019 森の生活 ⑤
フィリちゃんが伝える状況は緊迫している。
茅によく似たススキの群生地が北の森にある底なし沼だった。お猿さんたちはその事を知っていたの。
「わたしの責任だわ。この森は安全でも他の森は危険だという事をよく分かっていなかった。ごめんなさい」
「反省するなら猿でもできる。今は急いで現場に向かうぞ」
く、ゼウスのくせに……正論ね!
「試運転は無し、いきなり本番でいくぞ!」
わたしとロゼ、そしてフィリちゃんがバスに乗り込んだ。ゼウスは既に、運転席に座って……れないわよね。どうするのかしら。
「エニシ、お前が運転するときはこのハンドルで操作ができる。だが、おれの時は違う。そこのハンドルマークのボタンを押せ」
運転席の手前にあるパネルにハンドルマークのボタンがあった。それを押してみた。
なんと、ハンドルが自動収納されていく。そして、傘が入るぐらいの穴が現れた。
「エニシ、その穴におれを差せ」
傘差しに入れる感じでゼウスを入れる。
ドワン!
停電が復旧した時みたいにいきなり全ての計器の灯りがついた。
「バイオ相転移反応炉起動」
は……?
「エニシ、飛ばすぞ!」
なにを……?
バスが浮き上がったの。
フィリちゃんのエレベーターとは違う。
これは日本の乗り物の感覚よ。
地上から離れるときに、グワンと体が持っていかれる感覚がある。懐かしい。
「取りあえず時速100㎞位だな。発進!」
ゼウスがつぶやくと、ズシンと体が座席の背もたれにめり込んだ。これ知っている。加速している時の感覚よ。
「距離は約30キロメートル、ならば18分で到着だ。ゼフィリアそれまでもつか」
「うん、だいじょうぶ」
高速を走る車と同じ感覚よ。ただ、道路じゃなくて空の道だけど……。
下を見る。森が見える。
すごい、はっきり分かれている。
アルはんのいる森はカラフルなの。いろいろな自然が共存している感じよ。
北の森は葉っぱが針みたいな木がたくさん生えている。真っ黒い木も見える。枯れているのかしら幹と枝しかない。
「よし、見えた」
大きな池が見えた。いえ、空から見るとそう見えるだけ、沼なのね。
「あ、お猿さん達がいる」
沼に巨大な木が刺さっている。木の先にもじゃもじゃがある。まるで根っこみたい。そこにお猿さんたちが捕まっている。
「……あれ、フィリちゃんがやったの」
「うん、引っこ抜いてドボンと沈めたの」
ああ、蛇ワニが登ってこられないようにすべすべの木を突き刺したのね。
小さくても森の守護者。力はでたらめだわ。
「エニシ、どうする」
どういう仕組みなのかしら。空中でバスが止まっている。
「何で浮いているの?」
「ボクの力だよ」
はい、納得よ。
「で、どうする」
ふん、決まっているわ。成敗よ!
「フィリちゃん、背中に乗せてちょうだい」
「うん、いいよ」
「エニシ、この車はゼフィリアがいないと浮けないぞ」
「問題ないわ。わたしとロゼとフィリちゃんがいれば過剰戦力よ。ゼウスはドライブでもして楽しんできなさい」
何よその顔。嬉しそうね。
「遠慮なくそうさせてもらう。バイオ相転移反応炉の性能テストにはもってこいだ」
「フィリちゃん、ロゼ、行くわよ!」
ドアを開けて飛び降りる。
ふふ、こういうの一度やってみたかった。
パラシュートは背負っていない。でもわたしにいらないの。
「乗って!」
小さな背中にそっと足を降ろした。
でも、これってぬいぐるみを踏みつけているみたいだわ。ちょっとかわいそうな気がしてきた。この方法は要検討ね。
「さて、かわいい職人達をいじめる奴にはお仕置きが必要ね」
沼を見る。
ワニがいる。そいつが木の根元に大きな口を開けて待っている。
少し離れた水面から蛇のしっぽが出ている。どうやらこのしっぽで木を叩いているようだ。
なるほど、猿が落ちてくるのを待っているんだ。
それにしても気持ち悪い。ワニのしっぽが蛇みたいに長い魔物ね。あれなら沼地でも沈まないで動ける。
さて、蛇よね。手強いわ。それにあの顎強力そうね。
ただの蛇なら口を押さえてしまえばいい。
あの魔物はそれは難しそう。
「ロゼ、猫ならどうやってあれと遊ぶの」
「ジャンプして噛みつくことができない間合いを保ちながらジリジリと追い詰めていきます。隙を見て頭を猫パンチで潰します」
うわ、容赦ないわね。
魔物の大きさはしっぽを入れて10メートルって所ね。
お猿さん達がいる木はゆっくり沈んでいる。時間が無制限にあるわけではない。
「追い詰めている時間はなさそうね」
魔物の数は今は5匹ぐらい。でも、沼の中にもっといる。
これは、わたしの必殺技を出すしかないわね。
森で動物たちと遊んでいるときに何となく身についた事がある。
動物たちが運んで来る蔦の中におもしろい事ができるのが混じっていたの。
一つは『雷蔦』よ。まあ、わたしが適当にそう呼んでいるだけだけどね。これは、わたしの神力に反応して蔦から「ビリッ」という雷が出るの。
もう1つは『縄蔦』。もちろん名前は適当よ。この蔦はホースみたいにグルグル渦巻いているの。でも手に持って神力を流すとそれが一瞬で伸びるのよ。
そして手を離すと一瞬で元に戻るの。蔦自体も結構丈夫で簡単にはち切れない。
これ、捕獲用にもってこいなのよね。
「まずは雷蔦ね。確か木は電気をあまり通さないはず。ならお猿さんたちは安全よ」
ふふふ、鬼ごっこの成果を見せてあげるわ。
わたしは神装結界を足場にして空中を移動できるのよ。
空中で羽ばたいてい止まっている鳥さんを捕まえるにはこの方法しかなかった。
『神装力開放、神装結界『浮き板』発動』
半透明な紅色の板が空中にたくさん浮かんだ。
フィリちゃんの背中から飛び降りて板を踏み台にして空を移動していく。
ロゼもついてくる。
フィリちゃんはお猿さんのところに向かった。
1匹ずつ運ぶようだ。うん、そっちは任せた。
魔物達が怒っている。獲物を横取りされたと思ったのだろう。
しっぽを持ち上げ、激しく水面を叩く。泥が跳ね上がる。
それを結界の壁で避けながら進んでいく。
どんな生物でも頭がなくなれば動かなくなる。
でも、ここは未知の森。この子達がいなくなったときの生態系の変化が予測できない。自重は必要よ。
ふふ、これも天才君の受け売りだけどね。
電気で気絶させる。
「あの顎が邪魔ね」
『縄蔦』取り出し。
手に持つと、シュパッと伸びた。先端を頭に乗せて手を離す。
一瞬で巻き付き顎を縛った。
うん、完璧!
しっぽが空から降ってくる。邪魔よ。
猿の姿だとダメね。変身よ!
「神装力開放『多言語翻訳様』対象『猫族』発動」
「神力『猫の爪』ごま粒」
シュパッとしっぽが切断された。
ふん、どうせまた生えてくるんでしょう。
チェックメイト!
「『雷蔦』よ!」
容赦なく魔物の体に鞭を振り下ろす。
ビリビリビリ!
魔物の動きが止まった。気絶したのね。
様子をみていた他の数匹が襲いかかって来た。
「そっちから来るなら容赦はしないわよ」
猫爪を5本同時にシュパッと延ばす。
ロゼも両手の爪を伸ばしている。
一瞬で、しっぽがみんな輪切りになった。
他の魔物達のごちそうかな。
「『縄蔦』」
全部グルグル巻にしてあげた。
「『雷蔦』」
お仕置きよ!
ビリビリビリ!
お腹を上にしてプカンと浮かんでいる。
「へそはなさそうだけど……へそ天ね。でも、かわいくないわ」
やっぱりロゼのへそ天が一番かわいい!
チラッと、残っている魔物を見ると慌てて潜っていくところだった。
「ふふふ、逃げるなら見逃してあげるわ」
「エニシ、お見事です」
ロゼに褒められた。うれしい!
「お猿さんは全部運んだよ」
フィリちゃんがフワフワ浮きながら近づいてくる。
こっちもかわいい! うん、幸せ。
キーン。
ゼウスの車ね。ああ、わたしの専用車か。
なにか、かわいい名前を考えないとね。
沼地にはススキみたいな草がたくさん生えていた。
名前を確認すると『防水茅』……うん、まんまね。
ロゼが爪で根元から切断して、それを銘柄指定で収納に放り込んでいく。いろいろ使えそうなので大量に収納しておいた。
これでも全体のほんの一部しか採っていない。生態系に変化は出ないだろう。
さて、帰って屋根葺きをしましょうか。
それで家の完成よ。
次話投稿は明日の7時10分になります




