009 ペガサス
綺麗!
吸い込まれそうな透明な空色の中に真っ白な羽のある馬が浮かんでいる。
あれ、なんで。
後ろを振り返ってみると、違いがはっきり分かった。
昨夜はもう薄暗かったので気がつかなかった。
密林が終わっていた。
ペガサスの後ろには、穏やかな森が広がっていたのだ。
「エニシもあいつを知っているようだな」
「ええ、よく知っているわ。あれはペガサス。日本の小説にも登場する有名な神獣よ」
「真色眼は何色だ」
「ああ、そうか。神話に出てくるペガサスなら結構気性が荒いのよね」
「真色眼 対象『ペガサス』」
あれ、色が無い。
「ゼウス、色が無いわ」
「それは、敵か味方かをまだ決めていないという事だ」
そうなんだ。
「ゼウス、敵に回したら厄介な相手よ。慎重に行きましょう」
「賛成だ」
言葉は通じるのかしら。
大きさは、普通の競走馬ね。筋肉の付き方がそっくりよ。毛の色は真っ白。とてもきれい。羽は鷲みたいに大きい。体の二倍はあるわ。
羽ばたいていないのに空に止まっている。どういう魔法なのかしら。おっと、ここは異世界よ。何でもありよ。
あ、降りてきた。
ペガサスがゆっくり舞い降りてきたの。大きな白い羽がゆっくり羽ばたいている。地面に音もなく降り立った。羽は大きく開いたまま。警戒しているのね。
じっとこちらを見ている。
きれいな目。馬って、優しいきれいな瞳なのよね。
とにかく話しかけてみるしか無いわね。
「こんにちは わたしはエニシよ」
あれ、びっくりしてるわ。言葉が通じているってことかしら。
「なぜ古代エルフ語が話せる。あなたはエルフなのか」
え、話せないわよ。わたしは日本語オンリー浮気はしないわ。
「ゼウス、どういうことかしら」
「たぶん、多言語翻訳君の影響だ。相手が一番なじみのある言語に自動翻訳してしまう」
え、それって場合によってはトラブルになりそうね。要検討よ。
「わたしはエルフではないの。人間よ。でも、言葉が通じるのね。よかった。あなたと話がしたいの。いいかしら」
「その前に確認したい。あなたは探求者か」
「ええそうよ。『旅の探求者』よ」
「やはりそうか、そこにいる猫は神獣だな。名を名乗れ」
「はい、私は『ローゼオエピカリス・アルモティア』旅の神獣です」
「そうか、探求者と出会えたのか。よかったな」
「あなたは私を知っているのですか」
「ああ、長い旅をしていた事を知っている」
「……見ていてくれたのですね。上位者様、ありがとうございます」
あれ、ペガサスが足を畳んで地面にお腹をつけた。どうしたのかしら。
「あなた様は、私の上位者様ですね」
え、ゼウスに頭を下げている。
「よく分かったな、第三権限の神獣よ」
「はい、あの方と同じ力を感じます」
「うむ、私は『ゼウスミルギア・テオス・ミューレーテタルトン』第四権限の神だ」
「お目にかかれて光栄です。わたしは『ゼフィリア・テオ・ヴェイラス』です。南の世界樹をお守りする神獣であり、その意志でもあります」
「南の世界樹は目覚めているのか」
「いえ、まだです。もう数万年眠ったままです」
「やはりそうだったか。情報根網に反応が無かったからな。そうではないかと思っていた」
「ちょっと、ゼウス。わたしを仲間はずれにしないでよ。どういうこと、ちゃんと説明しなさい」
「なんだ、知りたいのか。ならば、直接行ってから説明した方が話が早い」
なによ、もったいぶって。でも、確かにその通りかも。
「いいわ、その提案肯定よ」
さて、もう少しミドリちゃんに頑張ってもらうとしますか。
ん、ペガサスが起き上がった。うわ、近くで見ると大きい。羽を広げると5メートルぐらいありそうね。
「ゼウス様、もしよろしければ、私が南の世界樹の所まで案内できますがどうされますか」
「場所はエニシが分かる。問題ない。だが、もしおまえの背中に我々を乗せて運ぶことができるというならばお願いしたい」
「わかりました。本来ならば人族を乗せるなどあり得ないのですが、古代エルフ語を話せるお方ならば歓迎します。それと、この場所でも問題なく過ごせているので大丈夫だとは思いますが、世界樹がいる場所の魔素はかなり高濃度です。だいじょうぶでしょうか」
「我々は神だ。問題ない」
え、私も神様なの。あ、そうか、その方が都合がいいのね。わかったわ。
「ええ、神の体には何の影響もないのよ」
「わかりました。ではそのシルフェリ蔦の箱ごとお運びします」
ミドリちゃんよ! でも、ペガサス相手に言っても仕方ないわね。それと、この蔦『シルフェリ蔦』と言う名前なんだ。
すべすべしていて扱いやすい、いい蔦なのよね。わたしは無限に収納できるらしいから、たくさん確保しておきましょう。いつか使えると思うのよね。
「うむ、許可する」
「ロゼ、跳び乗れ」
「わかりました」
ミドリちゃんが猫ジャンプしたの。しなやかにすっと静かに跳び乗ったわ。
ペガサスが大きな羽を2回羽ばたかせたの。そうしたら、スーッと浮かび上がった。スカイツリーの高速エレベーターみたいに静かに凄いスピードで舞い上がったわ。
そのまま、今度は新幹線よ。揺れなんてない。景色が後にどんどん流れていく。グリーン車の旅みたい。
50キロメートルの距離を数十分で走ったわ。あ、飛行したの方がしっくりくるわね。
ペガサスがピタって止まるけど、車みたいにガクンとならない。不思議。ああ、そう言えば、出発するときもそうだった。どういう仕組みなのかしら。さすが異世界ね。
下を見ると、森にある木の数倍は大きな立派な樹木が見える。あれが南の世界樹なのね。
私の世界樹のイメージとはかなり違う。何て言うか普通の大きな木って言う感じよ。
「着きました。南の世界樹様が眠る聖域です。神装結界は既に解除されています」
「着地します」
ペガサスがゆっくりと降下していく。ここでも着地のガタンていう感じはない。高速エレベーターが止まった時みたいな静かな着地よ。
「南の世界樹様はまだ眠っています。私は、数十万年、ここでこの方を守ってきました」
ぐすっ、なによ、こいついいやつじゃない。
「うむ、立派である。第四権限の仲間として感謝する」
「もったいないお言葉です。でも、嬉しいです」
あ、泣いている。美しく優しい瞳から真珠のような涙が流れている。きれい。
「ゼウス様、この後の予定はどうなっているのでしょうか」
「それは、エニシに聞いてくれ」
え、わたしなの。ああ、確かにそうね。蔦を探しているのは私だったわ。
「数万年使っても壊れない丈夫な蔦を探しているの。この辺にあるはずなのよ。山葡萄の蔦よ」
ん、ペガサスが南の世界樹の方を見たわ。
「それでしたら、たぶん『ハグ=ヴァイン』の事です。そして、それは今、南の世界樹様に巻き付いています。正直迷惑しているんです。処分してもらえるならありがたいです」
なんと、迷惑蔦でしたか。でもラッキー、山葡萄の蔦は勝手に切ると怒られるのよね。その葡萄でジャムを作りたい人が結構いるのよ。
ふふふ、そういうことなら遠慮なくいただいていくわ。
「ゼウス、迷惑蔦よ。取り放題よ!」
「嬉しそうだな」
「ええ、こういう機会はめったにないのよ。環境破壊になるからいつも気を使ってとっていたのよね」
「……ここは異世界だぞ。もともと気にしなくてもいい気がするぞ」
「だめよ、異世界だろうが地球だろうが、環境は大事なはずよ。生態系は守らなければいけないの」
「ほう、以外だな。誰の受け売りだ」
「もちろん、天才君がいつも言っていた事よ」
「ああ、あの基礎研究者か。なるほど、納得だ」
さて、それならば早速作業を始めましょうか。
その時なの。バチバチって火花が散ったの。
「(我の眠りを妨げる大きな力よ。名を名乗れ!)」
バチバチッていう火花が南の世界樹から出ているの。そして、なぜか言葉が頭の中に響いてくる。
これ知っている。ゼウスと同じ思念感情波よ。
いったい何が起こっているの。教えてゼウス。
次話投稿は明日の7時10分になります




