006 ロゼの能力
わたしがいる場所は、地球ならアマゾンね。といっても、実際に行ったことがないから正確には分からないけど。
でも、てっぺんが見えない大きな木が所々に立っていて、葉っぱや蔦がクリスマスのイルミネーションみたいに垂れ下がっているの。
カラフルな蝶や虫たちが日の光を反射しながらうようよ飛んでいる。
派手な蛍光色の爬虫類や昆虫がたくさん蔦に取り付いていて、それがキラキラ輝いている。
とてもきれい。
でも、どう見ても毒持ちよ。見るだけね。
昆虫は、なぜか日本でよく見るコガネムシやクワガタの形をしている。真色眼で確かめると同じ名前よ。
ゼウスが言うには、本当の名前は違うらしい。わたしに分かる名前で説明してくれる。
天才君の考えることはやっぱり違う。これなら異世界でも全く問題なく生活できそうよ。
「さてゼウス、ずいぶん自信たっぷりね。お手並み拝見よ」
ふん、どうせロゼが大きくなって背中にまたがれってやつよ。でも、それはそれで嬉しいかも。
ロゼの背中、モフモフ、うー、考えただけでワクワクする。
ん、ロゼが起きたわね。さあ、大きくなりなさい。ゴールデン・レトリバー位の大きさがベストよ。
ん、変ね、なにやらゼウスと話している。
「エニシ様」
「ロゼ、堅いわよ。エニシね」
「はい、エニシ、ゼウス様がおっしゃるには、私はエニシが作った物なら自分の意志でそれを動かすことができるらしいです」
「ん、どういうことかな」
「(エニシ、試しに土で人形でも作ってみろ)」
く、杖のくせに偉そうね。まあいいわ。おもしろそうだから許してあげる。
「泥人形ね。小さいときよく作ったわ……あいつらを呪うためにね……」
えーと、この土、粘土みたいね。人だと面倒だから蛇でいいでしょう。
よく伸ばして、口を開く。よしできた。
「(……それでいいのか。苦手じゃないのか)」
「いいのよ、簡単だから」
「(ならいい、ロゼ、魂入れをして見ろ『宿魂術だ)』」
「わかりました」
ロゼがお行儀よくエジプト座りで軽く会釈をする。うーん、かっこいい。でも、相手は上位者といってもただの杖よ、もっと雑に扱ってもいいのよ。
エジプト座りからすっと立ち上がり二足立ちになった。そして、招き猫のように前足をクイッとしたの。
『宿魂』」
うわ、何、土の蛇が本物の蛇みたいに動き出した。ゾクッとした。
「ゼウス、ごめん。言っていた意味が分かったわ。気持ち悪いからやめて」
「(わかったか、なら何か乗り物をここら辺にある物を使って作ってみろ。取りあえずそれで間に合わせよう)」
「わかった」
さて、何があるのかしら。
辺りを見回す。木と草しかない。
一番簡単なのはリヤカーみたいな荷車ね。それなら木で作れるわ。わたしの神装結界の日本刀なら豆腐を切るみたいにスライスできる。
釘はない。なら縛るしかない。
紐になりそうなものを探す。
あった。蔦だ。
手を伸ばす……途中でやめた。
一応確認よ。わたしは用心深いの。
「真色眼 対象あそこの蔦」
うん、青色。えーと名前は……
『 』
空白だった。きっと、まだ正式な名前がついていないんだわ。
でも毒はない使える。
あれ、これって、籐細工に使うやつに似ている。
まって、考えるのよ。わたしは応用力だけはあるんだから。
土の蛇が動いた。なら、蔦で作った動物も動くはず。
籐を使った動物クラフトはやったことがある。
作ったのはラタン編みのペットハウス。もちろん猫耳をつけたわ。
あれの応用よ。胴体はあれでいい。後は足と手としっぽをつければ猫になる。
蔦を触ってみる。うん柔らかい。
引っ張ってみる。簡単には切れない。
いけるわ!
編むのは上手なのよ。凝らなくていい。だいたいの形でいい。
大きさもわたしとロゼが乗れればいい。そうね、大きなタライぐらいでいいわ。ゼウスはどこかに立てかけておけばいいから楽ね。
蔦はロゼが運んできてくれる。
わたしは編むだけ。
* * * * *
できた。
ふふ、アニメで見た猫のバスに似ているけどこっちは4本足よ。まあ、猫車でいいわ。
「ゼウス、できたけど、きっと人が乗れる丈夫さはないわよ。どうするのよ」
「(ふん、神装結界があるだろう。それで強化しろ)」
く、本当に偉そうね。でも、なるほどだわ。
「神装結界、猫車を包むイメージで発動」
紅色の膜が、猫車を包んだの。凄く丈夫で私が乗ってもびくともしない。
猫のように四つ足でそろりと乗り込む。
中で丸くなってみた。うん、気持ちいい。
乗り心地もまずまずよ。上出来だわ。
「(ロゼ、宿魂術だ)」
「わかりました。『宿魂』」
ロゼがまた二足立ちで前足をクイッとしたの。かわいい。
すごい。私が作った猫車が、本当の猫みたいに走り出した。
ロゼは猫車の丸い穴の前でエジプト座りよ。かっこいい。
「快適ね。これなら目的地まで簡単に辿り着ける」
* * * * *
考えが甘かったわ。前言撤回。
密林を甘く見ていた……。
そして、猫の習性も!
「ロゼ 何とかならないの」
「ダメです。私の意志よりも猫としての本能の方が強く出ています」
猫車が全く動かない。それはなぜか。
「うーん、猫の本能なら仕方ないわ。起きるまでゆっくり待ちましょう」
猫車はただいまお昼寝中。香箱座りで前足を一本投げだしてすやすや眠っているの。
かわいい!
蔦でできた緑色の猫よ。所々に葉っぱが付いていてそれがダブルコートの上毛みたいなの。
でもね、そんなにのんきに寝ていられる状況でもないのよね。
「ゼウス 赤が点滅している。かなり強い魔物が周りに集まってきているわ。何とかしなさい」
「(丁度いいじゃないか。ロゼと一緒に戦ってみろ。今のエニシなら簡単に追い払えるはずだぞ)」
なによ、それって褒めているの。
やっぱり顔が必要ね。人の気持ちはね、顔と目に出るものなの。
「わかったわよ。猫ちゃんのお昼寝を邪魔するやつはみんな敵よ。ロゼ、一緒にお仕置きしましょう」
「わかりました」
確かにゼウスの言う通りね。ロゼがどのぐらい強いのかを確かめておいた方がいいわ。
「ロゼ、まずはあなたが行きなさい。私は後からついていく。あぶなくなったら下がって。私の側ならやばくなったら結界が自動で出てくるの」
「あの程度ならたぶん大丈夫です」
え、真色眼では赤の点滅がけっこう早いのよ。つまり、あぶないやつだって事なの。
ロゼの言っていることは本当だった。
ロゼが消えたの。いえ、そう見えただけ。凄い速さで爪を立てた4本の足で大木を駆け上がっていった。
そこから、木の枝を伝わりながら魔物の真上に移動する。
魔物の名前は『フォレスト・ウルフ』これが出るということは、この世界の住人がよく知っている魔物という事。
ゆっくりだった点滅が早くなった理由は数が増えたからね。一匹ならたいした事が無いけど、群れになると脅威度が上がる。うん、それぐらいならわたしでも分かる。
「ロゼ、すごい。狼は登れないからロゼのいる木に群がって爪を立てるだけ。でもロゼは次から次に別の木に移るの。だから、狼の群れが分断されていく」
あの数ならわたしでも戦えるわね。
「わたし、時代劇は好きだったのよ。あの意地悪兄弟をいつかコテンパンにするために密かに剣の練習をしていたんだから」
「神装力ミニ開放 神装結界『日本刀』発動」
ふふ、正確な詠唱なんか覚えていられないわ。その時の雰囲気でいいのよ。天才君の考えた能力ですもの、臨機応変に使えるに決まっている。
「さあ、意地悪するやつにはお仕置きが必要よ」
大木を切り倒して狼がいる方向にドシーンとしてやった。
キャンキャン鳴きながらしっぽを丸めて逃げていった。
「エニシ、お見事です」
「ロゼが分断してくれたからよ。ありがとう」
「はい」
ふふ、しっぽがビュンビュンよ。ご機嫌ね。
さて、確か、猫は一日16時間は寝るのよね。当分起きそうもないわね。
まあいいわ、ゆっくり旅ですもの。
ゼウスに結界張ってもらって、わたし達もお昼寝しましょう。
次話投稿は明日の7時10分になります




