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ぶいちゃ!  作者: 藍雨ゼラ / 松木秀憲 / emu-v
第2章 ビジターさん?

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第9話 「ああ、趣味なんだ」

※本作は執筆ストック50,000字以上を確保しており、毎日安定して更新いたします。

チュートリアルワールドを壁伝いに半周したところで壁の説明書きがなくなった。

さてどうしようとシンタが周りに目を向けると、ワールドの壁に向かって数人集まっている。何かあるのだろうか。


このゲーム世界での初めての「人」にシンタの指が汗ばんだ気がした。

少し鼓動が上がる。もともとは決して人が怖いわけではない、しかし家族以外に接した人間といえば、ここ二、三年は仕事関係ばかりだ。

客とも上司とも良い思い出がない。


いやしかし、人と話せるからこの「Verse Chat」を始めたのだ。

「それに……」

ゲーム内でのコミュニケーションなのだ、利害関係のないフラットな人間関係のはずだ。


そう思い直すとシンタは彼らに近づき、まずは挨拶だろうと声をかける。

「……こんにちは!」

まだ午前中だが「おはようございます」と言うには遅い時間に思えた。


「こんにちは〜」ぱらぱらと二人ほど挨拶を返してくれる。

『おはようございます』一人の頭上に文字が表示された。テキストチャットのウィンドウだろう。

そうか、声を出さなくてもテキストチャットで会話する人もいるんだな。シンタにとっては新鮮な感覚だった。


最初に挨拶を返してくれた人は、随分と整った姿をしていた。

一言でいうと「和装の好青年」なのだが、ふわりと柔らかそうな髪とにこやかな表情がいかにも優しそうだ。

かけたメガネが知的な雰囲気を醸し出している。服装は、大正モダンというのだろうか、着物を纏っているが靴を履いている。


彼はシンタの頭上に目をやり話しかけてくれた。

「Visitorさん?」

どういう意味だろう。自分が果たしてその「ビジター」に該当するのかわからない。

「ビジターってなんですか?」シンタは言葉の意味がわからず思わず質問返ししてしまう。


「失礼、始めたばかりだよね?」その人は気を悪くした様子もなく質問を変えてくれた。

「はい、昨日始めました!」シンタは素直に答え、続ける。

「だけど、何すればいいのかわからなくて、昨日は最初の空間、なんか青いサイバーなところに行っただけで終わっちゃったんですけど……」


今時点でも何をするゲームかわかっていない。

その人は笑い含みに「初日あるあるだね」と言うと、続けて聞いてきた。

「このワールドはどうやって知ったの?」


シンタ、慎太郎はスマートフォンに一瞬目をやって答える。

「動画アプリで調べたら『ここに行くといいよ』って紹介してる動画があって……」

その人は頷く。

「今は紹介動画が結構あるよね。……分かりやすかった?」


シンタとしては分かりやすいどころか、この動画がなければこのゲームを初日で辞めていたかもしれない。

「はい!」

自分で思った以上に張った声がでた。


その人は軽く頷き、シンタにとっては思わぬ提案をしてくれた。

「もし良ければだけど、このゲーム『Verse Chat』について説明しようか?約束があるから少し急ぎにはなってしまうけど」

なぜそんなことをしてくれるのだろう?訝しむ気持ちもあるがありがたい申し出だった。

「え、いいんですか?なんでまた……」

シンタの懸念を払拭するようにその人は言葉を重ねる。


「ああ、趣味なんだ。初心者さんを案内するのが。ぼくみたいに初心者さんを見つけて案内してる人は結構いるよ」

そうなのか。ありがたいが変わった趣味だ。しかも「案内人」はこの人だけじゃないらしい。

「え、と。じゃあお言葉に甘えて」

ゲーム内だし危ないこともないだろう。シンタはありがたく案内人の趣味に乗っかることにする。


案内人が壁の方に手を向けて聞く。

「あの辺り、一階の壁の説明書きは読んだ?」

まさに先ほどシンタが回ってきた辺りだ。

「はい!ついさっき一通り読んだところです」


案内人は「すばらしい」と頷きながら褒めてくれる。

こんなことで褒めてもらえるなんて、会社で最後に褒めてもらったのはいつのことだったか……少なくとも今年は褒めてもらえていない。


「他のゲームはやったことある?」と案内人が次の質問をする。

「はい!ちょうどこれを始める前にSpark版のFEXをクリアしたところです」


案内人は「名作だよね」とこちらも頷きながら言ってくれる。どうやら案内人もFEXをやったことがあるらしい。それだけで少し親近感が湧く。

それにしてもなんというかすごく共感してくれる人だ、少し照れるようなむず痒い気持ちになる。


「じゃあ移動とかメニュー選択みたいなゲーム一般の操作は大丈夫だね、ここまで来れてるわけだし」と案内人は言う。シンタへの確認だろうか。

「はい、移動とワールドを検索してここに来るのはできました!」シンタは素直に自分がやったことを伝えた。


「じゃあ、ゲームとしての操作はある程度慣れているとして、こういう人と交流する系のゲームについて説明するね」

まさにシンタが慣れない部分を説明してくれるらしい。大変ありがたい。


それから案内人は断りを入れる。

「知ってることを説明しちゃうと思うけど、そこは許してね」

彼はシンタのゲームに関する経験を測っていたようだ。それにしても腰が低い。


「はい、お願いします!」

シンタの心から怪しむ気持ちが薄れ、代わりに動画を探していた時のようなこのゲームをもっと知りたい気持ちが湧いてきていた。


案内人は続ける。

「『Verse Chat』、みんな『ぶいちゃ』って略すけど、ぶいちゃはゲームっていうよりSNSとかプラットフォームに近いんだよね」

シンタの反応をみるようにして案内人はさらに言葉を繋ぐ。

「だから誰と何をするかはその人次第、最初に『何をすればいいのか……』って思うのはごもっともだよ」


なるほど、「プラットフォーム」という言葉にシンタは思い当たるものがあった。

「Verse Chat」、「ぶいちゃ」自体がプラットフォームなら動画で見た様々な遊び方 — FPSや釣り、麻雀などなど — もたしかに可能なのかもしれない。

シンタは案内してもらうのが楽しみになった。


【読んでくださったあなたへ】

お読みいただきありがとうございます!

本作は毎日19時頃に更新していきます。


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