勇者、襲来
2部にも絵を追加しました。
「マスター!起きてください!」
「ぬおっ!」
ミミ焦ったような声に目を覚ます。
「どうした?」
「おそらく勇者です!」
「なに!?」
外を確認する。
まだ、朝日が半分ほど山に隠れている。
「勇者ってのは年寄りなのか・・・?」
「水まんじゅうも起きて!」
『!』
ミミが水まんじゅうに状況を説明している。
俺は魔法の最終チェックをする。
昨日、あれからただ寝ていたわけではない。
一応、魔法の練習をしていたのだ。
たとえば、シンプルだが魔法の弾を敵にぶつける魔法なんかを考えてひたすら練習していた。
「よしっ!・・・ミミ、水まんじゅう、隠れてろ!」
「はい!マイマスター!」
水まんじゅうもぺこぺこと頷いている。
「(来た・・・)」
石畳の床をブーツで歩く音が反響して何重にも響く。
「このダンジョン魔物一匹もいないの?・・・つまり、よほどあんたが強いんだね」
「(女!?)」
てっきり少年や青年が来るのかと思ったら、来たのはおかしな鉄仮面をつけた黒い髪の女だった。
戦いの邪魔にならないようにするためか、髪の毛は乱雑に短くされている。
金の縁取りがされている鎧は蝋燭の光に照らされて、キラキラと光っていて、肩には赤いぼろ布が巻かれ、外から入ってくる風で靡いていた。
「お前が勇者か?」
「うん、そうだけど・・・待って、なんで知ってるの?」
普通はダンジョンに篭っている俺が勇者のことを知っているわけがない。
サンドラと言う協力者のおかげであるが、ここで「ふっ、私には人間の協力者がいるのだよ・・・」などというのは馬鹿のすることだ。
「言うわけないだろう」
「人の協力者がいるとか?」
「なっ!ば、ば、ば、馬鹿なことを・・・に、人間の力など借りるか!」
「・・・ぷふっ、あっはっはっはっはっ!・・・わかり易過ぎ、あんたおもしろい!」
「くそっ・・・」
「でも、魔物であるからには死んでもらう!」
勇者が剣を引き抜く。
その剣を鞘から引く抜くと、ダンジョン内が光で満たされる。
「(うわ、なにこれ!すごい不快!痛いとかそういうのじゃなくて、なんかこう・・・すごい不快!)」
うまい言葉が出てこないが、とにかく嫌な予感がする。
この光は微弱だが日光の力を帯びている気がする。
「おや?まだ生きていたの?」
勇者が驚いたように言った。
「何?」
意味がわからず聞き返した俺に、勇者は自慢げな顔で剣を掲げて言う。
「この剣は聖剣、弱いアンデッドなら今の光を浴びただけで跡形もなく消滅するんだけど・・・おかしいな、この前あったレイスは消滅したのに・・・」
「(なにそれこわい!)」
血の気が引いていく。
そもそも血なんてあるのかわからないが。
「もちろん、たとえ霊体であっても切り裂ける」
あはは!と嬉しそうに笑う勇者が剣を構えた。
「!」
俺も応戦の構えをとる。
俺の周りを漂っていた剣で勇者の動きを封じる。
「な、なにこれ!レイスのレベルじゃないんだけど!」
そんなことを言いながら俺の剣を全て弾く勇者の顔にはまだまだ余裕が見える。
3回ほど勇者の聖剣が当たると俺の魔力の剣は砕けて消えた。
「くっ・・・」
俺は魔法の手と魔法の剣を量産する。
魔法の剣が空中に生成され、それが地面に落ちる前に魔法の手がキャッチする。
まるで工場の機械のように綺麗な動きだ。
「ちょっとちょっと!本当に何者!?」
さっきまで3回耐えていた剣が一撃で破壊されていく。
量産で強度が落ちたか、勇者がさっきより本気を出したか。
「もしかしてだけどぉ・・・あんたが魔王?」
「俺は今まで一度だって王族の家に生まれたことは無い」
「あははは!やっぱりおもしろい!・・・魔王は世襲じゃない・・・よ!!」
「なっ!」
勇者が光の斬撃を飛ばす。
俺はその場で1回転することでなんとか避けたが、俺の魔法は全て破壊された。
「あははははは!!」
本当に楽しそうに笑う勇者が俺のもとへと走ってくる。
俺は野球ボール程度の大きさの魔法の弾をいくつも射出するが当たらない。
というか、切り裂かれてる。
「よいしょ!」
「くそっ・・・!!」
クルクルと回転しながらその勢いのまま俺を切り裂く。
回避したが間に合わず、聖剣は俺の脇腹を抉った。
勇者は切り裂いた瞬間後ろに下がる。
「・・・なんで死なないの?」
「何?」
またも意味のわからないことを言う勇者に聞き返す。
「だって、当たったよね?」
「ああ、おかげで俺の愛しい脇腹がどっかいっちまった」
「ふざけないで!当たったら死ぬはず!だって聖剣よ?・・・あんた、本当に何者なの?」
どうやら、本当はかすりでもしたら死ぬみたいだ。
本当に恐ろしい武器だとまた血の気が引いていく。
「・・・でも、俺生きてるな?・・・あれ?アンデッドだから死んでんのか?そのへんややこしいな」
俺は自分の体を見回して呟く。
自分でもなんで生きてるのかはわからない。
「答えて!あんた何者?自分が本当はアンデッドじゃないみたいな言い方してるけど!」
「はあ・・・もと人間のダンジョンマスターだ」
「え!?」
『!?』
隠れていたミミと水まんじゅうも出てくる。
だが、混乱している勇者はそんなこと気にも留めていないようだ。
「もと人間・・・ありえない!人間がどうしてアンデットになるのよ!!」
「知らないよ、俺だって困惑してんだよ」
「じゃあ・・・じゃあ、どうして人を殺すの?」
「理由なんか無い」
「意味もなく人を殺すって言うの!?」
「違う、確かに俺が人を殺すのには生きるためという明確な理由がある・・・だがな、誰かの命を奪うという行為に理由を求めたら、それは全て言い訳になる気がするんだ・・・それは、俺が奪ってきた命から逃げることになる・・・だから、俺は命を奪うことに理由を求めない」
カランカランッ!
勇者の手から剣が滑り落ちる。
「あれ・・・なんで・・・」
「おいおい!なんで泣くんだよ!」
「うっさい!」
勇者はその場に座りこんで仮面をはずす。
「おい・・・戦いはもういいのか?」
「仮面とったから顔見んな!ばーかばーか!」
「・・・ん?お前その顔・・・日本人か?」
勇者の目は黒かった。
今までダンジョンに来た冒険者の中にも黒い髪の人間はいたのでとくに気にしていなかったが、黒い目を見たのは初めてだった。
「・・・なんで?なんで日本知ってんの?」
「俺も日本人だし・・・あ、もと日本人か」
「え・・・ぇぇぇえええええええ!!」
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