第十八話
予定通りに行程は進み、仄暗い森の先に光り輝く王都の姿が臨めた。眇めるようにその光を映し、レオは安堵の息をついた。
東には見慣れた三本の尖塔がある真白い石組みの城がある。その王城から市街へと真っ直ぐに伸びる三本の通りには、空に浮かぶ月と同じ名がつけられている。
プレッツァの周囲には、市街も白や薄い茶の石造りの建物がひしめく。商家の多い城下街と、そこに隣接する民草の住まう下町。
関所から王城へと真っ直ぐに続く王都で一番に栄える道。昼間であればレアーレに住む者の半数はこの王都にいるといって過言ではないほどだが、今はその姿も疎らだろう。なにせ城下にある商家でならば、揃わぬものはないとまで言われているが、今はもう夜半過ぎ。多少の往来があったとしても、そんな時間に外に出る民草が向かうのは、トリッネルの名の道にある店にだけ。
レオはそんな賑やかさとは無縁だろう目的の道を浮かべた。
目指すのはアフェットの道の先。そこにあるのは、王城の西に位置するどこかラウエンティスに似た尖塔を持つ建物。王城よりも僅かに低いそこはレオが所属する神殿だ。
ひと気もなく、僅かばかりの篝火だけで照らされた姿はきっと荘厳なラウエンティスに匹敵するだろう。今は高い城壁に阻まれて見渡すことができないが。輿に乗ったことで予定よりも少しだけ早まった帰還。最大の難関はここを抜けることである。レオは無意識に拳を握り、そして王都に背を向ける。
森の樹々に紛れ立つ仲間達。旅装を解かない彼らと共に、レオは王都まであともう少し、というところで計画通りに輿を降りた。
どうしても輿に乗ったまま関所を越えることはできない。なにせ輿はラウエンティスからの借り物。本来なら神官である彼らが乗る必要のないものなのだ。レオ達は普段と違う行動をこれからする。できるだけ疑いの目を持たれないようしなければならなかった。
無人の輿を送り出し、街道を外れ森の中に潜む。夜陰と樹々に隠れ、レオ、アルバロ、フォルナート、エリオット、ジョルジェットの五人は皐月とガイウスから距離を取った位置で話を詰めることにした。
「第一段階は関所を安全に抜けること、それはわかっているね?」
「ですからガイウスを引き込んだのでしょう? 彼がいるのならばサツキさんから目を逸らし易くなりますからね」
「そうか……だからガイウスは今サツキといるのか……」
「サツキはガイウスを毛嫌いしているが、それはいいのか?」
ジョルジェットの言葉にレオは少しだけ言葉に詰まった。自分たちにあれほど早く慣れてくれた皐月がまさかあんな態度をガイウスにするとはレオも思わなかったのだ。
確かに自分たちに慣れた、とは言え皐月には一線を引かれているとは思う。けれどそれは友好的な態度の上でのもので、これから先に多少は馴れ合いを見せてくれるのではないかとも思える。が、それが対ガイウスでは起こると思えない。
レオは不思議で仕方なかった。
ガイウスはそこまで女性に嫌われるような容姿をしていない。寧ろ好感が持てるような男らしさがある。性格だってまあ多少俗物的ではあるが気のいいところが多い。が、皐月が彼を厭う理由はガイウスの為人ではないのだ。と、言いながら流した視線の先にはガイウスと皐月がいる茂みが映った。無意識にレオの口からため息が漏れる。
「サツキは大人だよ。だからきっと大丈夫……だろうと期待している。自分の身を守るために必要なのだとわかってくれたならば、ね」
何事かを話している皐月とガイウス。その距離はレオと皐月とのものよりも随分と離れている。ガイウスの得意とする槍の間合いに届くか、というくらいの距離。あれではあまり離れている意味はないだろう。なにせガイウスの顔は楽しげだ。口にした言葉とは裏腹な二人の姿に呆れてしまう。
ガイウスはその性格や、功績から人からの好意をよく受けていた。男としても、騎士としても、貴族としても。だからだろう。皐月のその態度が面白く、そして興味深い所為で、彼女に絡んでしまうのだろう。ガイウスは大人、とも言えないのかもしれない──一抹の不安が浮かんだ。
「その前段階で駄目じゃね? あいつ、今だってガイウスから離れようとしてるぜ?」
「ガイウスも嫌われたものですね。いい気味です」
「フォルナート、慎め。……レオ、どうする? サツキは本当にガイウスが苦手なようだが」
「──嫌なのだとしても、僕らは隊として関所を潜らなくてはならない。そこに異分子を混ぜてしまえば可能性が上がってしまう。危険が高まるのは避けたい」
「長期的か短期的か。短期的危機を取る、ということだな」
「そういうこと。ガイウスならば関所を抜けるその時に誰かを伴っていても咎められない。あの門を守るガイウスだけが持つ権利がそれを許してくれるのだからね」
コントラット村にあるあの門を守る──それは王を護る者よりも地位があるわけではないが、特別な力を有してもいる。その裁量で門に仇なす者を捕らえることができる、という捕縛権だ。
言葉は悪いが、レオは皐月を一時的に罪人として関守に認識させようとしていた。それというのも王都に入るには関所を潜らねばならず、そこで気づかれねば後々に困ることも減るからだ。新しく従者見習いになった者が元々王都にいたのだ、と誤認させることができれば皐月の精神的な不安も減らせる。皐月にはどうあっても心穏やかにいてもらわねばならないのだ。
ツラツラとそんなことを浮かべながらレオはガイウスと皐月とを見つめ、またため息をついた。やっぱりガイウスは大人ではなかった。引き入れるべきではなかったのか──と。
「皆は少しここで待機していてくれるかい? どうにも諌めないと駄目らしい」
肩を竦めるフォルナートを視界の端に映しながら、レオはそっと足を進めた。
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輿の中でお煎餅を食べながら、皐月はこれからの自分の立ち位置を聞いた。レオ達も大変だろうが、きっと自分が一番大変になってしまうだろう先を考えると頭が痛くなる。が、それよりも今は自分の置かれた状況の方が問題である。
皐月はチラリと隣を見て、隠すことなくため息をついた。どうしてこうなったのかわかりたくなくて。
「ちょっと待て、なんで俺見てため息つくんだよ」
「そこにガイウスがいるから?」
潜めた声に同じように小さく、そして淡々と返しながら空を見上げる。それはもうため息が出そうなほど綺麗な星空が広がっている。ああ、天然のプラネタリウム。これで隣にいるのがマッチョじゃなければもっとときめくのに。なんてことを思う。現実逃避である自覚は多大にあるが、そこはそれだ。
落ちてきそうなほどの星空の下で二人きり。なんて恋人同士だったならそれはもう盛り上がるとは思うが、相手が皐月にとって天敵と言えるマッチョではなんにもならない。せめてアルバロであればまだ良かった。自分の知らない星座の話だとかが聞けたかもしれないし。なんて思ってしまう皐月には、マッチョと楽しく交流できる余裕が今はない。
なにせ本当に場所が悪かった。今いるここは後少しで森を抜けるというところ。つまりはまだ森の中と言っていい。そんな中途半端なところで皐月は輿から降りた訳だが、それにも理由がある。「ここからは歩くよ」とレオに言われたからだ。
が、その理由を皐月は知らない。理由も知らなければ、ここがどこであるかもわからない。無い無い尽くしの中で唯一皐月がわかるのは、ここがちょっと怖いところだ、ということだけ。ちなみに隣がマッチョである、というのは理由の一つに含まれたりする。
が、それ以外のものも怖すぎる。星と月の光が葉の隙間から僅かばかり届くだけの暗闇。聞こえてくるのはフクロウのような鳥の声に葉擦れの音。とガイウスの声。
暗いところを怖いと思う乙女心は皐月にも一応ある。そして隣には馴れ馴れしいマッチョ。余計に気は抜けない。
ちらりと視線を流せば数メートルほど離れた木の影に、レオ達がいる。闇夜に紛れてしまいそうな暗い色をしたマントを羽織り、リュックのような荷袋を背負っている。その立ち姿がとてつもなく決まっている──と思えるのは、多分皐月が彼らと対比して考える存在が悪いからなのだろう。チラリとまた隣を見て、それはもう大きなため息を吐く。
とりあえず皐月のマッチョ、特にガイウスに対する評価はかなり低い。マッチョなだけでも嫌悪対象なのに、下世話だからそれも推して知るべし。なのかもしれない。皐月はガイウスへの嫌悪をもう隠す気なんてサラサラにない。嫌いな相手に嫌われた所で痛くも痒くもないのだ。
「だからなんで俺を見て、ため息つくんだって」
「胸に手を当てて考えてみたらどうでしょうか。もしかしたらわかるかもしれませんよ?」
そうすればその胸板が厚すぎる所だとか、その上腕二頭筋が無駄に発達してるだとか、繊細さのかけらもないその骨張った無骨な指だとか、その他諸々に気づけるのではないですか。なんて言外に告げてみる。伝わっている気は微塵もしないが、嫌味だとは気づいたようで、ガイウスは皐月をじっとりと見つめてきた。ちょっと鳥肌が立った。
「お前ちまいフォルナートみてえだぞ」
「それ、後でフォルナートさんに伝えておきますね」
「はあ?」
二の腕を摩りながらにっこりと笑いながら返す。多分自分で言い返すよりもその方がガイウスにダメージを与えられるだろうと踏んだのだ。
その予想は当たっていたようで、ガイウスはそっと視線を逸らした。
「──ったく、黙ってりゃ可愛いのに……」
「それって実は褒めてないって知ってます? 褒めてるように見せかけて、自分の想像と違うって言ってるも同然。自分の理想を押しつける男ってモテないと思います」
「モテっ! 失礼なヤツだな、俺がモテねえなんて誰が言ったんだよ!」
「いいえ? 誰にも聞いてませんけど、あんな下世話な女性の表し方をして、筋肉ムキムキで男臭い人ってそんなに一般受けしないと思うんですけど。まあ、私情入りまくりだってわかってますけど、私からしたらあなたよりアルバロの方が万倍素敵だと思います」
もちろんレオやフォルナート達も素敵だ。が、ガイウスとの対比で言うのなら断然アルバロである。マッチョ対ヒョロ。いい勝負だと思う。でもアルバロが好みだというのもかなりマニアックだとは皐月も思う。顔はいいが性格に難ありだし、多分自分よりも軽いだろうから。何が、とは明確には言わないが。
なんだかよくわからない論旨で応酬しているが、いいのだろうか。意外にガイウスと会話が続いてしまっていることが不本意だった。その所為か、皐月はジリジリとガイウスから距離を取る。そしてまた、レオ達に視線を向ける。いつまでこうして彼といればいいのか。それを問いたくて。
「あ、おい。俺のそばから離れんな」
「え、嫌です」
「──嫌でもなんでもいいから動くな。あいつらの話ももう終わる。それまででいいから」
「……じゃあ、近寄らないでください。ちょっと近いです」
「それは無理な相談だな。俺は今、あいつらの代わりにお前の護衛だから」
なんてことを言いながら、皐月が離れた分以上にガイウスは近寄ってきている。正直位置が近すぎる気がしてならない。皐月の許容範囲以上に寄ってこられている。また鳥肌が立った。
どうしてこんな密室でもない場所で近くに寄らねばならないのか。もうちょっと離れたい。そんな思いのままにちょっとだけ、そうちょっとだけまた横にずれた。が、すぐにその距離は詰められた。しかも今度はその立派すぎる腕に捕まった。
「お、意外と細いな。んでやあらけえ。ふうん……お前本当に女なんだな」
そんな台詞とともにスルスルと腰回りを撫でさする無骨な手。今悲鳴を上げたら、ガイウスを婦女暴行罪で逮捕できるのではないかと皐月は思う。触り方がエロすぎる。ガイウスが触れているのは、自分を拘束するため──なんてことは詭弁でしかない気がしたのだ。皐月はいっそう鳥肌を立てながら聞いた。努めて冷静に、けれどそれはもう、地を這うほどに低い声で。
「──初めから女だったつもりですけど?」
「もっとガキみたいだと思ってたんだよなあ……。お前、細いが柔らかくて抱き心地いいな」
「っひ! ちょ、どこ触って!」
「腹? つーかよ、俺の手で余るってどんだけ細えんだよ」
もう本当に拘束じゃない。ウエストから確かめるようにゆっくり下に上にと手が動くなんて拘束とは言えない。やっぱり下世話だ。ガイウスはマッチョで下世話な男だ。
皐月はガイウスに背後から掴まれている所為で彼がどんな顔をしているのかわからない。が、どこか喜色が声に滲んでいるのは気の所為ではないはず。
そしてガイウスの手の動きが怪しくなっているのもわかる。どうして自分を取り押さえる手が愛撫のような動きになるのか。そして腰どころかその上下に動いているのか。皐月はこめかみをヒクつかせながら自分の手の一回り以上大きなガイウスのそれに爪を立てた。
「離せ、ヘンタイ!」
「イッテ! なんだよ、変態なんて言われるようなこたあしてねえだろうが!」
「乙女の腰を撫で繰り回しておきながら言い逃れる気! 了承も得ないで触っておきながら開き直るなんて犯罪者以外の何物でもないでしょ!」
「おま! 騎士団に所属する俺に対して犯罪者たあどういう言いがかりだ!」
「これのどこが言いがかりだって言うのよ! 今現在私の腰掴んで撫で回してるじゃない!」
そう言い切った瞬間、皐月はガイウスに抱きすくめられて息を飲んだ。
「犯罪者だって言うんならな、こんな風に──いや、本当ならもっと力を込めて抱えて抑え込んだり、怪我やなんだを考慮せずに押し倒して、無体を敷くもんなんだよ」
耳に吹き込む低い声。思わずゾクリとするほど腰にくる声だ。語尾が掠れるその声はセクシーなのかもしれない。が、今の皐月にはそれを論じることはできない。むしろ恐怖で腰が抜けてしまうのではないかというほどのパニックだった。
なにせ今、皐月はガイウスのその筋肉にまみれた腕の中に閉じ込められてしまったのだ。その腕から逃れたくて必死になるが、無駄にある筋肉に皐月の腕力が敵うわけもない。必死で腕を突っ張りガイウスの胸を押すがビクともしない。それどころか腕は真っすぐに伸びてもくれない。どう考えても抵抗とも言えない自分の行動。
皐月は思い出してしまった。今自分の置かれた状況と似通ったそれ。微かに届く男臭い汗の匂いと同じ匂い。耳を掠める押し殺したような呼吸音とは違った苦しげな、けれど耳を掠めた荒い呼吸。背中どころか身体中を押さえ込んでいた太く立派な腕と胸板を持った存在──マッチョだ──が、あの時と同じように今も自分のすぐそばにいるということを。
全てが全て怖くて堪らなかった。
「っ……や、だ……」
全身で拒否しようと声を出したけれど掠れたものしかでない。声と同じように体も強張ってしまう。思う通りにならないそのことが堪らなく恐怖を掻き立てる。
「なんだ。急にしおらしくなって」
「っとにヤダ……。離して」
「離せって言われてもなあ……別に逃げようと思えば逃げられんだろ?」
あっけらかんとしたその言葉からすると、どうやらガイウス的にはただ触れているだけのようだ。だがその力具合は、皐月には本格的に拘束されているとしか感じられない。男女の差だけでなく、筋力の差も強く感じる。が、今の皐月にはそんなことは考える余裕などない。とにかく早くマッチョから離れてくて堪らないのだ。
パニックになって全くと言っていいほど力の入らない腕を意思の力で振り回し、脱出を試みる。早くしないと脳までマッチョに侵されるような気がした。
「あ、コラ。暴れんな。レオにも言われただろう、静かに待てって」
「ヤダ! ムリ!」
「ッテ! ちょ、おま、暴れるなって!」
振り回した腕が丁度よくガイウスの顔に当たったが、その程度ではダメージを与えることはできないようだ。腕の力は少しも緩まない。このまま脱出できるまで暴れなくては──とその昔できなかったことを実践しようとすれば硬い声が届く。
「──ガイウス、サツキを離して」
低く、そして冷たい声。これまで聞いたことのあるどの声よりも甘さのないそれに、皐月は無意識に暴れるのをやめていた。
振り仰ぐように声のした方を見れば、そこにはレオがいる。葉の隙間から降る月光を受け、青白くも見える金の髪。睨めつけるようにも見える強い眼差し。マッチョの腕の中という状況を忘れた。マッチョよりも怖いと思って。
カサカサと草を鳴らして歩きながら、レオは冷たく問うた。
「ガイウス、女性におかしなことをするのが君の仕事かい? 僕は君にサツキの護衛を頼んだ気でいたんだけれど……どうやら君は護衛もできないようだね」
「んなわけあるか。こいつが逃げようとするから抑えただけだっての」
「だとしても、そんな風に拘束するなんて駄目だ。とにかく彼女を離して。サツキこちらにおいで」
そっと伸ばされた手を、蜘蛛の糸だとばかりにしっかり握った。ガイウスとは違う柔らかな温もりに安堵した。
「全く……君なら安全だと思った僕が馬鹿だったのかな?」
さして力を入れているわけでもないはずなのに、皐月はガイウスの腕からスルリと抜け出せていた。ガイウスがその腕を緩めたこともあるだろう。けれど皐月にはレオのお陰だとしか思えない。
細いけれど男性的なレオの指先。皐月は無意識に握る力を強めてしまう。そうして縋るようになってしまったのはまだパニックから抜け出せていなかったからだろう。
そんな皐月に気づいているのか、レオの指先が宥めるように手の甲をそっと撫でる。緩やかで柔らかなその仕草に詰めていた息をそっと吐く。が、皐月の心とは裏腹にレオの口からは訥々と平坦な声が紡がれる。
「まさか君が女性にこんな無体を敷く男だとは思わなかった。正直失望したよ」
「別に無体を敷いたわけじゃ──」
「何か反論が? 君は護衛であるはずなのにサツキを拘束した。それも嫌がっているにも関わらず。サツキはしっかりと嫌だ、と言っていただろう? それなのに君はその手を離さなかった」
「いや、それは──」
「君のその腕からか弱い乙女が逃れられるわけがないと知らないはずはないだろう? 柔術を得意とする君にこの王都で敵う者はいない、のだから」
ガイウスと相対しながら、レオは緩く手を引いて、皐月をその背に隠すようにしてくれる。手は未だに繋がれたまま。伝わる温もりと、物理的にマッチョが見えなくなったお陰か、皐月も少し落ち着きを取り戻せた。
ここはマッチョが一山幾らと言うほどいる密室ではない開けた場所であること。そして重要なことに、自分を守ろうとしてくれる存在がいること。慌てずに済む要因がたくさんあることに気づけた。
落ち着けたことで皐月はレオと、彼にやり込められているようにしか見えないガイウスとを見て、レオに声をかける余裕もできた。
「えと、レオさん? その……」
尤もその声はかなり掠れてしまっていたが。
そんな声にあっさりとガイウスから皐月へと視線を向けたレオは、どこか気遣わしげな目をしている。どうにも勘違いされている気がしてならなかった。
「サツキ、もう大丈夫だから少しだけ待っていて? ガイウスに言い聞かせ終わったら王都に入れる。そうすれば今日のうちに落ち着ける場所に連れて行けるから、ね」
「えと、それはその、嬉しいですけど……でもそこまで怒らなくてもいいですよ? その……私もちょっと言い過ぎたような気がしますし」
「もしそうなのだとしてもガイウスは護衛として君についていた。その時点で個人ではなく騎士としての行動が必要になるんだ。だけれどもガイウスはそれができなかった。だから────」
「だ、だから?」
「罰が必要なんだよ」
時折ガイウスへとその視線を向けながらレオは淡々と言葉を繋ぎ、そして最後の一言を口にするその時は殊更笑顔を浮かべる。怒れる美形って怖いのだな、なんて余所事が浮かびかけたのは皐月の所為ではないと思う。だって本当に怖かった。その言葉が事実だろうとしても、罰がなんになるのかわからなくて。
とりあえず、自分に害がなければいいのだ──なんて楽観的に言えそうもない怖い罰だったなら、情状酌量を訴えてみよう。なんて思う程度には、皐月の心は浮上していた。




