第6話 「移動はWASDか、よかった」
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あの日、夜遅くまでかけて設定したPCは、その甲斐あって今も元気に活躍してくれている。慎太郎がやるゲームはどれも快適に動いてくれた。
しかし今回ばかりは性能不足か……。
「グラフィック性能もメモリ容量も大丈夫なはずなんだけど」
少しずつしか進まない「Verse Chat」のウィンドウに表示されたバーを見ながら慎太郎は不安になる。
しかしPC購入当初からすれば自分もたくましくなったものだ。こうしてゲームの対応スペックを満たしているか自分で確認できているのだから。
慎太郎のPCは、グラフィックボードが「GTSX 1080」、中古品だから当然ながら型落ちではあるが、今でも多くのゲームが遊べる。メモリも16GBあり、ゲームプレイ中にメモリ不足のエラーが出たこともない。ドライブの容量もかなり空いている。Verse Chatだって大丈夫なはずだ。
しかし少しなりともPCスペックが理解できるようになった今となれば、あの時の「本館」のスタッフはありがたい人だったと思う。
今どき予算15万円でゲーミングPC一式なんて到底揃わないのにどうにかしてくれたのだ。
「『説明うざい』とか思ってごめんなさい。あのときは本当にありがとうございました!」
心の中で手を合わせスタッフへ感謝しているとゲームのウィンドウの中でバーが伸びきった。そして切り替わった画面に広がったのは、深い青色の星空と、空よりは淡いパステルブルーの地面だった。
そして近未来的なBGMに気づく。
「お〜、3Dって感じだ!」
これまで遊んだRPG、「FEX」も3Dゲームではあったが、三人称視点というのだろうか、自分のキャラクターを後ろ斜め上から見下ろすような視点だった。
対してこの「Verse Chat」は自分の両目の位置がそのまま画面の中に入り込んだような一人称視点。マウスを動かすと視界がぬるりと滑らかに回り、その慣れない変化に軽く平衡感覚が揺れるような心地がした。
視線を動かし、その青基調のいかにもサイバーな空間を見回すと、足元に幾何学的な模様が描かれていることに気づく。地面ではなく宇宙船の床なのかもしれない。
そして視線を上げた先の奥には、チュートリアルと思われる大きな矢印が点滅している。
「クリックするのかな?」
そう思ってマウスを動かすと何かビームが出た。
「え?攻撃?」と思ったが矢印にビームを当て続けても矢印が燃えたり崩れる様子はない。
そのままクリックしてみると矢印が輝いて消えた。
「なるほど、選択と決定かな」
慎太郎は矢印が消えた方向にこれまでやったゲームと同じ操作で移動を試みた。
「移動はWASDか、よかった」
こういうのはゲームが違えど共通らしい。
さらに現れた点滅する矢印を追いかけて移動すると広い空間に出た。どうやら円形の広場らしい。
「で、何すればいいの……?」
辺りを見回すと、これまでよりは控えめな矢印が光っている。
矢印は壁に向かっていた。近づくと壁が透明に、いや……。
「鏡?」
左右に動いてみる慎太郎。間違いない、今映っているのはゲーム内の自分だ。
「これが初期アバター?」
シンタの、言うなればリアルアバターである慎太郎は、どちらかと言えばガタイが良く、背も180cmには届いていないものの高めだ。髪の毛は営業職ということで先輩方に倣って短髪だ……今は少し伸びているが。
この初期アバターは、そんな自分の中身を反映したものなのだろうか。いやいや、そんなわけはない。ただのランダムなのだろう。ともかく、その姿には違和感があった。
鏡に映っていたアバターは、なんというか、可愛くもかっこよくもない。子どもが遊ぶブロックを組み合わせたような四角い人型で、これまたゲーム配信でよくみるブロックを積み上げたり爆破するゲームのキャラクターに似ている。
この姿でずっと過ごすのは抵抗がある。FEXではキャラクターと自分の姿を比べたことなどなかったのだが、この「Verse Chat」をこのアバターで始めるのは何か嫌だ。
「アバターって変えれるんだよね……?」
きっと変えれるはずだ。自分も動画で見たようなかわいい姿がいい。後で調べてみよう。
「ともかく起動できてよかった」
慎太郎は「Verse Chat」を起動できたことに安堵し一旦切り上げることにした。遊び方を調べてまたプレイしよう。
「えっと、終了方法は……?」
画面内に終了のようなメニューはない。他のゲームの要領でエスケープキーを押してみるとメニューがでた。よかった、これもゲームのセオリーのようだ。
しかし並んでいるボタンやアイコンを見回しても「ログアウト」や「ゲーム終了」のような項目がない。そんなわけはないと思ってエスケープキーを押してメニューを開きなおす。やはり、無い。
「これもしかして閉じ込められてデスゲーム始まるやつ?」
冗談めかしてつぶやいたが、内心ではかなり困惑していた。
しかしエスケープキーを押してメニューが出ると、マウスのカーソルをゲームウインドウの外に動かせるようだ。これは良い。
「ほい『ストップ』と」
慎太郎はゲームプラットフォーム「Spark」の方のウィンドウでストップボタンを押した。すると「終了しています」と表示が出て、そのまましばらく待つとゲームのウィンドウが消えた。
「これって強制終了だと思うんだけどな」
おそらくあんまり良い終了方法ではないはずだが仕方ない。ゲーム内に終了メニューがないゲームは初めてだ。
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