人殺し
絵を追加しました。
「説明してください、マイマスター」
「・・・」
「えぇと・・・」
俺、コア、冒険者の3人が円になって座っている。
普通ならあり得ない絵面だ。
落とし穴に女が落ちた瞬間。
あの時、体が咄嗟に動いてしまった。
別に誰かを助けたいなんてかっこいい理由ではない。
ただ・・・ただ、人殺しになりたくなかっただけ。
「どうして、助けた・・・お前は魔物だろ?」
「だって、あそこに落ちたら死ぬだろ?」
あのときの光景を思い出す。
間一髪で掴んだ女のさきにあったのは研ぎ澄まされた刃で出来た針の山だった。
「わけがわからん・・・私を殺すのがお前の仕事だろう?」
「同意・・・説明を求めます、マイマスター」
「人を殺したくなかったんだ・・・」
「ここのダンジョンマスターは頭がわいてるのか?」
「マスターへの侮辱は許しません・・・ですが同意」
俺はなぜ助けた女にまで罵声を浴びせられているのだろうか。
「わかった、わかったよ!次からちゃんとするから・・・」
「次からではなく、今、この冒険者を殺してください」
「それは困る」
冒険者の女は即答する。
まあ、普通の反応だ。
「まだ、助けてもらった恩を返してない」
え?そういうこと?
死ぬことに関しては別にいいの?
「あなたが死ねば十分です」
「まあまあ・・・」
今にも女を殺しそうな勢いのミミを制止する。
よし、決めた!
「じゃあ、うちで雇おう」
「「は?」」
「えっと名前は?」
「サンドラだけど・・・」
「そうか・・・サンドラは俺に恩が返せる、ダンジョン側としても人間の協力者という貴重な存在を得られる・・・どうだ?」
「私は構わないけど・・・そっちの本のお嬢さんが随分人嫌いみたいだからね」
「マスターのご命令であれば・・・ただ一つ、次に冒険者が来た場合は殺してくださいね」
「・・・わかったよ」
これ以上何か言える雰囲気でもないのでしぶしぶ承諾する。
「私はどうすればいいんだ?」
「10日に1回ここに来てくれ、あとはここのダンジョンの宣伝・・・それ以外は普通に生活してくれていい」
「私を信じるのか?街に帰ったあと冒険者引き連れてあんたを殺しに来るかもしれないぞ?」
「来るなら来い・・・そしたら今度は容赦なく殺す」
俺の目が帯びる赤い閃光がいっそう強くなる。
言うのは恥ずかしいが、これは壁の中で一人練習した。
迫力のあるダンジョンマスターになるために。
効果はなかなかのようで、サンドラはコクコクと無言で頷いている。
ミミも若干俺から距離をとった気がした。
「とりあえず今日は帰ってくれ」
「ああ、わかった」
サンドラはそそくさと出口に向かう。
怯えられるというのは気持ちのいいものではないな。
「さすがです、マイマスター」
「ん?」
「最初は何を仰っているのかと思っていましたがご冗談だったんですね・・・気付かず失礼な真似を・・・お許しください」
ん~?ミミちゃんは何を言ってるのかな~?
「これは端から、人間の協力者を得るための作戦・・・ですよね?マイマスター」
これは、勘違いしている。
確実に勘違いしている。
どうしたものか。
「え~と・・・」
「誤魔化さなくてもあの目を見ればわかります、あの光には慈悲などありはしなかった・・・感服いたしました、マイマスター」
「そ、そうか」
いや、しかし嫌悪感を抱かれているよりはいいだろう。
問題は、次に冒険者が来たときだ。
ミミの言っている事はわかる。
殺さなければ殺される・・・俺はいまそういう世界にいるんだ。
生きるために仕方なく。
ミミを護るため。
・・・どんなに綺麗な言葉で繕ったってやろうとしていることは人殺しに他ならない。
本当はわかってるんだ。
俺は普通が好きなんじゃない。
普通にしか生きられないんだ。
特別な生き方が出来るほど強くはないから。
だから、それっぽい理由をいくつも探して、どうにか自分を護ろうとしてきたんだ・・・。
もう、やらない理由を探すのはやめよう。
もう、自分を護る言葉を探すのはやめよう。
正々堂々、向き合うんだ。
生きるため?ふざけんな。
誰かを護るため?違うだろ。
お前はお前の意思で誰かの命を奪うんだ。
・・・逃げるな。
「・・・よし」
俺は頭を巡らせ、相手を殺す手段について考える。
「(攻撃系の魔法・・・か)」
ちなみに、魔法を使い終わったあとは、魔力はドロドロと液体状になりまたあの球体に帰っていく。
つまり、おそらくだが魔力と言うのは減ることがない。
ゲームなどによく出てくるMPという概念が存在しないのだ。
「(自分のイメージ次第・・・)」
なんだったら、あの巨大な球体から大量の魔力を持ってきて押しつぶしてもいいわけだ。
ただ、それはなんというか・・・品が無い。
最終手段か。
「あ」
ここで、あることを思いつく。
「剣を作ってみよう」
かっこいい・・・絶対かっこいい。
ファン○ル!!
「あれ?(浮かないのか?)」
誤算だった。
魔力の剣は浮かなかったのだ。
だが、魔力の手に持たせることで問題は解決だ。
「(なかなか、かっこいいじゃないか)」
4つの剣を持った手が、腕を組んで空中に仁王立ちする俺の周りにふよふよと浮いている。
これだけで、ボス感がすごく出ている。
「ミミ」
「はい、マイマスター」
「魔法で作った手が浮くのに魔法で作った剣が浮かないのはなんでだ?」
「イメージの問題だと思われます、腕は生物の一部ですから自由に動くところをイメージなさったのでは?剣はどなたかの手にあって初めて機能するものだと言う潜在意識があったものと考えます」
「そうか・・・」
まあ、別に魔力の手を作ることに問題は無いからいいのだが。
次の魔法を考えるか。
銃とか難しいものはどうなるだろう。
基本は全て闇の魔力でつくって、爆発だけは火の魔力を使えば・・・難しい機構はいらなそうだ。
俺はそもそも銃の詳しい構造なんて知らない。
「出来た」
魔力だけで作ったものは俺でも触れることができる。
作り出したリボルバー型の銃をしっかりと握る。
「なんですかそれ?」
「銃っていって強力な武器なんだ」
「銃、検索します・・・該当なし・・・」
「まあそうだろうな・・・撃ってみるか・・・」
引き金を引くと爆発するイメージ。
これなら暴発もない。
引き金にかけた指に力を入れていく。
バンッ!!!
「・・・すごい音ですね」
「ああ・・・」
硬い石でできた壁に穴が開き煙を上げている。
威力は十分。
だが、実験は失敗。
魔力で作り出した銃が爆発の威力に耐え切れず壊れた。
「銃を構成する魔力の濃度を高めるか・・・威力は落ちるが火力を抑えるか」
とにかく改良が必要だ。
だが、いつかは完成させたい。
なぜかって?
・・・かっこいいからに決まってるだろ!
しかし、今日の実験はここまでのようだ。
「冒険者が接近しています、マイマスター」
「見せてくれ」
「はい」
ミミの本に冒険者が映し出される。
映し出された冒険者は3人。
一人は金属製の鎧を着た男。
剣と盾を持っている。
残りの二人はローブを着ている女で、杖を持っている。
「サンドラの宣伝がさっそく効いたのか・・・?」
冒険者達は警戒した様子でダンジョンに入ってくる。
謎の魔法でトラップの存在に気付き、トラップには引っかからなかった。
小さなダンジョンなのですぐに俺の耳にも直接足音が聞こえるほど近くまで来た。
ちょっと待て・・・。
ボスっぽい登場ってどんなんだ?
壁からぬぅっと出てくる?
上から降りてくる?
それとも仁王立ちで待ち受ける?
「(どれだ?どれがいい?)」
だんだんと冒険者が迫る。
「(もういい、仁王立ちだ!)」
俺が腕を組んで仁王立ちをした直後に冒険者達が入ってきた。
危なかったがぎりぎりセーフだ。
「くくく・・・よく来たな」
出来るだけ低い声で言う。
冒険者達がゴクリと唾を飲んで武器を構えなおす。
「さあ・・・はじめようか!」
赤い目を光らせる。
冒険者の額に汗が滲んでいる。
「(びびってる、びびってる・・・)」
「我、不浄なる者を浄化し、我らが道を照らす光を求めん、この詩、我らが御神に捧ぐ・・・ホーリーアロー!」
「(何それ、詠唱!?)」
シュパーンッ!
軽快な音とともに冒険者の杖から放たれた光の矢が俺の体を貫く。
当たったところは溶けるように無くなった。
「(いってぇぇぇえええええ!!」
「当たった!」
「待って、様子が変よ・・・」
「なぜ、避けないんでしょうか・・・」
「くくく・・・その程度か?」
本当はめちゃめちゃ痛いけど我慢する。
俺の体はすぐに再生するのだ。
この前に日に当たって消滅した愛しのつま先もすぐに再生した。
ホーリーアローとやらで開いた穴もギュインと埋まる。
「そんな・・・避ける必要も無かったんだ・・・」
「どうすんのよ!聖職者の魔法が効かないならあたしの魔法も絶対効かないわよ!」
「俺の剣も霊体系のアンデッドには無意味だ・・・くそっ!サンドラのやつ、ダンジョンマスターが霊体系だなんて言ってなかったぞ・・・!!」
「・・・今度はこっちの番だ」
「ひっ・・・」
聖職者の少女が崩れ落ちる。
その場に水溜りが出来る。
「(え?うそ、漏らしたの・・・?)」
他の二人も死を前にしてガタガタと震えている。
歯がカチカチと耳障りな音をたてる。
スパッ!っと魔法使いの女の頭を斬り飛ばした剣はそのまま剣を携えた男のもとへと行く。
キンッ!キンッ!ガコン!
男の剣の腕はなかなかのもので俺の剣を自分の剣で2度弾き、盾で1度防いだ。
だが、その後襲い掛かったもう一本の剣を防ぎきれず頭を飛ばされる。
「ご、ご、ごめんなさい・・・もうしません・・・もうしませんからぁ!!」
涙や鼻水で顔をぐちゃぐちゃにした聖職者の女が縋るように言ってくる。
「・・・」
俺はその女の首を切り落とした。
死体は血一滴残さずダンジョンに吸収され装備だけがその場に転がっている。
「この装備はどうしますか?マイマスター」
「・・・どうするって?」
「売る、宝箱に入れて冒険者を釣るなど、お好きなように」
「武器だけは保管しといてくれ、他は売っていい」
「はい、マイマスター」
「金貨は今どうなってる?」
「20枚です、マイマスター」
「もとが2枚だったから、一人で約6枚ってとこか」
「はい、マイマスター」
俺がなんでこんな世界に来てしまったのかはわからない。
だが、この世界で生きていくしかないんだ。
だから・・・俺は人殺しになる。




