第十七話
パチパチと木の爆ぜる音がするのは、煮炊きのために火を炊いているからなのだろう。オレンジ色のその炎を見つめながら、皐月は無心にスープを口に運んだ。ジョルジェット謹製の多分根菜と干し肉の塩味スープ。基本の調味料は塩のみ。それなのに干し肉から素晴らしい出汁が出ているようで、美味しい。単純なものほど美味しいものを作るのは難しいのにジョルジェットってすごい、と素直に賞賛する。
ああ、夢のように美味しいスープ、とそっと目を閉じる。そう、皐月が視界を閉ざすのはスープをいっそう感じるためであって、目の前にマッチョがいるからなんてことはない。斜め向かいにいるあのマッチョは幻なのだ、と自己暗示をかける。無論彼の話す声が聞こえてくる今、そんなことが成功するわけもないのだが。
皐月は泣きたい気分になりながら傍らに座る、マッチョとは正反対のアルバロを見る。
自分とそう変わらぬ背丈に痩せた体。髪の艶はないけれど、顔はいい。ただし口は悪い。でも結構いいやつ。そんな印象のアルバロならば、マッチョとは無縁である。本が好きならば絶対にインドアなはずだから。皐月はきっと触ったら骨が刺さるだろうアルバロの肩を見つめる。ちなみに肩フェチではない。
「それにしてもガイウスは何故ここに?」
「任務だよ。俺の部隊はあの門の守だからな。ま、ここ数年は下手なことは起きていないがな」
「そう、だな。またあの様なことが起こっては困るが……ガイウスはあの場を離れて平気なのか?」
「ああ、別段問題はないな。本来なら今日も明日もあの門を使う予定はなかった。今日俺がここにいたのもレオからのゴリ押しで、だからな」
「前もって言っていただけだろう? もしかすると行くかもしれない、とね。君の休みが消えたのは僕の所為だけじゃないだろう? ……サツキ、少しいいかな?」
ああ、アルバロっと肩薄いね。なんて現実逃避していればレオの声で名前を呼ばれた。無意識に顔を向けて、気がついてまたアルバロを見る。うん、やっぱりアルバロは肩が薄い。安心する。なんてことを思ってみた。
「サツキ、彼を紹介したいんだけれど聞いてくれるかい? 彼は──」
「っえ? い、いいです! 紹介されるようなもんじゃないですし!」
話を振られて言い切った。が、また間違えた気がしてならない。でも気にしない。マッチョとは仲良くなんてできないのだから。
皐月は勢いアルバロに詰め寄った。勢いをつけすぎて肩にぶつかった。予想通り骨が刺さったが、そこは気にしない。自分の挙動がおかしく見えても、自己紹介しないで済むのなら、そして彼の名を聞かずに済むのならそれでいい気がした。全く以って良くないが。
「だけど、サツキ──」
「ほ、本当にいいです!」
「痛えし、暑いし、鬱陶しい。はーなーれーろ!」
「や! 無理! 今はここが一番落ち着くの!」
ぎゅうっとアルバロの腕に絡みついてみた。多分アルバロの腕力でなら負けない気がしたのだ。事実負けることはなさそう。少しばかり押される額が痛いけれど、それは名誉の負傷だし、とイマイチわけのわからない理由を上げてみる。錯乱中であることは否定しない。
「あー…俺なんか嫌われることしたか?」
背後で悲しげな声が聞こえた気がしたが、意識的に耳を閉ざした。両手でアルバロにしがみついているので物理的には閉ざせないので。そんな皐月の頭を一撫でした、フォルナートが口を開く。
「存在自体が嫌なのではないですか? 先ほどからあなたと彼女は直接話していませんし、生理的に好かないですとか色々ありますでしょう? 例えばその眉の太さが嫌いですとか、馴れ馴れしい雰囲気が嫌い、ですとか──まあ、今あげたのは私が嫌だと思うところですが」
あなたにもあるでしょう、と問いかけるようにしながらも楽しげな声。フォルナートは性格が悪いと思いますとは浮かんだが、言えない。今は助け舟を出されているような気がするから。それでも彼の言葉に苦手な理由がないので頷きはしなかったが。
「ちょ、お前まだ根に持ってんのかよ!」
「何のことだかわかりませんが。それに今大事なのはあなたが彼女に嫌われている、ということだけでしょう?」
「あーもう! フォルナートは黙ってる。ガイウスも静かに。理由はどうであれサツキが怖がっているのは見てわかるだろう? 何が理由かはわからないけれど、君に会うまではこんな姿を僕らは見ていないんだから、君が原因でしかない。そこは自覚してくれ」
「お前……もっちと言いようがあるだろうが。ったくよーなんで俺だけダメなんだよ」
しょんぼりした声が聞こえたが、振り向けなかった。相も変わらずアルバロにしがみついている。筋肉とは無縁の腕。多分自分より細いのではないか──と浮かんでちょっとばかり腹立たしい。
「サツキ? そんなにガイウスが嫌なのかい? 彼が何かしたかな?」
「な、なにもされてない、です……けど無理です」
マッチョなので。とは言えない。が無理である。生理的に無理ですとも言えないので、首を振るだけ。皐月は自分がとてつもなく子供染みたことをしている自覚はあるが、本能レベルで苦手なものは仕方ないのだ。自分を納得させるように内心で呟く。
「ほら、ですからあなたはもっと遠くに行ってくださいませんか? 彼女も嫌がっていますし、あなたの存在自体がエリオットに悪影響なので。サツキさん、食事が終わったのなら輿に戻りますか? もう暗いですし私がご案内しますよ。着替えもなさりたいでしょう?」
「フォルナート、別に俺は悪影響など受けていないぞ?」
「いや、まあそれは……」
「なんだよ、俺どんなだけ悪設定されてんだよ……」
「ああ、もうガイウスは黙ってよう。とりあえず今一番大事なのは君をサツキに紹介することなんだから。──ねえ、サツキ、少しでいいから聞いてもらえるかな?」
レオは困りきったような声を出した。その原因が自分であることはわかりきっているので、皐月も頷くしかできない。マッチョは嫌いだが、レオたちの迷惑になるのは本意ではないのだ。
「ありがとう。それじゃあ彼のことを少し。彼はね、ガイウス・デガーニ。エリオットの乳兄弟で僕の幼馴染みたいなもの、かな? 悪いやつではないんだよ? だから少しでいいからこっちを見てくれないかな」
「む、無理です……その、ガイウスさん? みたいに体格のいい人はその、苦手なんです」
「苦手っつーかむしろ嫌いなんだろ? はっきり言っとけよ。つーかレオ、こいつ震えてんぜ? 止めといた方がいいんじゃねえの?」
あっさりアルバロに暴露された。確かに皐月は震えている。離れて座ってもいるし、近くには彼とは違う体格の者ばかりであるけれど、圧死寸前まで押し潰された記憶が蘇るのだ。しかも汗臭かった。暑苦しかった。いい思い出であるなんて嘘でも言えない記憶だ。
その点アルバロはひょろいし、汗臭くない。皐月は安心して縋りつけた。だから見るのは無理ですよ、と背中で言っているつもりの皐月に非情な言葉が届く。
「──それでも、ガイウスは引き入れたいんだ」
そっと髪を撫でるように触れ、告げるのに内容は優しくない。皐月は予想していたことではあったけれど、レオの言ったそれに落胆した。
「ガイウスは気づいているんだ、サツキのことに。それならば引き入れなくてはいけないし、その方が取れる手も多くなる。だからサツキ、苦手なのはわかったし、顔も見れないのはわかったけれど、ガイウスのことは許容してくれないか」
わかっているのだ。自分がこの世界で異端であることは。だからそんな自分を少しでもいい状況にレオたちが持って行こうとしてくれていることは。そうしてくれることは嬉しい。だけどそこにマッチョが加わるのは困る。皐月は自分の都合でしかないそんなことを主張し続けられるほど厚顔にはなれなかった。どれだけレオたちが心を砕いてくれているのか、それをわかっているから。
元々苦手とする人物がレオたちの中にいなかったことが幸運なこと。それが変わるからと言って我儘を言ってはいけない。皐月は子供染みた自分を恥じながら、告げる。
「わかり、ました……」
小さく頷いて、それからようやくアルバロの腕を離した。
まず初めに火の粉を散らしながら燃える焚き火を見つめ、それからその先に見える大きな足先を見る。オレンジの光を受けて鈍く光るのは長靴。磨かれたそれをからゆっくりと視線を上げて行く。
スラリと長い足は今は折り曲げられている。肉厚で、体格がいいのだと教える胸板。太い首にかかる襟足。色は黒で見慣れたもの。だけどその顔は見慣れたとは言えない。野性味溢れる美形は真剣な顔をしていると怖い。皐月は咄嗟に目を逸らした。が、口は開けた。
「その、済みませんでした。すごく失礼なことしちゃったってわかってはいるんですけど、でも……その」
「あー…無理すんな? こんなに怖がられたことはあんまねえが、お嬢さんみたいな小さい子には俺みたいなデカイ男は怖いもんだろ? だから、まあ……俺は気にしないからお嬢さんも気にするな?」
一瞬無音になった気がした。が、それはいい。自分がそう大きくないことを皐月もわかっている。が、どうしてこんなにも彼は子供に対するような優しげな──ある意味猫撫で声を出しているのか。
皐月はレオたちに十代前半だと思われていた。が、その時ですらこんな声音は聞かなかった。何故だ、と無意識に彼を見れば届く声。
「ガイウス、サツキさんはあなたの三つ下なだけですよ」
「は? このちまいのが俺の三つ下? って二十三? はあ? 馬鹿言うなよ! 全然、全く色気もなんもねえじゃねえか! 胸だって腰だって育っちゃいねえし」
「いいえ? サツキさんはきちんと女性ですよ?」
「あ? なんだお前見たのか? こんなちまいのがお前の好みだったのか? 昔はこう、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだ年増が──」
「それはガイウスの好みでしょう?」
両手で空中にS字を書く姿は滑稽だけれどどんな好みかを明確に表してはいると思う。が、デリカシーはないのだろうと皐月は思った。しかも合間合間に皐月を見て、残念そうな顔までする。皐月の抱いた印象は一言だけ。
「最っ低! やっぱり私あなたのこと嫌いです!」
とりあえず立ち上がって宣言してみた。こんな相手のことを怖がるのは馬鹿らしくなった。ある意味苦手が克服できた瞬間でもある。今のところ頭に血が上っているのでそれにも気づいていないが。
「あー…うん、今のはサツキが正しいかな。僕も庇えないよ、ガイウス」
「め、面目ねえ……」
「全くサツキが譲歩してくれたのにも関わらずお前は何をしているんだ? 大体サツキは十分に魅力的な女性ではないか! そ、それに女性としての魅力も──」
言いながら赤く染まる頬は可愛らしい。が、何をもって女性と判じたのか皐月にはわからない。まあ、庇ってくれるのは嬉しいので深く考えないことにした。
「ありがとう、エリオットさん」
「っ! い、いや礼には及ばん」
お礼を言った方がもっと顔が赤いのはなんでなのだろう。なんてことを思いながら、皐月はエリオットの手を握り、感謝を表せるように目一杯笑う。ちなみに赤面したエリオットはそこらの女子では敵わないだろうくらい可愛らしかった。ちょっと悔しかったのは気の所為のはずである。
「あー…初恋か? どーすんだよ、これ」
「エリオットはこのままで良いのですよ。このまま純粋に育てばそれは素晴らしい男になるでしょうから」
「まあ、初恋は実らないからいい──んだよね、多分」
「相手が気づかねえから問題ねえんじゃね? にしても趣味わりいな」
なんて声は聞こえなかった。
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マッチョな彼がガイウス・デガーニという人物であること。
レオたちが所属する神殿近衛ではなく、王立騎士団の一員であること。ちなみに皐月が潜った門を守る任につく一団の長であるらしいことを聞いた。そしてその一団は皆ガイウスと同じような体格であるらしいとも。ゾッとする。
が、皐月はガイウスだけならばマッチョは克服できたようである。彼の顔も、その姿も一応真正面から見れる。もちろん苦々しい思いで見るので、好意は一切含まれない。エロいマッチョなんて最低だ、と浮かぶくらいだ。マッチョじゃなくてもエロいのを前面に出すのは願い下げだが。
そんな風にちょっとばかり苛々してしまう皐月は今、輿の住人になっている。至る王都への道。門を離れるということで、ミモレ丈のワンピースからチュニックとキュロットパンツに着替えた。髪型も一つに括るだけに戻っている。楽な格好になれたのはいいが、王都まではあと二刻分の距離だそうだ。正味三時間で目的地に着くわけだが、実は皐月はそこでどんな扱いになるのかを知らない。本音を言えば怖いのだ。だから皐月は怒ることでそれを紛らわせているのかもしれない。まあ、ガイウスにしたらいい迷惑、かもしれないが。
「んで、どうすんだ」
「あー…うん、まあ決まってはいるんだけれどね」
「つってもまだ決めかねてるってとこか」
「決めかねてもいるんだけれど、上手くいくかが少しね。上手くいかせるつもりではあるけれど……」
「どうなるかは隠し通せるかにかかってる、だろ。ま、確かに難しいわな。俺らにラウエンティス旧神殿のやつら。その上ガイウスだろ? 少人数とは言えねえからな」
なんだか真面目な話をしている。とは思ったが、聞き流した。皐月は今、腹立たしさから無心にお菓子を食べているところなのだ。時たまアルバロに奪われながらも死守しているのは徳用のお煎餅。ちなみにザラメ付きのおかきタイプが一番好きである。
お茶が、濃いい番茶が欲しい。なんてことを思いながら齧る。もちろんバリボリと賑やかな音を立てながら。お煎餅は音を立てて食べるのが作法であるというのが皐月の持論なのだ。
「確かにね、少人数ではないから守られるかどうかはわからない。けれどラウエンティスの神殿長はことの次第をわかっていらっしゃるようだった。きっと秘密は守られる。問題は今ではなく、これから──なのだと思うんだ」
「ま、そうだな。あのおっさんは守るだろ。なんつったって保守派だからな。んで問題なのは王都の神殿の小悪党どもと王。それから騎士団の左のやつか」
「そうなるだろうね。この国の中では」
一呼吸分間を置いて、レオは真剣な顔でアルバロを見る。真面目な話だな、なんてことを浮かべながらいっそうお煎餅を噛み砕いてみた。
「国外なら──アルバロはどこだと思う?」
「はあ? お前だってわかってるだろ────つーか煩ーよ! バリバリボリボリさっきからなんだよ!」
「おせんべ美味しいよ? アルバロも食べる?」
「食う! けどちげえよ! 今はお前の話ししてんだから、お前もちったあ真面目に聞け!」
差し出した袋からお煎餅を取りつつの言葉。はっきり言って威厳はない。
「でも私、何が正しくて、何が悪いとか、誰が味方で敵なのかわからないし」
「それはまあ、そうだよね」
「でもレオさんもアルバロも味方だとは思ってるから、二人が納得して決めたんなら別にいいかなーって」
けして面倒なわけではない。わからないから丸投げしているわけではなく、信頼しているから頼っているのである。多分。
「……サツキ、とても嬉しいんだけどね、その……」
「はい、なんですか?」
「ガキみてえに顔中にカスがついてる。おっ前さあ、本当に成人してんのかよ!」
「失礼な! ちゃんと二十三だもん!」
とりあえずついているかも、と思われる位置をゴシゴシとこすってみた。が取れている気はしない。でもアルバロの言葉に反論しないでいられるわけもない。どんなに小さくても、どんなに口の周りが汚れていようとも、事実二十三であることは確かなのだから。
「なら食いカスぐれえつけずに食えよ! そんなんじゃガイウスが子供だって思っても仕方ねえだろうが!」
「ああ、もう。アルバロは静かに」
「うえ、じ、自分で取れます……」
「うん、取れるだろうけれど、僕が気になっただけだから。ごめんね」
スルスルと撫でるように頬に触れられる。優しいその手の温もりと、ダメな子供を見るような眼差しは痛い。皐月は顔に熱が集まるのを感じながら口ごもった。美形に世話をされるのは途方もなく恥ずかしく、情けなく、そして居た堪れないのだ。と今更に痛感した。
「それでね、サツキ。僕らは君は隠してしまいたいんだ。最短で七日。最長で一月は」
「……その数字に意味があるんですか? それに隠れられるんですか、私」
「難しいかもしれないね、今のままの君なら。でもやろうと思ってできないことはないし、僕らがついているからあまり心配しないで欲しいんだ」
「そーそーお前はレオの言うことを聞いて、大人しくしてりゃあいい。後の面倒事はレオとか、フォルナートがやるし、俺だってまあ、この界のことを説明くらいしてやる」
「そう、僕らが君を守りながら、君がこの界で暮らしていけるようにする。だからサツキは七日から一月の間、僕らの従者になってくれないか?」
真っすぐに見つめながら願われる。皐月はレオたちが決めたことであるなら従うと言っているにも関わらず。真摯なその様子に断ろう、とは浮かばなかった。
「じゅうしゃ……お手伝いか何かする人、ですか? えと、できないことはないと思うんですけど、それで隠れられるんですか?」
「従者は従者でも、サツキには見習い従者になってもらいたいんだ。だから普段から男の子の格好をしてもらうことになるけれど、そうすれば性別は隠しやすいだろう? サツキは他の見習い従者の子と変わらないか少し低いくらいの身長だから、バレにくいと思うし」
「……えと、それって従者って子供がする仕事だってことですか?」
「いや? 従者は成人したやつの仕事だが、見習いは十四からつける。基本は成人前の二年で血縁のあるやつのところで仕事を覚える。その間にどれだけ優秀かを周りに見せて、上手くいきゃあ成人してからもっと条件のいいところに引き抜かれる。まあ、ダメだとしてもそのまま続けられるけどな」
自分の小ささを加味した上で決められたことが成功するのか、それとも稚拙な策なのか。皐月にはわからないが、上手く行くように行動するしかないのだろう。皐月はコクリと一つ頷いて、レオとアルバロの二人を見た。
「わかりました。上手くできるか自信はないですけど、精一杯頑張ります」
「よかった、サツキが決意してくれたら安心だよ」
「ま、お前はいつも通りに行動しときゃ十分子供みたいだからな。後は服と歩き方くらいか。……あーでも歩き方はそんなに気にしねえでも平気かもしれねえ」
「アルバロ? どう言う意味かな、それ」
「あ? 侍従になるやつって礼儀ができてるやつが殆どで、そういうやつらって大股で歩いたりしねえんだよ。歩幅は小さく、なるべく音をたてないような感じでな」
「ああ、それならサツキもそうだね。背筋は伸びているし、歩幅も大きくない。礼儀だってきちんと弁えてるし」
「あ? 弁えてるか? 俺に敬語の一つも使いやしねえのに?」
「それはアルバロもだろう? サツキはきちんとその場に相応しい言葉を使えていたよ? アルバロはできていなかったけれどね」
アルバロの言葉に小さく笑って、それから皐月を見たレオはこともなげに言う。
「サツキは自分が女性であることがバレないようにするだけで、後は普通に過ごしてもらって大丈夫だよ」
「あ、はい。頑張ります」
と答えてはみたけれど、それを隠すのが一番大変なのじゃないか。と浮かんでしまう。何をどうすれば女性らしくなくなるのか。というかそのままでいいと言われると言うことは自分はやっぱり女性らしくないと言うことなのか。皐月はちょっとばかり遠い目をして考えるのだった。




