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交差世界の無能力者  作者: 湯豆腐
第二章
18/19

17.5.後祭

異世界に来てからの初めてのバトルが一件落着しました。

この話はovaストーリーみたいな感じで見ていただけるといいと思います。

では、どうぞ。


 チュンチュンと小鳥のさえずりで体を起こす。これほど粋な起床もないだろう。


 目を覚ますと村長の家にいた。


「重ッ──くはないが軽くもないな……」


 寝ているのはどうやら俺だけではないようで、うつ伏せで眠る俺の背には、昨日、長いこと腕の中にあった体重が乗っかっていた。


 つまり、パルが覆いかぶさるように眠っていた。少し邪魔だったので体を転回して、転がしておいた。


 格安修学旅行2日目の朝。狭い部屋に無理やり押し込まれて一夜を明かした。そんな気分だ。


「起きたかゴードンくん」


 渋い声がしたほうを向くとガルムさんが座っていた。言うべきかどうか迷ったが、「ゴードンではないです」と訂正を入れた。


「そうかそうか影斗くんか。バカみたいな名前じゃな」


「はっ倒すぞクソじじい」


「それだけ威勢が良ければ元気な証じゃろう。どうじゃ、二人が目覚めるまで朝狩りにでも行かんか?」


 そんなラジオ体操みたいなノリで軽々しく言うなよ。もしくは朝○ち。


 しかし、一度ぐらいはやってみたいと思うのが男の性。それに、今後生活していくためには、必要な体験だろうと二つ返事で準備をして家を出た。


 天気は晴れ。雲一つないが、深夜に雨が降ったらしく、少しだけ湿っぽい。ガルムさんいわく、絶好の狩り日和らしい。


 どこらへんがどう日和なのだろうか。とりあえず連れ出すための口上として言ってる感が否めない。


「ドラスと言うんだが乗ったことはあるかね」


「ここに来る途中に乗せてもらいました」


「なら乗れるな。好きなのを選ぶといい」


 小屋には十数匹のドラスがいた。毛の色は様々、黒毛もいれば白毛もいた。水と食料を与えながら品定めをするが、俺は選別眼が優れているわけではないので、近場にいた黒一色のドラスを選んだ。


 どのドラスも上物らしいから、どの子を選んでも一緒だと言っていた。そういうやつに限ってちゃっかり選りすぐっている。


 俺とガルムさんはそれぞれ一匹ずつドラスを引き連れて村の外へ出た。例のごとく、村からある程度離れていないと乗ってはいけないようだ。


 ドラスに跨って、俺たちは草原を突っ切った。ドラスは穏やかで利口な動物らしく、近年稀に見る下手さだと汚名を受けた俺でも、乗りこなすのに時間はかからなかった。


 なし崩し的に狩りに参加したけど、俺は大丈夫なのか? 村に来る途中、ヘルファンゴは気性が荒いと教わったが、初心者が安易に狩りに参加しても問題ないのだろうか。


 まあ、ガルムさんいるし大丈夫だよな。玉ねぎ持ってるし。


「ヘルファンゴを仕留めるときは必ず一匹になったところを狙え。あいつらは仲間意識が高いから、仲間がやられると、こぞって襲ってくるから気を付けろ。たまに齧られるやつもいるからな」


「そういうの村を出る前に言えって…」


 しばらく草原を走っていると、ヘルファンゴの群れに遭遇した。数は8匹。前回遭遇したのは6匹だったので、多いほうなのかもしれない。


「まずは注意を引き付けろ」


 そう言ってガルムさんは石を持った。ハンドボールぐらいの石を軽々と投げつけて、10数メートル先にいた群れの1匹に命中させた。


 すると、8匹が8匹、群れすべてのヘルファンゴがこちらへ突進してきた。その様はどこかの国の牛追い祭りのようだった。


「本来ならば当てないように近くに落とし、その音で注意を引くんだ」


「つまり……?」


「失敗じゃ。逃げるぞ」


「えっ?」


 ガルムさんは俺より一足先にドラスを走らせて前方へ進んでいた。だからそういうのは先に言えって。出遅れただろ。


「ドーラースぅ!もっと早く走れ。追いつかれるって。ひぃぃぃい!」


 ゆっくりだと思っていたヘルファンゴは走るにつれて、その勢いを増していき、すぐ後ろまで迫っていた。


「ギリギリを疾走とは、若いのになかなか見どころがあるじゃないか」


「そんなこと言ってないで助けろって。死んじゃうからあぁあ!」


 しばらくすると、ガルムさんは失速し、横並びになった。


「私は村の中でもヘルファンゴ狩りが2番目に下手だ。だから私を頼ろうとするなよ」


「だからそれも先に言えって!一番下手なの誰だよ」


「一番はパルじゃな」


「貴様あああ。俺を騙して連れてきおったな。お前だけは許さん!」


 お前のその図体はなんのためにあるんだよ。宝の持ち腐れか。木偶の坊じゃねえか。


 もうやだ……おうちに帰りたい……。


「このまま走っていくと、ヘルファンゴが途中で追いかけるのを諦める。それは個体毎に体力が違うから、バラバラだ。だから、その散り散りになったところを狙うんだ」


 協調し合えないやつは徹底して排他されるということらしい。人間社会でも動物社会でもそこは同じ。


 十数分ほど走り続けているとチラホラと脱落していくヘルファンゴが出てきた。8匹だったのが、いつの間にか3匹に減っている。


 それにしても動物の体力って人よりも多いな。文字どおりの死活問題でもあるわけだから当然だろうけど、速度の衰えが見受けられないドラスとかほんとすごい。


 また1匹歩みを止めた。他の2匹にあとは任せたと言わんばかりに、もと来た道を走っていった。


「ちょうどいい。一人1匹ずつで行こうか」


 もう何も言うまい。何を言ってもガルムさんは聞く耳を持ってくれないことを学んだ。


 ガルムさんはドラスから降り立ち、槍を手にヘルファンゴへ突撃していった。どっちが荒々しいのか分かったものではない。


「もう一体もガルムさんに向かってくれないかな……」


 俺ものんびりしていられなかった。ドラスから降りた俺に向かうヘルファンゴ一体。頭から血を流している。


 ガルムさんが最初に失敗して石を当てた個体だ。たぶん、ガルムさんは負傷したやつのほうが簡単だと思って、こっちを寄越してくれたんだと思う。


 思う。思うけど、でも、違うよな。どう考えても怒り狂ってるし。負傷した猛獣ほど怖いものはないと言うし、相手取るやつ絶対間違えてるよな。何やってんのあの人。


 俺は腰に差した短剣を取った。リーチの長い槍のほうが安全かもしれないが、俺には長く重すぎてとても扱いきれるものではなかった。


 他にも弓矢があったが、経験のないズブの素人である俺には同じく使えない。そのため、誰でも使える短剣を選んだ。


 ヘルファンゴと対峙する。真っ向からの実戦経験は初めてだ。短剣を握る手に思わず力が入る。


「ブフワアアァァアア!」


 先に動き出したのはヘルファンゴだった。俺に向かって猛進する。牛が丸々と肥えたぐらいの体つきが時速何十キロという速度を持ってやってくる。


 直に食らったらひとたまりもなく絶命する、まさに交通事故級の攻撃。俺には避ける以外の選択肢はなかった。


 避けるにしてもそう簡単なことではない。軽々と事故を回避できるほど、俺の運動能力は高くない。


「──っと」


 迫り来る体をできる限り引きつけて、ギリギリのところで緊急回避。受け身をとってすぐさま立ち上がり、敵に向き直る。


 これは命の奪い合いだ。


 転回したヘルファンゴと目が合う。その目は殺意に満ち満ちた、獲物を捕捉する目。俺をエサとしか見ていない。


 再び走り始める。草を踏みしめて徐々に加速していく。


 先ほどよりも近いこともあり、迷っている暇はなかった。しかし、距離が短いため、加速は十分ではなく、これなら──。


「おらっ!」


 自転車程度の速度で迫るヘルファンゴ。これぐらいならと、俺はその顎をめがけて足を振る。


「チッ!」


 皮一枚のところで避けられた。つま先が皮膚に触れる感触があったものの、掠るだけで決定打には及ばない。


 これで分かった。待っているだけでは格好の的だ。ヘルファンゴの武器はその走力にある。重量を活かした突進。それを最小限に抑えるには、こちらから距離を詰める。


 今度は俺から攻めた。相も変わらずこちらへ突進してくるが、その速度はさらに遅い。


 俺はぶつかる間際に身を翻して、隙だらけの横へ出た。狙うは首元。一刺しで決着をつける。


 短剣を握った腕を振りかぶったときに、昨日の光景が蘇る。近くで頭部が破裂する瞬間。噴き出る鮮血。腕が消し飛ぶ瞬間。皮膚が飛び、骨が散る。


「──ごふっ」


 たった刹那の躊躇が相手の反撃を許す。


 ノーモーションからの首振り。側頭部がみぞにめり込み、俺は布切れのように無残に投げ捨てられる。


 草原だったことが幸いに、落下の衝撃は緩和された。だが、予想をはるかに上回る打撃で、数瞬、呼吸を奪われた。


 腹に打ち響く鈍い激痛を手で押さえながら、追撃を加えんと驀進する相手を見据える。


 一時の迷いは死を招く。攻撃を食らって初めて気付くその真理。食うか食われるか。殺るか殺られるか。デッドオアライブ。


 詰め寄る巨体。俺は横に避けるのではなく、衝突する寸前に後ろへ跳んだ。


 そして、頭部が腹に直撃し、体がくの字に曲がる。腹筋に力を込めていたとはいえ、かなり痛い。完全には勢いを殺しきれず、俺は押される形で後退した。


 時間にすれば1秒弱。俺はそのタイミングで右手に持った短剣をヘルファンゴの頭頂部──いや、延髄部めがけて振り下ろした。


 罪悪や油断はこの痛みで吹き飛んだ。生命活動を停止させるための純粋な殺し技。


 俺はヘルファンゴの首に短剣が深々と刺さったことを確認して、慣性で吹っ飛ばされ、草の上を何回転もしたのだった。




「初めてで、それも単独で1匹を仕留めるとは思わなんだ。しかも、ケガは打撲のみときている。良い成果だ。このまま成長すれば立派な猟師になれるぞ」


「そりゃあ、どうも……」


 俺たちは仕留めたヘルファンゴを縛り付けて、ドラスに乗って村へ帰っていた。


 ガルムさんが言うには、俺は飛ばされてから数分ほど気絶していたようだ。初めて気絶というものを体験したが、睡眠とはまた違った気分だった。


 俺が回避をして転がっていた頃には、すでにガルムさんは討伐を終えていたようで、ずっと俺の戦いを見ていたらしい。


 高みの見物をしてないで、さっさと助けてほしかったものだ。おかげさまで腹が痛い。そう言うと、「その程度で痛がるようじゃ、猟師としてはまだまだヒヨッコじゃな」と笑われた。何が私も片腹痛いだふざけんな。


「なんで俺を狩りなんかに誘ったんだ?」


「それは試してみたくなるものじゃろ」


 嫌みたらしく尋ねると、ガルムさんはそう言った。試したくなるにしてもやりすぎだろ。むしろ、なんで俺の実力を試す必要があるんだ。まったく訳が分からないよ。


「お前さんも人の親になれば分かるじゃろうな」


「はあ……そういうものなのか」


 何を言っているのかさっぱりわからんが、とりあえず適当に相づちを打っておく。


「今日はヘルファンゴを丸焼きして食うか。この村は先祖代々、初めての獲物をそうやって食べる決まりになっておるからのお」


「俺は村の人間じゃないけどいいのか?」


「もう家族みたいなもんじゃ。気にせず食え」


 しばらく草原を走ると、村の入り口が見えてきた。村へ入るのはこれで二度目になるのだが、ひどく懐かしく、自分の家に帰ってきたような安心感が沸き上がった。


 

さて、筆者も晴れて社会人となりました。そのため小説に当てる時間が減ってきています。

これからも一週間に一回投稿をやっていくつもりですが、投稿できない週があると思います。その時は申し訳ありませんが、次の週をお楽しみください。

感想などいただければ筆者の力になります。これからもよろしくお願いします。

では、また来週。

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