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第七十一話 疑念膨らむ

 迷いのなくなった義行は容赦なかった。文句を言う自由組五人の首根っこをひっ捕まえて、一日中しごきまくった。ただ、しごくだけでは意味がない。なぜそうなのかを理解させることが重要なのだ。朝から集会所に缶詰にし、土の重要性から連作障害まで懇々と説明した。気が付けば、魔王組や現研修員、更には開拓地以外の農家まで集会所に押し寄せての講義に発展してしまった。


 そんな講義の帰り、義行はエリー&ブレットでおやつ代わりにパンを食べていた。


「米粉のパンはどうですか?」

「爆発的な人気ではありませんが、固定客が付いてくれましたよ」

 これまで小麦を口にできなかった人たちだろうか。少しずつでいいので販売量を増やし行ってほしいと義行は思った。

「あと、どこの噂か知りませんが、美容にいいという話で女性客が多く来てくれてますよ」


 玄米を使ったパンが()()に良いというのならわかるが、()()に良いというのには若干の疑問を感じた義行だった。


「甘いパンとかは作らないんですか? クリームや果物をはさんだりとか」

「今の牛乳の量ではちょっと厳しいですね」

「では、お腹にたまるパンとかどうですか?」

「……。想像ができないですね」


 そんな話をして屋敷に戻った義行は、振興部でシトラさんを呼んだ。


「ビシビシやってるようね」

 開口一番、自由組の話だった。

「吹っ切れましたからね。誰かさんのおかげで」

 正直なところ、あれがなければ今もウジウジしていただろうと思う義行だった。

「でもまあ、程々にね。それで、今日はなに?」

「多分この時期だと黄色くなってると思うんですけど、シトラさんの山に、このくらいの大きさの黄色の果物ありませんか? 夏は緑色なんですけど」

「それならアリルの山に生えてるわよ。南側の斜面に黄色いのが見えるでしょうに。日光の関係なのか、ウチの山じゃうまく育たないみたいよ」


 そんな近場に生えていたとは全く気付かなかった。なので、今度はアリルさんを呼んだ義行だ。


「はーい。魔王さま、なんでしょう?」

「シトラさんから、アリルさんの山にレモン、あっ、黄色い果実が生ってる木があるって聞いて……」


 それを聞いたアリルさんは、「はい、はい」と言ってからスッと消え、数十秒もしないうちに四つほどレモンを持って戻ってきた。


「これですよね?」

「これです。春前にこの幼木をもらいたいんですけど可能ですか? あと、たまに果実も」

「果実は猟師が入れるエリアにも生えてますから、ご自由にどうぞ。幼木は、必要なとき連絡ください」

「ねえ魔王さま、これ食べらるの?」

「食べられますよ。でも今回は別の使い方にしようかと。じゃあ、台所に行きますか」


 シトラさんとアリルさんを引き連れ、義行は台所に向かった。

 夕方なので、既にマリーが夕飯の準備を始めていた。その横で、義行はレモンをスライスして食堂に持って行った。なにかおもしろいことが始まると思ったマリーも作業を中断してついてきた。そして、いつの間にかノノまでテーブルについている。


「まあ、一口どうぞ」


 食に関して興味大なマリーが、なにも考えずにスライスしたレモンを口に入れた。


「ピャー。こ、これなんすか、魔王さま」

 マリーの口はタコのようになっていた。

「あら、えらく酸っぱい果実ね。でも悪くないわ」

「お姉様も、お年を取られ……」

「チャック!」


 とばっちりを食わぬよう義行は食堂を出て、台所からハチミツとコップに水を入れて戻った。


「このままだときついでしょうから……」


 義行が作ったものは、輪切りのレモンを沈め、ハチミツを垂らしたハチミツレモン水だ。


「あらっ、これはさっぱりして、暑い夏なんかにはよさそうですわ」

「ただ残念なことに、この実は夏に収穫はできないんだよなー」


 そんな話をしながら夕食を待った。

 その日の夕食は、イノシシ肉のいい部位を安く買うことができたということで、塩で味付けしたもの、蒸かしたポテという夕食だった。


「市場を歩いてたら、猟師の人が魔王さまにって、安く譲ってくれたんすよ。夕方だったんで、余らせたくなかったみたいっすね」


 言っておくが賄賂ではない。日本のスーパーでも見る、閉店前の割り引きセールだ。


「あと気になったんすけど、今日は城の販売所のポテが結構売れ残ってたっすよ」

「今の時期なら十分な供給があるからじゃないか?」


 第一圃場で収穫された秋植えポテが出回りはじめ、城の販売所で買われなかった程度にしか義行は思わなかった。


「でも、第一圃場はニンジンとアーシが中心だったすよね?」


 そう言われて、義行は違和感を感じた。


 そんなこともあり、次の日義行は販売所をこっそり覗いてみた。覗くといっても、遠くから見る程度だ。気になったことをメモして、市場の他の店も回って城に戻った。


「サイクリウス、これをどう思う?」


 義行はメモをサイクリウスに差し出した。


「魔王さま、これは?」

「城の販売所のポテの価格と、市場で売られているポテの価格だ」


 調べたところ、城の販売所の価格は市場より銅貨一枚分高かった。


「なにか聞いてるか?」

「いえ、なにも。来年の収穫まで持つように、バランス調整で値上げしたのでは? 値段が上がれば、買う者も減るでしょうから」

「それは考えられるな。秋は作付けを減らしてるしな」


 ただ、量がないなら値段で売れ行きを調整するのではなく、販売数量で調整すべきだと義行は思っている。


「それに、銅貨一枚分なら暴利とは言えないでしょう。それに、最近はポテを含め、多くの野菜が出回ってます。人は市場の店に流れるでしょうから、市中の農家の売り上げに貢献するでしょうし」

「ああ、市場のポテは昼過ぎには売り切れてたよ」

「城は利益を追及するだけではないですからね。いざというとき、供給する食糧がないうのが問題です」


 サイクリウスのいうことも理解できる。ただ、義行にはモヤモヤが残るだけの報告になってしまった。

 夏のポテ、秋の米の取り扱いでやり合って以降、義行はなにかピリピリするものを感じていた。


 それならばと次の日、義行の姿はマリアさんの家にあった。


「よし、お前たち、今から密命を与える。心して掛かるように」

「わかりました、魔王さま。死んでも秘密は守ります」

「いや、死ななくていい。というより、そんな命令は出さん!」


 子供たちはケラケラと笑っている。

 魔王自身が動くと目立つので、院の子供たちに城の販売所と市場のポテ価格を調査してもらうことにしたのだ。義行はご褒美として、子供たちの口に黒糖を放り込んでやった。マリアさんには、米とハチミツを少し手渡した。


 それからの二週間、義行はアーシの収穫や念願のチーズ作りに手を出した。


「魔王さま、チーズってなんすか?」

「サラダに入れて食べても美味しいし、ピザにも使えるぞ」

「ピザっすか? 十回言えばいいんすね」

「ぴじっ! って、ちゃうわ!」


 ホント、なんでこんな変なことばかりが広まっているのか疑問に思う義行だった。


「まずは牛乳を火にかける。沸騰しそうになったら言って」


 この間に、レモンの搾り汁を準備した。


「魔王さま、沸騰しそうっすよ」

「そうしたら、このレモンの搾り汁を入れて、優しくかき混ぜる」

「なんか固まってきたっす。なんか気持ち悪いっすね」

「そういうな。よし、それをこの布で濾してくれ」


 布で濾して搾ったことでひと固まりになったチーズを持って、義行は冷蔵庫に向かった。


「あれっ……、今日は食べられないんすか?」

「明日だな。それに、ピザの作り方も教えてないし」


 冷蔵庫にチーズを入れ台所に戻った義行は、続いてピザとはなにか、そしてピザ生地の種類を説明を始めた。


「生地の作り方はパンと同じでいいと思う。平べったい円形のパン生地と思ってくれ。そして、焼いたときにパンのように大きく膨れる必要はない。だが、多少は膨らんで柔らかいほうが俺は好みだな」


 この塩梅(あんばい)は、本職の腕とこれまでの経験を信頼することにした義行だった。


「その生地の上にトマトソースを塗り、ホウレンソウや肉、さっき作ったチーズをのせてオーブンで焼いたものがピザだ」

「明日の昼食に出せるようにすればいいっすか?」

「ああ、ちょっと考えてみてくれ」


 義行はスキップしながら振興部に向かった。

 そんな姿を物陰から覗く一人の女がいた。


 翌日の昼前、台所で新たな企みが実行された。


「魔王さま、ピザ生地はこれで行けると思うっす」

 マリーにによって開発されたピザ生地に、義行は具材を載せていく。

「後はやるっすよ」

 

 焼きはマリーに任せ、その間に義行はフライドポテトとハチミツレモン水を作っていった。


 でき上がったピザセット一式を持って義行が食堂に向かうと、そこにはやはり居た。


「昨日スキップしながらうれしそうに歩いてる人がいましたからねー」

「ピザ! ピザ!」


 ある程度予想して義行は、持ってきたセット一式をデンっとテーブルに載せてやった。見た目は日本で見ていたピザとほぼ同じだ。


 四方八方から手が伸びて、口に運ばれる。


「こ、これは新しいっす」

「どうだ、マリー。若干手間はかかるが、なにかに使えそうか?」

「姉ちゃんに話してみるっす」


 ピザ披露も終わり、振興部で書類仕事をしていると、ノエルが子供たちを連れてやってきた。

次回の更新は、四月十日(金)十七時三十分前後を予定しています。

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