第5話 「え、何か間違えた?」
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店で選んでもらったパソコン一式を車の後部座席に積み込んだ。大きいダンボール箱が二つ、加えてこれまた大きい袋もあり、店から駐車場まで二往復することになった。
重い方の箱を運ぶときはスタッフが台車を貸してくれたが、二往復目は軽めの箱と袋だったので台車を返し自分の脚だけでがんばった。もし最後に台車を返しに行くことになればもう一往復増えてしまう。
後部座席のドアを閉める前に箱と袋が崩れないか確認する。この積み方で大丈夫だろうか?パソコンとは精密機器のはずだ、もし走行中の揺れや衝撃で壊れたら保証は効くのだろうか。
いやいや、輸送用のダンボール箱に入っているのだ。そもそもメーカーから店までの配送だってきっとトラックで揺られたはずだ。大丈夫だろうと思い直して慎太郎は運転席に座った。
駐車場出口で機械に駐車券を入れる。この駐車場は店と提携してないらしく最大料金を払うことになった。しかしパソコン購入で高揚した慎太郎には秋葉原価格の駐車料金も気にならなかった。
大した寄り道もせず急ぎ気味にしかし穏やかな運転で帰宅した慎太郎を待っていたのは、むくれた妹であった。
「お兄ちゃん、秋葉原どうだった?どんな面白いゲーム買ってきてくれたの?」
両親から慎太郎の小旅行を聞いたのであろう妹が、プリプリと慎太郎を問い詰める。
しまった、そもそもの秋葉原に行った理由を綺麗さっぱり、今の今まで忘れていた。
妹の表情を窺うに、自分を置いて秋葉原にいったことへの怒りと、しかし買ってきてくれたであろうゲームへの期待が混ざっている。……ゲームのことはすっかり忘れていたのだが。
これでゲームがないことがバレるとどうなってしまうことか……。
数分の、しかし慎太郎にとっては無限にも感じる交渉ののち、妹の許しが得られた。
結局次の週末に弟妹を秋葉原に連れて行ってゲームを買い、昼食もご馳走することになった。そしてパソコンは、その設定が出来次第、妹にも遊ばせることが確定した。
妹をいなした慎太郎を待っていたのは二階の自室へのパソコン搬入とセットアップであった。
ダンボール箱を開けた慎太郎の目に入ったのは予想に反して機械ではなく発泡スチロールだった。とにかく中身を全て出して、必要そうな機械やケーブルと梱包材を分ける。
「これだけ厳重に梱包されてるなら安心だ」
机の上に大きな機械とディスプレイを持ち上げ、店でもらった説明書きを見ながらケーブルをつないでいく。どうやらこの大きな四角い機械がパソコンの本体ということで、ディスプレイは文字通り映像を映すだけらしい。
電源は問題ない。パソコン本体から一本、ディスプレイからも一本。机上の電源タップにはスマートフォンの充電器しか繋がっていない、まだ空きがあった。
ディスプレイとパソコン本体を繋ぐときは気をつけるように言われていた。
「これかな」
慎太郎は店でもらった説明書きから該当箇所を探す。
「ケーブルが二種類、差し込み箇所が二箇所?」
とにかく色々な繋ぎ方があるらしいのだ。
自分にわかるだろうか。不安になってきた。
しかし幸いなことに、すでに電源ケーブルを使ったディスプレイの付属品はケーブル一本だけだった。これで選択肢が四つから二つに減ったことになる。
ディスプレイ側の接続口は裏というか下というか挿しにくい場所にあった。ディスプレイを斜めに傾けるようにしながらケーブルの端を確認して挿し込む。平たい台形なので方向を合わせれば問題ないだろう。
さて次は難関のパソコン本体側の接続口だ。たしかに挿さりそうな場所がたくさんある。よくみると平たい台形と角が欠けた長方形がある。角が欠けた長方形は違う差し込み口だろう。
では残りは二つ。どちらもディスプレイ側にあった差し込み口と似ておりケーブルが挿さりそうだ。慎太郎はパソコン本体を動かし、説明書きを持ってきて、両方を見比べる。
「なるほど、上ではなく下の方に挿す?」
説明書きではパソコン本体の上の差し込み口は使わないと書かれていた。
「じゃあ差し込み口を付けないでくれよ」
そうぼやきながら慎太郎はパソコン本体のやや下の方の、しかし先ほど電源ケーブルを挿したよりはやや上の差し込み口にケーブルのもう片方の端を差し込んだ。
続いてキーボードとマウスをパソコン本体に繋ぐ。マウスは会社でも使っているし簡単だ。
そう思ったのが甘かった。パソコン本体の上の方に挿せそうな口が十個くらいある。
「どこに挿せばいいんだ?」慎太郎はやや慌てて説明書きに食いつく。
「どこでもいい……?」そんなことがあるだろうか。先ほどのケーブルのときはこれでもかというほど位置指定があったのに。
挿さるところに挿せとおざなりな説明が書いてあった。力が抜ける。
慎太郎は疲労もあって軽い怒りを覚えながらキーボードとマウスをそれぞれ黒い長方形の差し込み口に挿した。
慎太郎は動かしたパソコン本体とディスプレイの位置を直して電源の入れ方を説明書きから探す。
「さあ、うまくいってくれよ」
なんせボーナスを全額突っ込んだのだ。これで火花を噴いて壊れたりしたら泣き崩れてしまうだろう。
説明書き通りにディスプレイの電源ボタンらしきものを押す。ディスプレイが一瞬光った。
「よし」
次にパソコン本体の上部にあるボタンを押す。何も起こらない。
「え、何か間違えた?」
喉の奥から焦燥感が這い上がってくる。
「いや、落ち着け」
もう一度説明書きを読む。
パソコン本体の後ろ側にもスイッチがあると書いてある。急いで机の横に回り、パソコン本体の後ろを覗き込む。
「これか!」
電源ケーブルを挿したあたりに確かにスイッチらしきものがある。
もう一度パソコン本体をずらしてスイッチを確認する。
「これを『1』の方にする、と」
説明書き通りにスイッチの「0」と「1」を確認し、「1」と書かれた側を押し込む。
パソコン本体の位置を動かすのもこれで何度目か。
もう少しだと自分を鼓舞しながら机の前に回る。
「今度こそ」
半ば願いをこめてパソコン本体上部のボタンを押す。
「プッ」と音がしたような。
ほどなく画面が光りロゴマークのようなものが出る。会社のパソコンとはだいぶ違う気がする。
「ゲーム用のパソコンだから違うのかな」
そんなことを考えていると今度は見覚えのある四つの四角が表示されてアニメーションする。
これはあれだ、名前とかパスワードとか聞かれるやつだ。心が折れた。
「よし、メシ食ってこよ」
ちょうど夕食の時間だ。慎太郎は一度作業を止め休憩することにした。
「これ、電源とか切らない方がいいよな」
これでまた電源が入らなくなったりしては対処できる気がしない。パソコンはそのままにしてリビングに向かうことにした。
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