004 えにし・かなえ
森は日本と変わらないの。生えている草や木も似た感じ。もともと草や木の名前なんて考えた事ない。みんなまとめて植物よ。
草を見ていたら急にお腹がすいてきた。
そう言えば、ここに来てから何も食べていない。
変ね、普通なら力尽きてへたり込んでいるはずよ。
「ゼウス、わたしお腹がすいた」
「(食事か、生物は面倒だな)」
うるさいわね。でも杖は確かに食べないわね。
「杖は食事をしないの?」
「(魔素を取り込んでいる。エニシだってそうなんだぞ)」
ん、何か変なことを言い出したわね。
「どういうことかなぁ~」
「(神力は魔素を取り込んで、そのまま直接エネルギーにできるぞ)」
なにそれ、光合成みたいだけど、ちょと違う気もするわね。わたし、覚えるのは苦手だったけど何かが違うって言うのは直感で分かるのよね。
でも、今はこれでいい。
「食べなくても生きていけるってことなの」
「(そう言っているぞ)」
むかー。杖のくせに生意気よ。
「人は食べることが楽しみな生き物なの。ゼウスだって、しゃべれるんだからもう人よ。食べることも楽しみなさい」
「(杖だぞ、どうやって食べるんだ)」
「神様みたいなもんなんでしょう。自分で何とかしなさいよ」
「(……そうか、わかった。検討課題として情報を保存しておこう)」
この杖、ときどき難しい言葉を使うのよね。あの基礎研究者に似ているわ。
「で、食べる物ってどうやって見つければいいの」
「(真色眼で、食べられる植物を見つければいいだろ)」
へー、この力、そんなこともできるんだ。
「わかった。真色眼 食べられるもの見つけなさい。発動!」
おお、適当に言ったのにちゃんと仕事をしてくれる。優秀ね。けっこうあるわね。ん、赤いのはきっと毒ね。それかすごくまずいのよ。
「これ、りんごに似ているわね。味は……ぺっ、にがー」
青でも油断できないわ。
「これはイチジクみたいね。うん、甘い。これなら食べられる」
入れ物が欲しいわね。
「ゼウス。何か入れられる物持っていない」
「(次元収納すればいいだろう)」
ん、何のこと?
「なにそれ?」
「(これを収納したの見ただろう)」
大きな物がドデーンと出てきたの。
昨日作ったお風呂ね。そう言えば目の前で消えてたわ。異世界だからそんなものかと気にしなかったのよね。
「わたしにもできるの」
「(イメージだ。収納したいと思えばできる)」
「わかった。イチジクを収納したい」
うそ、消えたわ。
「消えちゃったじゃない。どうやって取り出すのよ」
「(おまえはアホだろう)」
く、そうよ、アホよ。悪い!
「どうやるのよ」
「(さっきの逆。イチジクを出したいとイメージするだけだ)」
う、確かに。わたしアホだわ。
「イチジクよ出てこーい」
出てきた。これ、便利ね。どのぐらい収納できるのかしら。
「スーツケースぐらいは収納できるのかな」
「(エニシやおれの場合は無限だな。まあ、神力が続く限りだが。それと、この収納には時間停止機能が備わっているぞ)」
「なにそれ?」
「(収納した物は時間が停止する。つまり、熱いものは冷めない。傷みやすい生ものは鮮度がそのまま保たれるということだ)」
冷凍したのと同じかな。
「つまり、冷凍庫と魔法瓶ね」
「(それでいい)」
なんか、呆れられたような気がするけどまあいいわ。
その時なの、猫の鳴き声が聞こえたの。
「ミヤー、ミャー、ミャー」
「猫よ、ピンチな時の鳴き声よ! 私には分かる」
子ネコじゃ無い。でも、呼んでいる。助けなきゃ!
「ゼウス、場所分かる」
「(前方100メートルだ)」
「わかった。神装力ミニ開放 身体強化脚力 ピザ3切れ」
まってて、今行く!
速い。これが神装力なのね。
「う、何あれ、蛇ね。大きい、10メートルぐらい」
蛇なら手加減はいらない。
「神装結界日本刀」
さっき拾っておいたのよ。この棒を!
猫の敵は私の敵よ。しっぽを輪切りにしてあげたの。しっぽを巻いて……いえ、置いて逃げていったわ。
「大丈夫。怪我はない」
抱き上げて、そっと腕で包む。
胸と腕にあたたかさが伝わってくる。
ああ、やわらかい。幸せ。
「ありがとうございます」
ん?
腕の中の猫を見る。
まん丸お目々でじっとわたしを見ている。
猫よね? この子が喋ったのかしら。
しっぽを確認するが1本しかない。
二股ではないわね。
「もしかして、あなたは探求者様ではありませんか」
なんと、異世界って猫もしゃべるのね。びっくりよ!
「違うわ。ただの旅人よ」
「そうなのですか」
イカ耳! しっぽもしおれたーぁ。どうしよう。
「(エニシ、その子は『はぐれ神獣』だ)」
ん、端布真珠、何それ?
「上位者様!」
あれ、元気になった。
「(第一権限の猫か)」
「はい」
「(何年になる)」
「500年までは覚えています」
「(そうか、辛かったな)」
「ゼウス、わたしにも分かるように話しなさい」
「(この大陸の神獣は、自分の守るべき探求者を探さなければいけない。見つかるまで何千年でもだ)」
「そうなの?」
猫がわたしの腕の中で見上げていた。うるるしたまん丸お目々で! ズキューン! もうだめ。
「決めたわ、わたしがあなたの何とかになってあげる!」
「(エニシ、探求者だぞ、いいのか)」
「いいわよ、何千年も探していても見つからなかったんでしょう。かわいそうよ」
「(エニシがいいなら、おれは何も言わない)」
「うん」
「(ならば、契約だ)」
「どうやって?」
「(おれににその権限がある。この場でできるぞ)」
「わかった、ならおねがい」
「エニシ様ですね。本当によろしいのですか」
「いいわよ」
「ありがとうございます。うれしいです」
「(よし、合意はできたな)」
杖が光ったの。キラーって、
「(『ゼウスミルギア・テオス・ミューレーテタルトン』が命じる。契約の精霊よ。姿を現せ)」
変なのが出てきたの。ぬぼーとしたやつ。
「(契約の精霊よ、第一権限の神獣に契約の紋章を授けろ)」
また光ったの。魔法陣ていうのかしら、きれいな模様がわたしとねこちゃんを包んだの。
「(よし、ここに契約がなされた。第一権限の猫は第二権限の猫に神格した)」
「(第二権限の神獣よ、名をなのれ!)」
「はい、上位者様。私は、旅の探求者の守護獣『ローゼオエピカリス・アルモティア』旅の神獣です」
「(よし、エニシ、おまえのフルネームだ)」
「えーと、エニシが先でいいのかな? まあいいわ。私の名前は『縁・鼎』です」
不思議なことが起こったの。ねこちゃんが紅色だけど白銀に輝く、とても魅力的な姿に変わったの。
次話投稿は明日の7時10分になります




