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交差世界の無能力者  作者: 湯豆腐
第二章
13/19

13.詮索

予定より少し早めの投稿です。

よろしくお願いします。

俺は氷月一人を置いて外へ向かった。体調を戻すことに専念してもらうためである。


 縄や槍。できることなら持っていきたいが、すべてを運べるだけの筋力は俺にはないので部屋に置き去りにした。


 それに、槍背負って、件の二人組と相まみえる度胸は、能力があるならいざ知らず、無能な俺にはない。そんな敵愾心剥き出しにしたくないよ。


 ガルムさんに約束したように、穏便に事を済ませる腹づもりでいる。だから不必要に相手の戦意を沸かすような物は携帯しないようにした。


 家を出る直前に氷月には俺がどうするのかを伝えておいた。すると、氷月は予想通りの言葉を返してきた。


「あなた……神経が逝かれているの?」


「『勝つかすべてを失うか(オールオアナッシング)』ってやつだ。頼みの綱の能力が使えない以上、多少の危険は顧みずやらないといけない」


「そんなことをしても相手は有無を言わさずに攻撃してくるかもしれないのよ?」


「じゃあ、そうなったときのために、早いとこ能力が使えるようにしてくれよ」


 俺はそう言って一方的に話を打ち切り、緊張やら恐怖やら何やらで重たい足を運んで、外へ出た。


 失敗したら少なくとも二回は殺されるだろう。この世で殺されて、あの世でも殺させる。そうならないためにも、俺は勝利を収めなければならない。



 村の中心部。広間には隕石でも降ってきたのではと言いたくなるようなクレーターができていた。さっきの音や地響きの原因はこれか。


 周りに村人の気配は感じられない。どうやら、ガルムさんは間に合ったようだ。家に帰ってこなかったところをみると、どこか別の家に避難しているようだ。


 ゆっくりと歩いて現場に向かった俺は、そこに二人の人物が立っていることに気付いた。


 二人組の襲撃者。間違いなくこいつらのことを指しているのだろう。


 一人は遠目でもはっきり男だと分かる、上半身裸の巨漢だ。筋骨隆々というよりは脂肪の厚みで大きく見える、ぜい肉の塊のような男。


 もう一人は判別が難しい。中性的な顔立ちをした細身の体躯。こちらはどこか禍々しい印象が見受けられる。魔術士とかそういうタイプだろう。


「なんでこんな真夜中に攻め込まなくちゃならねえんだ?あァ?」


「ほっほっほ。品がないですよベルガーさん。まさか、私たちの目的をお忘れになったわけではありませんよね?」


「目的なんてモンはどーだっていんだよ。オレは、悲鳴を聴けるから同行したってだけなんだからよぉ!こんな真夜中に襲うなんて話、オレは聞いてねえぞ!」


 遠くからでも声が鮮明に聞こえてしまうのは俺の聴覚が優れているからではない。静かすぎるのだ。風や木々が揺れる自然の音。暗騒音というものがまったく耳に入らなくなった。


 それもこれも彼らがここへ現れてからだ。


「お黙りなさいベルガーさん!まずは目的達成が先決です。任務を遂行次第、あなたの好きなようにすればいいでしょう」


「けっ、まーそうするか」


 力関係は丁寧な口調の男が上で、それとは対照な、乱暴な言葉遣いのベルガーと呼ばれた男が下のようだ。


 しかし、彼らの言う目的とはなんだ?俺はてっきり、衝動的な犯行だと思っていたが、話を聞く限りでは、なんらかの陰謀が渦巻いている。


 何にしても、いつまでもこうして物陰に隠れて見ているだけでは埒が明かない。そろそろ行動に移すべきだろう。


 ガクガクと震える足を前に一歩だす。それからは、自然な歩調で彼らの元へ歩くことができた。


「何だてめえは?」


 先に口を開いたのはベルガーだった。近くで声を聞くと口調にトゲがあり、正直関わりたくない相手だった。


 今の俺は誰が見ても丸腰だ。両手は不自由なため、もし、ここで相手が攻撃を仕掛けてきたら、俺はなすすべなく殺されただろう。


 相手はそれをしなかった。突如出現した俺を警戒しているのだろう。腕は動かせないが指先ぐらいは動かせるため、ピクピクと蠢かすと、彼らは目ざとく指先に視線をやった。


「なあ、こいつ殺してもいいかあ?」


 質問に無言を貫く俺に、ベルガーは怒りを抑えきれないのか、顔をひくつかせながら、許可を得ようと隣の男に尋ねた。


「こんばんは。僕トーマス」


 こと人のペースを乱すことに関しては、人一倍得意だと自負している俺は、このタイミングで位の高いらしい細身の男に挨拶を交わした。


 ベルガーのヘイト値がさらに上昇した。いつ首をへし折られてもおかしくなさそうだった。


「これはこれはご丁寧に。私の名前はタナト。あなたは村人……ではないようですねえ。失礼ですが、どちら様でしょうか?」


「ちょっとばかし仕事でこの村に立ち寄っただけですよ。これですよこれ」


 俺は抱えているものをタナトと名乗る男に見せびらかすように揺らした。実はそろそろ腕の限界が近いが我慢だ我慢。


「ほっほっほ。そういうことでしたか。ということは私たちと似た人間というわけですね」


「似たにん──」


 話を折るように、すぐ近くで大地が砕けた。小石 が四方に弾けとび、砂が舞った。その中心。地面にはベルガーの拳が深々とめり込んでいた。


 はっ?何こいつ。めちゃくちゃ力強いじゃないか。こんなやつ怒らせたら首の骨が折れるどころか、首から上が消し飛んじまうだろ。


 悠長なことはやってられないと理解する。長く話し込んでボロでも出したら、やばい。


「『千変万化の所有才幹テンポラル・ステータス』オレはよぉ、自在に肉体レベルを上げられるんだぜ。死にたくなけりゃあ、吐くもの全部吐いてもらおうか!」


 肉体レベルの上昇。それは魔法なんてものではない。能力だ。氷月が世界の理を歪めて時を止めるように、少し前に現れた変質者の高速投擲能力のように。彼もまた、能力を使えるのだ。


 世界を異にしても能力は存在した。その事実は俺にとって、厄介極まりないことだった。


 だが、今回俺が戦う必要はない。落ち着け。俺は騙せばいいのだ。敵も味方も騙し尽くして、勝利に導けばいい。


 俺はデタラメを言うために口を開こうとするが、それをタナトは手で制した。


 いや、違う。俺が制されたのではなく、隣にいたベルガーを制したのだ。今にも手をかけそうなほど上気しているベルガーの前に躍り出て、彼が言った。


「あなたの勝てる相手ではなさそうですよベルガーさん。ご覧なさい彼の顔を。あなたの力を間近で見ても顔色一つ変えず、そこに立っている彼を。その程度の力では屈従しないと言わんばかりに堂々としているではないですか。相当な実力者ということですよ」


 マンガとかアニメでも地面叩いて実力を示唆するシーンってよくあるよな。大抵途中からインフレ始まって、体を壁に叩きつけられたときのほうがひび割れが大きく入ったりする。


「それと、私は前にむやみやたらと能力を使うなと勧告しませんでしたか?あなたの能力は一度と使うと数分間継続し、その後小1時間ほどは脱力状態に陥り、能力も使用不可なるのでしょう」


 図らずしも、有益な情報をいただいてしまった。大きな不安要素が取り除かれて、心の中でホッと一息を吐いた。


「私たちもある人間を捜してこの村へ来たのですよ。なかなか稀有な能力を持っている人間でして。我々の仲間に加わっていただきたいと思っているのですねえ」


「へえ。なら僕はあなたがたの役に立てるかもしれませんね。村の人間の警戒心を取り払うためにわざわざ長居した身ですから。この村のことについてはそれなりに詳しく知っていますよ」


「私たちが来たというのに静かすぎるのも、もしやあなたが……?」


「ご名答です」


「それは都合がいいことですねトーマスさん。どうでしょう私たちに知識を授けてもらえませんかねえ。何もタダとは言いません。見たところ金銭が目的のようですし……情報料はこのぐらいで」


 そう言って差し出されたのは皮袋。ここで目先の利益にくらんで受け取るヘマはしない。どんなケチを付けられるか分かったものではないからだ。


 交渉はいつだって、成立と決裂の中間を行き来しているものだ。人の一挙一動が天秤を揺らす。


 料金を先に得るということは、額に見合った品を必ず提供しなければならないということと同義。彼らは人を殺せる人間。分不相応な情報では満足しないだろう。


 しかし、どうやら作戦通り、相手に俺の印象を植え付けることができていたようだ。ヒヤヒヤしていたが、順調に事が進んでいるようだった。


「この通り手が離せないもので。紐をほどいてもらっても?」


「ええ」


 骨に薄く皮が付いただけの、安価な骨つき肉のような指でシュルシュルと紐をほどく。中には金貨が積み重なっていた。


 この世界の貨幣価値については詳しく知らないため、俺は物申すことはできない。というか、異世界に来て初めて貨幣というものを見た。


 金貨といえば銅貨や銀貨よりも価値があるものと見ていいのだろうか。貨幣は貨幣でも国によって発行しているものが違ったり、すり減ったものは価値が下がると聞くが、基準というものを知らない手前、めったな発言は避けることにすべきか。


「いかがでしょうか」


「十分です。もとより、無価値だった情報に、価値を見出していただけるだけで僕は満足ですよ」


 俺は笑みを浮かべる。何も知らない一般人が見たら冷笑と言うのだろう笑みを顔に貼り付けて、成立させた。


「では、質問をよろしいですかねえ」


 俺、ここに来て日が浅いから、知ってることほとんどないんだった。知らないこと聞かれても答えられんぞ。嘘なんかついてみろ。ひき肉にされるわ。


「ここに来たのはある人物を捜すためと言いましたが、実は私たちが教えられたのは名前と能力のみでで、見ただけでは誰かまでは分からないのです」


「つまり、その名前と能力について、心当たりがあるかどうか知りたいってわけだな」


「頭が回る人は話が早くて助かりますねえ」


 いよいよマズイことになった。人の名前なんてパルとガルムさんぐらいしか知らねえよ。全然知らない人の名前出てきたらどうしよ。


 あれだあれ。長いこと暮らしてきたが、そんな名前は一度として聞いたことがないって答えよう。村ぐるみで隠匿されてるほど重要な人物ってことで納得してもらえるだろうか。


 空気と化したベルガーを見ると後ろで寝そべっていた。すでに数分というリミットが過ぎて、能力のデメリットである脱力状態になったようだ。


「この村の中に『壁を作る能力』や『防御に特化した能力』あるいはそれらに準ずる能力者はいませんかねえ?」


 進撃してきそうな能力だな。壁を作る能力があったら、今ごろ、この村は壁に囲まれていそうなものだが。


 もちろん聞いたことはない。しかし、バカ正直に答えても怪しまれるのは自明の理。どうにか理屈をつけなければならない。


「聞いたことはないですね。そもそも、この村はそういった力には無頼を気取る慣習があるようですから。自然のままに生活していく。それがここの規則みたいで、能力については一度も見たことはありません」


「やはりそうでしたか。いえ、こちらとしてもその能力についての情報が少なすぎたので。使われたことがないのであれば、それも納得ですねえ」


 危ねえ。

 この村にそんな能力を持った人間なんかいたのかよ。いたならなぜ使わないのだろうか。そのせいで今まさにこいつらを村に入れさせてしまっているというのに。


「それでは名前のほうを──」


 第二関門。こちらは今までのように上手くはいかない。失敗して警戒される前に勝負を仕掛けたほうが賢明だろう。


 いつでも動き出せるように手足に力を込めると同時に彼は素っ気なく言った。


「あなたはパル(・・)という名前をご存知ですかねえ」


 今なお、腕の中の少女は安らかな寝息を立てていた。


次回の投稿は一週間後を目安にしています。

多少の前後はご勘弁くだせぇ…

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