますね」
「ああ、子供たちもそう言ってた」
「よくわかりませんね」
「別に、同額で販売しているならそれでいいよ」
なんだか投げやりな対応に見えるが、実はこのとき、義行の心は明日の面談に傾いていた。研修員の今後について話を聞く予定にしている。これにより、来年の研修員制度も考え直す必要がでてくるからだ。
翌日、朝から振興部の会議スペースは賑わっていた。午前中に五人、午後に五人の研修員の今後を聞くのだ。他の者とじっくり面談したいということもあり、まずいちばん問題のないライザーさんが一番手だ。
「取り敢えず、稲作は十月で終わって、今は土づくり等の勉強になってると思うけど、来年からどうする?」
「そうですね、今年稲作を行った土地十二枚をお借りして、稲作を続けたいと思います」
「即答だな」
「応募の段階からそう決めてましたしね」
義行にしてみれば、力強い仲間が増えることになった。
「しかし、来年の十月までなんとかなるのか?」
「まず二月末で契約は切れますよね? 芽出しの間は、マヨネーズ工場とガデンバードさんの牧場でアルバイトします。その後も時間があるときはアルバイトして、これまでの貯金を元手に自宅を建てようかと」
「なかなか厳しいだろう。金額的にも……」
研修期間中の補助を金貨五枚にしたことが、こういったところに影響している。
「そこについては、できるところは自分でやろうかと。棟梁に聞いたら、土台と重要な部分は専門家に任せた方がいいが、それ以外で、個人ができる部分は結構あるって」
「まったく、棟梁までたらし込んで……。必要なら俺もアドバイスさせてもらうよ」
「では、遠慮なく」
「じゃあ、都合のいいときに賃貸借契約を結ぼうか。親父さんと調整してくれ」
ライザーさんは予定どおりの回答だった。残りの九人はどんな答えを出してくるのか楽しみだった。
途中で五人入れ替わるというトラブルもあったが、この約十か月の各人の行動等が細かく記録されたレポートから、答えを想像しながら午前中の五人の面談を進めて行った。
そして、その日の十一時五分。なぜか義行の姿は食堂にあった。
「あれ、魔王さま。早くないっすか?」
「十分で面談の終わった者が二人いてな」
「農業は諦めたってことっすか?」
「いや、そこがよくわからん。城とは賃貸借契約しないらしい。でも、農業をしないという感じでもなかったな」
身上書を見る限り一般家庭の出であり、土地はありそうもなかった。そうなると、城以外から土地を借りるか、誰かに雇われるということだ。
「それじゃあ、この近辺以外で農業するんすかね?」
「さあな、土地さえ借りられれば農業はできる。それが城より安い金額ならそっちに行くこともあるだろう」
「技術が流出するっすよ?」
「それは問題じゃない。むしろ、彼らに広めてもらいたい部分まである。もちろん、その技術を金取って広めるなら取り締まるがな。まあ、午後も面談があるんで、昼飯にしてくれ」
ちょっと長めの昼休憩をとり、義行は午後の面談を十三時から始めた。
そして今度は、十五時に義行の姿が食堂にあった。
「あら魔王さま、おやつ休憩ですの?」
「終わった……」
別に義行のライフが燃え尽きたわけではない。単純に面談が終わっただけだ。
「面談にもならないのが三人いてな。それで、この時間に終わった」
午後の三人のうち二人からは、明確に『城とは契約しない』と言われた。つまり、どこかで城よりいい条件の賃貸借契約があるということだ。もう一人は考え中だと。
「午前中も二人早く終わったって話でしたけど、そうなると卒業するのは五人ですか?」
「いや、全員卒業するよ。うちと縁を持って農業をするのが五人ということだな」
「ライザーさんは確定として、残りの四人は?」
「男性一人、女性三人だ」
「あら、女性は三人とも残るんですね」
「あぁ、ノノやシルムが目標だってさ。よろしく頼むぞ、先輩」
その後、義行は夕食まで食堂でウダウダし、夕食後はワインを自室でちびちびやりながら考えた。
「バックにスポンサーがいる。はたまた、技術だけを盗みそれを使って金儲け。全てあり得る話だよなー。今回の研修生は城で雇用という形態にして賃金は出したが、収穫物の販売で十分ペイしてるから国に損害は出ていない。まあ、どこかで農業をしてくれれば、流通拡大には貢献してくれるか……」
今日の面談を振り返っていろいろ考えてみたが、答えは出なかった。
「ただこうなると、次の募集方法がなー。もう一回練り直すか……」
ワインのせいで眠くなってきた義行はベッドにもぐりこんだ。
―その頃、秘密の小部屋では……
「今日、面談だったんだろう。なんだって?」
「はい、今後の身の振り方について聞かれました」
「あの、インベーゼルさん。我々の今後は大丈夫なんですよね?」
「私が信用できませんか?」
「いえ、そんなわけではないんですけど、来年、収入がないんじゃ我々も……」
「心配になるのはわかりますよ。ユーサー、そっちはどうなってる?」
「はい、郊外の土地の確保は終わってます。当然、開墾する必要がありますが。ただ、私の甥が管理する土地はすぐにでも使えます」
「全員か?」
「そこが問題でして、一人で四面受け持ってもらうなら二人ですね。他の三名は、新規の土地を開墾から始めてもらうことになります」
「契約は二月までか?」
「はい。ですので、新規に開墾となるとそれ以降になります」
「春ポテは無理か?」
「できないことはないと思いますが、土づくりを考えると難しいかと」
「クソ、魔王さまも中途半端な契約を」
「あのインベーゼル様、ポテは種芋があればなんとかなりますが、アーシやニンジン、それにタマネギの種は手に入りますか?」
「お前たち、どうなんだ?」
「それらの種は、収穫せずに残した二年目の物で採取できます。ですので、我々が種を入手するには購入するか、だれかに譲ってもらう必要があります」
「おい、ユーサー、なんとかなるよな?」
「えっ、あっ、あの……、鋭意努力いたします」
「城の職員の答弁か! お前たち、第一圃場の農家と伝手はないのか?」
「彼らと話はしますが、彼らも他の農家に配るだけの種を持っているのかどうか……」
「インベーゼル様、城からちょろっとやるわけにはまいりませんか?」
「おいどうだ、できるか?」
「すみません大臣、種は魔王さまがどこかで管理してるようでして……」
「おい、ここでの大臣呼びは止めろ!」
「申し訳ありません。やるとしたら、来年の春以降、畑に蒔かれた物をちょろまかすしか方法はありません」
「クソ、あの人は用心深いのかなんなのかわからんな。まあ、いい。なにかあればまた連絡する」
一同は秘密の小部屋から出ていった。
次回の更新は、四月十七日(金)十七時三十分前後を予定しています。




