動き始めた存在
「ふっふふのふ~!」
「モニターの前で鼻歌を歌うな」
「ええ~~。いいじゃないですか~」
彼の言葉に耳を傾けない。
彼も彼でその後は何も言わずほっておいた。言っても意味がないことを解っていた。
彼の言葉を流した白衣の男は鼻歌を再開してモニターを眺め続ける。
「しかし、なぜに〝そいつ〟にこだわる」
「おや~。あなたでも気になることがあるのですか~」
「俺にだってある」
珍しい彼の言葉に白衣の男は驚いた。それほど珍しいことであった。
「そうですね~。質問に答えられるかどうか微妙なのですが~。我らのリーダーの言葉を借りると彼は〝最高の逸材〟〝最高の素材〟だ。と言うことです~」
「それほどの者なのか」
信じられないといった表情でモニターに映る〝少年〟を見る。
「確かに一瞬の爆発力、魔力は高い。潜在能力も確かに理解できる」
それでも理解できない。
「そうですね~。私も同じですよ~。しかし、あの人の話ですと〝あれ〟が重要のようですよ~」
白衣の男もモニターに映る少年を見る。
「そのために〝そいつ〟を解き放つのか」
視線の先には人一人が入れる試験管に入っている存在がおとなしく眠っている。
試験管は胎児を守る羊水のように液体で満たされていた。
「まさか、早速これが使われるとは思いませんでした」
「あの方が御指名のあの少年は果たしてどのように動くのか…はたまた…そいつに…」
最後まで言わず彼は部屋を出た。
一人となった白衣の男はいくつかのボタンを押したりしていく。
「楽しみですね~。彼が一体どんな風に〝これ〟によって苦しまされるのか」
そして、起動と書かれたボタンを押した。
押された瞬間。試験管を満たしていた液体がなくなっていった。
そして、試験管に入っていた存在は眠りから覚め、その眼光を不気味に光らせたのだった。
「ねえ、ねえ。この事件知ってる?」
早苗が休憩がてらにウィンドウに一つの記事を出した。
「えっと。〝謎の襲撃。再び!〟なんですか。これ」
「前みたいな襲撃事件がまた発生したの。しかも前のよりたちが悪いわ」
「と言いますと?」
「その襲撃してくる生物。毒を出すのよ」
「毒ですか」
『毒とは厄介ですね』
シャイニーも話しに加わってきた。
その内容に興味を持ったらしい。
「そう。噛みつくと同時に毒を相手の体内に注入しているらしいの」
「どうして噛みつくとわかったんですか」
「その記事に書いてあるように襲撃を受けた人達の体には噛みつかれた痕が残っていたの。それに歯形のあった部分に多く毒の濃度があったの」
「なるほど。それでその毒は」
「大丈夫。致死性のあるものじゃないらしいは、今のところは」
「今のところは、というと」
『毒の効能が上がっているということですか』
シャイニーの言葉に早苗は頷いた。
重い空気が道場を包む。
「特に光君。君は特に気をつけた方がいいわ」
早苗の言葉に光は大丈夫です、と言えなかった。
この前の謎の怪物の一件。
最後に襲った標的が光だった。
今回も光を狙う可能性があると早苗は睨んでいた。
「いい。いくらシャイニーちゃんが居て、魔力に目覚めたとはいえ、光君は学生なんだから。油断しては駄目よ」
先輩である早苗の忠告に光は頷くのであった。
とある場所。
「う、うわあああああぁぁぁぁ!!!」
男が悲鳴をあげる。
そんな男にゆっくりと迫る影。
男は恐怖で動けずにいる。
そして、影は男へと覆い被さった。
男はこれまで以上に叫び声をあげた。
謎の襲撃。これで十件を越える。
被害が拡大する一方であった。




