第3話 「す、すみません。予算オーバーで……」
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せっかく遠出したのだから、と慎太郎は目的の店に向かいつつも、秋葉原を楽しむように気の向くまま寄り道しながら歩いていた。
しかし本当に人が多い。この辺りは車も通れるはずだが波のように押し寄せる人々が車道を塞いでいた。ここを運転することにならなくて本当によかった。
大通りを渡って反対側に行くと地図で見つけた一軒目の店があるはずだ。
スマートフォンを取り出してロックを解除すると、チラ見するように開いたままの地図アプリを確かめる。一本裏の通りらしい。
大通りから裏に行こうと角を曲がると、そこでは道の両側にメイドさんが立っていた。慎太郎は思わず歩みを止めて見てしまう。
そんな様子の慎太郎はメイドさんたちにターゲットと思われたようだ。口々に「メイド喫茶です」と声をかけられる。挙動不審になってしまうのでやめてほしい、こんなだから高校時代も彼女ができなかったのだ。
メイド喫茶に行ったことが妹にバレたらからかわれるのは必至だ。
目を伏せるようにして通りを抜けた慎太郎は、もう一度角を曲がるとメイドさんの列が見えないことに安堵した。しかしメイドさんに混じって軍服を着た女の子などもいた。あれはなんだったのだろう。
改めてスマートフォンで店の位置を確認し前を向く。その慎太郎の目にゲームキャラクターの描かれた旗が飛び込んできた。
「First Eternity」とゲームのタイトルも書かれている。慎太郎でも知っている超人気タイトルの最新作だろう。ゲームの専門店だろうか。
旗に惹かれて店内に入った慎太郎を出迎えたのは、入り口前に展示されていた大画面とパソコンデスクだった。横に広すぎるほど広い画面には、美麗とはこれのことだというほど精緻な、ゲームのプレイ画面が映っていた。
「こんな大画面でゲームできると圧巻だな」
慎太郎も妹が振り回していたポータブルゲーム機で — そもそも慎太郎のものであるし — 遊んだことはよくあり、あれはあれで楽しいものだった。特にコントローラーが二つ付いており、一台で二人対戦や協力プレイをできるのは秀逸だ。
しかし目の前に映し出されたそれは、映画の迫力を超えているようにさえ感じられた。
「もしよろしければ座ってみられませんか?」
画面に見入っているとスタッフに話しかけられた。勧められるままスタッフが引いてくれた椅子に腰掛ける。椅子は慎太郎を包み込むような形をしている。ゲーミングチェアというやつだろうか。
「はい、えっと、どうやって操作すれば……」
仕事でもパソコンは使うが、慎太郎がするのはせいぜいメールの返信や、先輩から渡された表計算のファイルを開いて決められた場所に数字を入力する程度の操作である。
パソコンでゲームをやったことがない慎太郎は何をすればいいのかわからない。コントローラーはないのだろうか。
スタッフはそんな慎太郎になんでもないというように声をかける。
「ああ、これはベンチマークですので。特に操作いただかなくても大丈夫です」
説明の全てを理解できたわけではないながらも、何も操作しなくても良いことが理解できた慎太郎は、そのままゲームの映像に見とれる。
「いかがでしょう?もし初めてのゲーミングPCでしたら、こちら本体とディスプレイ、キーボード、マウス、それに今でしたらこちらの左手デバイスも込みの大変おすすめなセットとなっております!」
ここぞとばかりにスタッフが慎太郎にゲーム用のパソコンをお勧めしてきた。
たしかにゲーム用のパソコン — ゲーミングPCというらしい — もいいかもしれない。
初ボーナスはまるまる口座に入っているし、平日休みの仕事に就いてしまったので友人と遊びの予定も合わず、ゲームばかりしている。
そう思いながら値札を確認すると価格は約45万円、初ボーナスの三倍近い。
「す、すみません。予算オーバーで……」
衝撃と恥ずかしさで声を小さくしながら慎太郎はスタッフに告げる。
「たしかにこちらはフラッグシップですからね。左手デバイスなしでディスプレイが16:9の小さめのものですともう少しお求めやすい価格ですよ」
特に驚いた様子もなくスタッフがそう返す。予算オーバーは織り込み済みか。ジュウロクタイキューというのは分からないがもう少し小型なのだろう。
「その、今日はパソコンを買おうとまでは考えていなくて……。少し見て回ってもいいですか?」
慎太郎はどうにかそう言ってゲーミングチェアから立ち上がる。スタッフは深追いせずに「どうぞご覧ください」と解放してくれた。
家族で地元の電器店に行ったときはスタッフが頻繁に声をかけてきて辟易したものだ。
特に妹が最新のスマートフォンに近づいたときは、ここぞとばかりに家族割引の説明を受けたものだ。おそらく妹や慎太郎を陥落させ、両親に家族契約を勧めるつもりだったのだろう。
それに比べれば都会の接客はドライで助かる。
息を整えながら慎太郎はなんとなく店内右手に向かう。入店当初よりは心が落ち着いてきたのだろう。展示されているパソコンやその値札が見て取れるようになっていた。
スマートフォンを取り出し銀行アプリを開く。取引履歴のボタンを押して確認すると、振り込まれた金額は約15万円、それが慎太郎が得た初ボーナスだった。
まだ先輩について回って研修を受けている身としてはボーナスをもらえるだけありがたいのだと思うが……。どのパソコンも慎太郎のボーナスで買える金額ではなかった。
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