第4話 「ゲームできますか?」
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しかし先ほどの視界いっぱいのゲーム映像は衝撃だった。
慎太郎はスタッフを避けるように移動した先で思い返す。今持っているポータブル機に加えて他メーカーの機種を買い揃えることを考えると、ゲーム用のPC、ゲーミングPCを一台持つ方がお得なのかもしれない。
昇進のためにはもっと表計算ソフトを使いこなせた方がいいだろうし、今どきは資格を取るにしたってパソコンで勉強した方が有利だろう。慎太郎の脳が急速に理由を生み出しパソコンの所有を正当化し始める。
背筋に力を入れ店内を見渡すと、先ほどのスタッフに話しかける。
「あの、こういうパソコンって値段の差が大きいように思うのですが、何が違うんでしょうか?」
慎太郎は会社のパソコンがちょうど今回のボーナスくらいの価格で購入されているらしい話を聞いたことがあったのだ。会社のパソコンと比べてこの店のものはどれも高すぎる。それで意を決して聞いてみたのだ。
「はい、当店はゲーミングPC専門館となっておりまして、どのPCをお選びいただいても最新のゲームがある程度楽しんでいただけるスペックとなっております」
スタッフが笑顔で、しかし早口で説明を始める。
「一番の特長はグラボ、グラフィックボードですが最新のレイ・トレーシング技術を採用したRTTXシリーズが採用されております。一番ハイエンドですとRTTX 5080、こちらのようなお値打ちの機種でもRTTX 5060を搭載しております。またグラフィックボードに見合う電源や、排熱を考慮したケースも特長となっております!」
やや気圧されながら理解を試みる。正直説明の三分の一もわからないが、ゲーム用の性能が良いパソコンということなのだろう。
「その、会社で使ってるパソコンがたしか15万円くらいなのですが、そういったパソコンとはだいぶ違いますか?」
慎太郎としては最新の3Dゲームをやりたいわけではなく、ただポータブル機より綺麗で大きな画面は良いなと思った程度である。自分のボーナスの金額程度ではパソコンを買えないのだろうか。
「おそらく事務用のラップトップでしょうかね。そういったPCでもこちらの比較表の一番左側のゲームタイトルを低解像度でプレイできるかもしれません」
スタッフが示した先にはゲームタイトルと必要性能の相関をまとめたであろう比較表があった。
打たれた点の位置から、おそらくこの店では「左側」に該当するパソコンは売っていないのだろう。しかし慎太郎にはそれでも十分に思えた。
「初心者ですし、この辺りでもいいかなと思うのですが、そういったパソコンは扱ってないでしょうか?」
表の「左側」を示しながら尋ねてみる。
「そうですね、当館はゲーミングPC特化なのですが、近くに本館がございまして。そちらでしたら事務用やクリエイティブ用など幅広くお取り扱いございます」
スタッフから本館の場所を聞いた慎太郎は早速向かってみる。
本館はほんの数分歩いたところにあった。先ほどのスタッフから教わった売り場に行くと、なるほど確かに慎太郎の予算以下の価格が記された値札も見て取れる。
スタッフは何人かいたが誰も彼も接客中のようだ。通行の邪魔にならないよう店の入口から数歩店内によけ、スタッフの様子を順番に目で追う。
待ち時間というのはなぜか長く感じる、そんなことを自分に言い聞かせていた。すると、視界の隅で大きなヘッドフォンをした女の子がスタッフに深々と頭を下げた。
接客が終わったのだろうか、期待してそちらに顔を向ける。
スタッフは大きめのノートにマジックで何かを書き女の子に差し出す。残念ながらまだ接客は終わっていなかったようだ。ノートを読んだ女の子は顔の前まで手を上げOKサインを作る。
「あ、筆談してるんだ」慎太郎は気づく。先輩がお年寄り相手によくノートで筆談していたのを思い出した。
それから女の子はもう一度深く頭を下げるとスタッフから離れた。今度こそ接客が終わったのだ。慎太郎は急いでそのスタッフに声をかけた。
「あの、先ほど『別館』で教えていただいたのですが、予算15万円でゲームができるパソコンはありますか?」
性能や細かい構成など自分にはわからないことがわかったので、手っ取り早く目的を告げる。
スタッフは持っていたノートを閉じて難しそうな表情を作る。
「ギリギリですね、正直20万円はあった方が……」
こっちでも売っていないのか。慎太郎は残念に感じ、パソコン一台買えないボーナスしかもらえない自分を恥じた。
スタッフはそんな慎太郎の様子を気にも止めず言葉を続けた。
「リファブリッシュ品はいかがですか?要は中古品なんですが、うちで整備してますし三ヶ月ですけど保証もつきますよ」
聞き慣れないが……、しかしフリマアプリで見知らぬ人の中古を譲ってもらうわけではない、秋葉原の店で売っている中古なら大丈夫だろう。
「ゲームできますか?」
スタッフが質問に質問で答える。
「えっと、何をプレイされたいですか?最新の3DゲームやVRゲームは正直おすすめしないです」
会社の研修で「質問に質問で返すな」と怒られたことを思い出し不満を感じながらも、それを指摘する場ではないと思い直すと率直に答える。
「これっていうのはないんですけど、あ、そうだ配信でみた『ファースト・エタニティー・テン』っていうゲームできますか?たぶんシリーズの古いタイトルがパソコンに移植されたやつだと思うんですけど」
興味を持ちつつ、慎太郎のポータブル機には移植されていないタイトルを挙げる。
「ああ、Spark版のFEXですね。はい、あれくらいなら快適に遊べると思います」
なんだ、自分にとっては十分だ。
「じゃあ、これにします!他に何か必要ですか?」
先ほどの別館のスタッフはディスプレイとか何とかデバイスとか言っていた、きっと必要なものがあるのだろう。
「えっと、お客様は今どのような周辺機器をお持ちでしょうか?」
また質問に質問で返されたことに軽く呆れながらも答える。
「シュウヘンキキ?たぶん何もないです」
「なるほど、そうすると、まずディスプレイ、それからキーボードとマウス、あとはゲームパッドや左手デバイスなんかも使われる方多いですね。あ、左手デバイスはFEXだといらないかもしれないですけど」
だんだんこのスタッフのタイプが分かってきた。
「最低限どれが必要ですか?」
遠慮や配慮を捨ててはっきり聞く。
「ディスプレイ、キーボード、マウスです!あ、インターネットは……」
「ポータブル機で遊んでるんでネット繋がってます。それ使えますか?」
実家でインターネット契約をしておりポータブル機やテレビでは使えている。
「Wi-Fiはありそうですね、もし有線LANが無い場合は別途Wi-Fiアダプタ必要ですね」
有線ランとは、慎太郎はすぐに思い当たった。会社のパソコンでケーブルをさすあれのことだ。
「……ないかもしれないです」
家ではあのケーブルをみたことがない。
「じゃあパソコンとディスプレイ、キーボード、マウス、そのワイファイアダプタをください」
インターネットが繋がらなければ何のゲームもできない、慎太郎にもそれは分かった。
「15万円で収まるか選んでみますね、ディスプレイはウルトラワイド等は難しいかと、少し小さいサイズになるかもしれません。あとキーボードの配列は……」
「小さくてもいいです!使えるやつお願いします!」
細かく選べることはこれでもかというほど分かったが、それは猫に小判ならぬ慎太郎に詳細スペックだ。何でもいいから使えるパソコンがほしかった。
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