12.自重
今回もちゃんと予定通りに出せました。
誓って言おう。ノープランであると。
レトリックな物言いで二人を安心させることに成功したが、何の作戦も考えていない。むしろ、どれだけ頭を捻っても考えつかない。
しかし、あの場で「お言葉に甘えておいとまさせていただきます」だなんて誰が言えただろうか。少なくとも良識のある俺にはできない。
まあ、でもあれだろ。氷月の能力で時間を止めて、その隙に縛り付ければ万事解決だな。やっぱりできる人間はできる時にできる力を振るわなくちゃ。誰にでも適材適所があるわけだしな。
「確かに猫の手でも借りたい苦渋な事態ではあるが、そういうわけにも……」
「彼は一度言ったことは絶対に、何があっても取りやめようとしない意固地な人間だから、何を言っても無駄よ。そんなことを考えている暇があるのならば、二人組の処分について今のうちから協議しておくのが妥当でしょうね」
「それちょっと、信頼しすぎだろ」
なんでお前が自信満々に言うの?
「……私たちの村を自らの手で守ることができないのは誠に情けない話ではあるが、この村の代表として、お二方にお願い申します。どうか……どうかこの村を救ってくだされ」
と、正面から頼まれでもしたら、無下に扱うことなんてできるはずもない。
「確かに任されました」
承諾。所詮は簡単な依頼だ。
「えっと……私は何をしていればいいのかな?」
「「子どもは早く寝ないと成長できない」って彼が言ってたわ」
「おやすみー」
俺何も言ってないんだけど。そうやって言ってもないことや、やってもないことを真実のように話すのやめような。真偽不明の噂は尾びれが付いて際限なく広まるからな。「お前○○なんだろー!」って知らない人に言われる気持ちとか考えろよ。
というかこいつ軽っ! 一大事なのに、生存の危機に瀕しているというのに、そこで迷わず睡眠を選択するか。
「感謝極まりないことだ。旅のお方も若いがパルはもっと若い。育て親としてはあまり人血を見せたくないのだ。それは逃げても隠れてもいづれかは見えてしまうものだろう。それに比べて安眠か。大事にせず、パルが寝ている間に静かに決着をつけようということじゃろう」
「あー。そうそうそういうこと」
ほらなんかガルムさんが好意的な解釈したじゃん。静かな決着って何だよ。交渉で解決すればいいの?
でも、相手はいきなり殴りかかってくる野蛮なやつなんだろ。交渉の余地もないじゃん。核兵器保有してますって言っても、貯蔵庫に核落として、地球の表面ごっそり削るタイプなんだろ。
睨み合いっこで互いに牽制してた冷戦ってそう考えるとすごいな(棒)
「私に何かできることはあるか?」
「村人を総動員しても、かえって混乱して危険が増すだけだと思うから、家から出ないように通達してもらえると助かる」
氷月の能力で即決着は目に見えている。ただ、相対の前に村人と敵が接触してしまえば、交戦は避けられない。そうならないためにも村人には引きこもっててもらったほうがいい。
俺がそういうと、ガルムさんは「承知した」と短く言って、他の人々に伝えるために家を出て行った。ちょうどこの時間帯から会合があるらしいので、必然的にこの家に集まってくる。伝えるのは容易だろう。
ガルムさんが出て行った部屋は静けさが訪れた。すでにパルは寝息を立てている。かわいい。じゃなくて。
「んで氷月。そろそろ作戦を練ろうと思うんだが」
「ええ、そうね。私もあなたに言わなくてはならないことが判明したわけだし」
「言わなくてはならないこと? もしかして、それは今重要なことだったりするのか?」
「どうかしらね。作戦によっても変わるかと思うわ」
作戦によって重要か不要か変わること。不安要素は早々に取り除いておきたいが、ガルムさんいわく、相手はこちらへ向かっているとのことだ。もう猶予はないとみていい。
「とりあえず作戦は──」
手早く済ませるために氷月には簡単に説明した。大体はあの投擲能力を持ったやつとの戦闘に近いスタイルだ。
俺が正面を切って出る。二人組が六畳という制約の中に入るように誘導。俺が囮になり、氷月がメインになるような配置だ。
この世界には能力などという特異なものはないだろうが、異世界である以上は侮れない。魔法や魔術、魔道具、そんなものがある可能性も捨てきれない。
あるかどうかも疑わしく、どんな力、どんな性質、どんな形状かも分からないものに、そこまで事前策を講じることはできない。そうなったときにはアドリブが頼りになる。
時止めの力は一見万能そうに見えるが、その能力にだってデメリットは多く、俺が、そして氷月本人が知らないだけで、多くの穴があるかもしれない。
敵は人殺者。
ガルムさんの仲間を葬る力を持った二人組。
刹那の油断は死につながる。
入念に策を伝えた。非常時には柔軟に対処できるようにあくまで簡易的に。
終始頷いていた氷月は俺が話し終えると、とても嫌そうな、それでいて、申し訳なさそうな顔をしていた。
意味深長な顔ぶりだった。まるでこの作戦には大きな欠点があると気付いたような。
「……先ほど、話さなければならないことがあると言ったけれど」
「あ、言ってたな。結局何なの? この作戦に関係してた?」
「……大いに」
まじかよ。そりゃあやべえな。作戦立て直ししなくちゃならないか。でも臨機応変に対応するために大した策を練っていたわけではないし、命の危機でもあるのだから、固執している道理ははないな。
「んで、何のことなんだ?」
「……デメリット」
「ほう」
「体調不良になると能力が使えない……」
「つまり?」
会話の間に冷や汗が流れる。
このときばかり、この静かな空間が空恐ろしく感じた。ピリピリと張り詰めて、隙間風の音が、嘲笑うように、高く、冷たく、吹く。
「……動物の背に乗ってから、調子が芳しくない」
作戦が、脳裏から剥がれ落ちる音が聞こえた。
頭が真っ白になる。高校入試の面接を思い起こす。予期せぬ問題に頭が回らなくなり、しどろもどろになり、自分が何を言っているのか分からず、何も考えられず、何も──。
それではダメだと、自分を強く叱責する。ほおを叩き、解決案を導く。最善の策は潰えた。ならば次善の策を。
やはり人海作戦に出るか? ガルムさんに再度頼み込んで玉砕覚悟で突撃すれば、勝算はあるかもしれない。
しかし、それでは俺がいる意味がない。むしろ、下手な指揮を執ったぶん、俺は邪魔者だ。
自分ならなんでもできると過信したうつけ者。一人の旅人のせいで、何十人もの死傷者が出る。
傍らで眠るパルに視線を落とす。なんとも気持ちよさそうに眠っている。これから彼女は俺のせいで、眠りを妨げられて、そして、そして──。
そこから先の想像はしてはいけないと自制する。確かなビジョンを持った人間が夢を叶えるというのならば、ロクでもない想像は災いを生む。
思案の最中、ある一言が頭を巡る。責任を押し付けて罪悪から逃げる最高で最悪の一手が、頭の中をぐるぐると回る。
ただこれは、この一手だけは悪手だ。言ってはいけない言葉。言っても未来は何も変わらず、惨劇は止まらず、俺だけが死に間際に自己嫌悪に陥るだけのもの。
「どう、すればいいかしら」
俺は息を飲んだ。飲んで、言葉を飲んだ。彼女に言ってはいけないたった一つの言葉を俺は飲み下した。自責も他責も今はお呼びではない。必要なものは機転だけだ。
俺は彼女の問いに答えるように、無言で部屋内を散策した。
何か使えそうなものはないかと物色する。どんなものも時に人を殺める凶器になりうる。使用者の狂気を持ってすれば、紙切れ一枚、毛髪一本は十分に殺傷能力のある武器だ。
壁に掛けられた、ヘルファンゴを縛るための縄を外して床に置く。これだけではダメだとさらに捜索。
玄関まで足を伸ばすと、ガルムさんが使っていたであろう槍を発見する。手に取るとなかなかの重量があり、金属バットを3本持ったぐらいの負荷が腕にかかる。
「縄と……槍ぐらいか」
「これも使えないかしら」
俺と同じように氷月もまた、道具を探してくれた。彼女の持っているそれは、俺が一度は手に取って、再び置き直したものだ。
生物が本能的に恐れ慄くもの。
「俺もそれが一番だと考えたが、それはあまりにも使い勝手が悪い」
「でも、これさえ有効に扱うことができれば……もしかしたら」
慎重にそれを受け取って黙考する。メラメラと揺れ動く影。その影は幼い寝顔に明暗を与えた。
明るい顔と暗い顔。
善意と悪意。
二分した対称。
「…………」
「何か思い付いたのかしら?」
「……終わりよければすべて良しって言うよな」
「ええ、まあ言うわね」
俺はある一点を直視した。手に持っているアイテムなんかよりよっぽど有用で、もっとも使ってはいけないもの。
これしか方法がないのであれば、使わざるをえない。だからといって、成功する保証はどこにもない。
「氷月。本当に今、能力が使えないのか?」
「残念ながら。もうしばらく休めばある程度体調は回復するかもしれないけれど、今はまだ難しいわ」
試しに聞いてみたがやはりダメらしい。能力のない俺には、何がどう無理なのかまったく理解できないが、本人が言うのならば無理なのだろう。
俺にも能力が備わってさえいれば、こんなことにはならなかったのに。
「んじゃあ、できる限り休んでろ。相手が来る前に全快になっていれば作戦は決行。まあ、少しぐらいの時間なら俺でも稼げるさ」
そんな折だった。
地面が爆散する音が外から轟いた。
次回も一週間の予定でいきたいとおもっています。
これからもよろしくお願いします。




