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交差世界の無能力者  作者: 湯豆腐
第二章
17/19

17.残夢

ふと小説情報を見たら感想が来ていました。

どんな感想でも嬉しいので、書いていただけるとありがたいです。

ちなみに最近MacBook Proを購入いたしました。これで頑張れるっ!


では、お楽しみください。



 風に吹かれ、木々が囁いた。


「必要ないとはどういうことかし──」


「その前に!」


 氷月の言葉を遮って俺は言った。なぜか、それを確認しなければならないような気がしたからだ。


「お前は誰だ?」


「私はパルだよ。パルであって、二人の知っているパルではなくて、それでもやっぱりパル以外の何者でもない」


 俺の知っているパルは、こんなややこしいやつではない。人生に一切の悩み迷いがなく、合切の考えもない、気楽の権化のような少女だったはずだ。


 それがどうしてこんな……頭の良さそうなやつに変貌しているのだろうか?


「それぞれが異なる欠片を持っていて、それを合わせれば本質が見える。でも、互いはたがい合って、それは完成しないままでいる。一人は必要性を感じないから。一人は水を差さないために。違う?」


 パルは俺、そして氷月と、交互に見比べた。


 互い。一人は必要性を感じない?もう一人は水を差さないために?彼女が示す二人の人間は俺と氷月のことを言っているのか?


 あまりにも突飛なことで思考が正常に機能しない。


 俺は重要な何かを見落としているのか?それに、氷月が水を差さないために何かを隠しているのか?


「どういうことだよパル。お前は何が言いたいんだ」


「言いたいことは山ほどあるよ。広間の土くれよりも沢山、ね。でもそれを言うには圧倒的に時間が足りない。圧尾だよ圧尾。それはおじさんの方ではなくお姉さんの方がよく知っていることだよね」


「……」


「氷月。お前は何を知っているんだ?」


「おじさんはバカなんだね! 問答を繰り広げる時間はないと言っているのに、その手前、何を聞き出そうとしているのかな?」


 以前言われた言葉よりもさらに強く。明瞭に彼女は言った。パルはパルだ。何かが決定的に変わっていたとしても、直球な物言い。根源的なところでは何も変わっていない。


 俺は氷月を見る。彼女はなんら変わらない。俺が不安に駆られる中で、彼女は垢抜けた態度だ。飄々と気取っている。


 どうしてそう冷静でいられるんだ?これまた疑問が浮かぶが、時間がないらしい中でそれを聞くのは得策ではないだろうと、口を閉じた。


「まっ、落ち着いたら話をしようねー。じゃあ行こっか!」


 落ち着く。どんちゃん騒ぎが静まったらという意味合いではなさそうだ。まだまだ、決着はついていない。そう言いたげのセリフだった。


 氷月がどうかは分からないが、俺は訳も分からず、先を歩いていくパルの後ろを付いていった。


 その道中でひたすら考えた。


 なぜ森に行く必要がないのか。タナトが罠を仕掛けた可能性は極めて低い。それだけの理由で必要じゃなくなるのだろうか?


 すでに森を調べ終わったという可能性もある。これまでの時間でパルが調べ尽くす。彼女にとっては森は庭のようなものだから不可能とは言えない。


 それにパルが村の人に命令して複数人で調査したことも考えられるし、そもそも、タナトが森に入った時に、誰かが尾行していて、罠を仕掛けていないと確認しているかもしれない。


 もちろん、ある可能性は捨てきれないが、即座に思いつくだけでこれだけ考えられるのだから、森に立ち入る必要はなさそうだ。


 仮にあったとしても、それをどうこうできる手段がないわけだし。ネズミ捕りだと知っててチーズを取るような無謀な真似はできない。


 必要性を感じない。これはたぶん、十中八九、パルの能力のことではないか?


 あいつらと接触したときに俺だけが聞いたこと。それはありえないだろうと、必要性を感じなかったため、誰にも言わなかった。


 しかし、それがもし真実だとしたら?本当になんらかの能力を保有しているのだとしたら。パルの変化についても理屈がつけられそうだ。


 例えば、二重人格で、今表に出ている人格のみ能力が使えるだとか。人格こそが一つの能力だとか。


 そして最後、氷月の水を差さないためにというやつ。


 こればかりは、彼女の思想そのもののため、完全に予測の域を超えることはできない。


 でも、その予測でパルは真実に辿り着いた。だからこそ、あの言葉を聞いて氷月は黙ったのだから。


 今のこの祭りのごとく、楽しげな雰囲気を壊さないために、氷月は何かを隠した。何かを騙した?


「あれまー。短い時間でずいぶんこんもりしたね。これなら衝撃の2割ぐらいは抑えられるかもね。人の決死の力ってすごい」


 導かれるままに付いていった先は広間だ。パルの言うように土が盛られていた。木材や槍など、おおよそ、土の塊とは呼べないものがごみ捨て場のように堆積していた。


 今もまだ、村の人々がせっせと汗を垂らしながら土を放り投げていた。


 命が懸かっているといえばそれまでだが、集中しているのか、俺と氷月と村長の孫娘であるパルが立っていても誰も声をかけてくるものはいなかった。


 実の祖父にあたるガルムさんでさえ、パルがいても何も言わず、土を投げてどこかへ行ってしまった。


 まだ決着はついていない。確かにこれで2割というならば、単純計算で今までに費やしてきた時間の4倍はかかる見込みだろう。


 今度口を開くと、何を言われるか堪ったものではないため、俺は先ほどから無言を貫いていた。


「あー。あー。あーえーいーおーうー」


 パルがその場で歌を歌う準備とばかりに発声練習をしていても、俺は何も言わなかった。氷月もまた、何も言わず、少女を見守っていた。


「とっとと終わらせましょー」


 彼女はそう言って、足で地面を削って、円を描いた。


 魔法陣。そんな言葉が脳裏をよぎるが、彼女が幾何学な紋様を描くことはなく、その丸い円を一つ描いただけで終わらせた。


「固め絡まれ難く語られし英傑よ。死に沈み、地に沈み、その御魂を母なる大地に還元せし、雄々しく猛々しき土の王よ。我、力を求むるものなり。この一片の地維に、その全身と全霊と全力を以って、万物を包み、六合を囲う、慈愛の加護を与え給え!」


 パルが繕う言葉は文字となって可視化した。黒い羅列がさも天女の羽衣のように、パルの周囲を泳ぎ、そして、土の中に入っていった。

 

 詠唱が終わるとパルはホッと一息をついた。


 土は何の変化も起こらなかった。清々しいまでに何も起こらなかった。てっきり、文字が沈んだ土が淡く光り輝くものだと期待していたが、土は土色のままだ。


 そんな俺を見かねたのか、パルは言った。


「絶対量は決まってる。たかが見栄えごときのために、エネルギーをみすみす外に出すなんて愚かな真似はしないよ」


 能力にもエネルギー保存の法則って適用されるのか。見た目が変わらないといかんせん、マンガやアニメを見てきた人間としては効果が疑わしいものだった。


 それよりも。やっぱりこいつ能力者じゃん。何なの。タナトが言ってたことって本当だったの? だったら最初っから能力使ってくれればこんな事態を招かなくて済んだのに。


「もういいよお姉さん──そんなに気張らなくても」


 パルはそう言った。


「……ええ。話をするのはしばらくお預けね」


 氷月は支えを失ったように体を傾けた。近くにいた俺が、重力に従って崩れていく彼女を抱きかかえて地面に倒れるのを防ぐ。


 氷月は意識を失っていた。


「これで能力も解除されたのかな?まあ、これで時間という圧力も解けてだいぶ楽になったようだね」


「そろそろ話してくれるか?」


「んー。まあ、伝えるべきことは本人が説明会でも開いて教えてくれるでしょ」


 パルの口から氷月について何かを言うつもりはないらしい。聞きたいなら本人に、そう本人にだ。


「じゃあ、お前は何者なんだ?」


「さっきも言ったようだけど、私はパルだよ。あなたが見てきたパルとは同一人物。双子なんていうつまらない推理小説で使われているトリックではないから安心してね」


「俺が知っているパルはもっとアホなんだけな。それはアホのふりをしていたってことか」


 んーと唸り声をあげてパルは首をかしげた。本人ですらその正誤が曖昧な様子だ。


「不正解なの、かな?人間の記憶力って自分が思っているより、何倍も恐ろしいものだって知ってる?誰でも入手した情報を集めて『夢』という整合性の取れた動画を作ることができるからね。覚えていないことも潜在意識の中ではしっかり記憶されてるってことだよ」


「パルという人間が満遍なく表面に現れたのがお前だってことか」


「そう。本来ならばありえないことなんだろうけど、持ち前の能力『夢見心地な箱入り娘(オールディフェンダー)』の反作用として体現してしまったんだ」


 タナトが言った非常に稀有な能力。『夢見心地な箱入り娘(オールディフェンダー)』パルの話によると、この覚醒状態でしか発動できないというデメリット付きの万能防衛能力。


 また、自らの意思では使いこなすことができない不完全な能力とのこと。


 だからか。だから、彼らの侵入を拒むことができず、まんまと引き入れてしまった。そして、この局面で偶然発動して、その能力で光弾を防ぐ。


「本当はもっとゆっくり話がしたかったんだけどね。いつ私が出てこれるか分からない以上、言えるときに言うのが一番だと思ってね」


 今のパルにとって、普段のアホなパルは自分の一部でしかない。そのため、アホなパルの記憶を共有することができても、その逆はできない。


「そろそろドーンっとくる頃かな。耳を塞いで目瞑って地面に伏せて!」


 パルが叫ぶ。俺だけではなく、土を運んでいた村人全員に聞こえるように。周囲の人間がその場で縮こまった。


 同じように俺が氷月を支えながら地面に伏せた時。

 閃光と同時にけたたましい音が響き渡ったのだった。

 

ついに長かった?戦いも終わり。

パルってアホの子じゃなかったのか…。

誰しも自分では気づいていない一面を持っているものです。


次回の投稿は一週間後です。よろしくおねがいします。

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